JAの活動:築こう人に優しい協同社会
【乗り越えようコロナ禍 築こう人に優しい協同社会】JA全青協元会長緊急座談会「困難時こそ生を結ぶ農を実感 命守る協同の意義を内外に」(1)2021年7月27日
人は、「人」との関係のなかで「人間」となる。コロナ禍は、そのつながりを遮断した。社会生活への影響が大きく、とりわけ組織活動を基本とする協同組合運動には致命的と言える。JA青年組織の役員として第一線で活躍し、いまは農業に従事しながら、現場でJA運動に汗を流すJA全国青年組織協議会(JA全青協)の元会長に、コロナ禍のいま、何をするべきかを聞いた。(司会・進行は文芸アナリストの大金義昭氏)
【出席者】
天笠淳家 群馬県・JA太田市代表理事組合長
黒田栄継 北海道・芽室町会議員
飯野芳彦 埼玉県・飯野農園代表
司会・進行 大金義昭氏(文芸アナリスト)
心のゆとり農業と直結
――コロナ禍が世界的に拡大し、グローバル化した経済・社会が未曾有の混乱に陥っています。長い目で見ると、この局面は文明史的な転換期に当たっていると言ってもいい。そこで、これまでと何が変わり、何が変わらなかったのか。「農と食」の現場に何が起こっているのか。できるだけ現場の視点から検証できればと思っています。
そして、私たちが積み上げてきた「農と食」や「いのちと暮らし」を巡る「協同活動」の「基本的な価値」を問い直してみたい。また「アフター・コロナ」を視野に入れ、新たな地域社会をどうつくり直していくのか。そのために、協同組合であるJAはどんな役割を果たしていくべきなのかということで、JA全青協会長を務められた後、それぞれの立場でご活躍の3人に急きょ集まっていただきました。
早速ですが、黒田さんから始めていただけますか。
渦中で考えたこと
黒田栄継
北海道・芽室町会議員
黒田 農業の生産現場から言えば、コロナ禍による、仕事上の滞りはありませんが、私たち農業者は、消費者に何を届けるかを常に考えています。それは「食」を介して誰とどのようにつながるかという関係であり問題ですね。
このつながりがコロナ禍で否定された。普段であれば親元に帰省した子どもたちに、親は自分が作った農産物を食べさせ、幸せを感じてもらう。コロナ禍のために子どもたちに「帰るな」と言わざるを得ないのは、とてもつらい。こういう事態に直面すると、私たちは普段から、農産物によっていかに生かされてきたかということをつくづく感じますね。
コロナ禍による農業への影響は、品目によって異なりますが、消費の落ち込みで農産物が売れなくなっています。この傾向が続くと価格が下がり、大変なことになるのではないかと心配しています。
――緊急事態宣言やまん延防止等重点措置、外食自粛などが繰り返され、飲食業や観光業を中心に大きな打撃を受けています。消費支出や食料消費も落ち込んでいます。
天笠 人の動きが止まりましたね。仲間と飲む一杯の酒がいかに大事で、ありがたいか。コロナ禍でよく分かりました。いま私の地域では、農家の経営体がどんどん中規模から大規模化し、法人化しています。このために農業をする人が減少し、人と付き合う交流の機会が、余計に少なくなっている。
自分の田んぼを委託に出して営農をやめた農家との新たなパイプづくりが必要なのです。また、コロナ禍による直接の影響は、学校給食が止まり、牛乳が売れなくなった酪農家、冠婚の自粛で花農家などを直撃しています。
飯野 緊急事態宣言が出た昨年4、5月には、直売所が買いだめの客でにぎわいました。しかし夏以降は外食自粛で野菜需要が停滞しています。そのとき思いましたね。これまでの外食需要はいったい何であったのだろうかと。「消費」ではなく「浪費」だったのではないかということです。停滞した現在の「消費」が、実は本当の「消費」だったのではないかと考えさせられました。
また、ウーバーイーツや宅配など、新しい形態の需要が注目されていますが、これに生鮮野菜がどこまで食い込めるか。もう一度、消費者としっかり向き合い、「アフター・コロナ」の「消費」について議論する必要があると考えています。ただ、そのための議論の場づくりができていません。
黒田 北海道では、小豆の需要が落ち込みました。観光地の土産品の主流を占める和菓子類などには、小豆のあんこがつきものなのですが、その需要が止まりました。観光は、人の心にゆとりがあってできるものです。コロナ禍で小豆が売れなくなったということは、人びとの心に余裕がなくなったということであり、このことは、これまで農業が、心のゆとりや幸せを消費者に届けてきたのだということを改めて気づかされました。
誇りを持ち居場所創造
ピンチを逆手に「改革」
――農業が人と人との多様なつながりを支えてきたということですが、コロナ禍で突然遮断された。消費者との関係では、どのように再構築しますか。
天笠淳家
群馬県JA太田市代表理事組合長
天笠 昨年3、4月に直売所の売り上げが伸び、新しい消費者の流れが生まれました。直売所はマンネリ化した運営から、次世代の利用者を増やす改革のチャンスですね。また、農協の組織運営は「対話」が基本ですから、コロナに感染しない方法で「対話」活動を展開する新たな仕組みを開発していくことも重要です。
コロナ禍で、若年層の家庭菜園も増えています。この新しい傾向に対して、農協は何ができるのか。私の農協ではこの間に、野菜が身体の免疫力を高めることを、ツイッターなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使ってアピールしてきました。
飯野 地元JAの2020年度決算を見ると、信用・共済など、事業量はすべて落ち込んだものの収支は黒字でした。農協の地域活動が縮小し、訪問活動など外勤を伴う仕事がストップして、その経費が減少したからです。しかし、コツコツやっているJAの訪問活動は、協同組合にとって経営上からも大変に重要です。
この決算から分かったことは、いかに農協経営にとって訪問活動と「対話」が重要であり、多くの地域貢献活動をこれまでコツコツと行ってきたかということです。コロナによって中断した活動を再開するとき、従来通りの活動をするとともに、今までと違う方法にチャレンジできるような環境を整えることも重要になってくると思います。
地域ぐるみで新たなパイプを
――地域の集まりやイベントも影響を受けています。いまコミュニティーはどうなっていますか。
黒田 農家は厳しい環境のなかで生きてきたので、「助け合い」がいかに大切かということを知っていますが、この状態が続いて、集まらないことが当たり前になるのが怖い。
コロナ禍に対して、人口が密集した都市で暮らすよりも、『三密』になることが少ない田舎の方がずっと恵まれている。これは当然ですが、私たちはその環境・条件に甘んじるのではなく、人びとにいまできることをやらなければと思っています。
天笠 子どもたちが喜んでいた地域祭りや農協祭りなどが全部中止になりました。お年寄りが楽しみにしている「年金友の会」の活動もストップ。なくなってみて初めて、ふだん当たり前だと思っていたさまざまな活動が、地域の人たちにいかに大きな満足を提供していたかがよく分かりました。農協の価値を再認識する機会になった。特に、農協の職員がそのことを強く感じたのではないか。
飯野 冠婚葬祭も変わりました。なんとか続けたいという人は、やり方をフルイにかけ、必要なものと不必要なものとを取捨選択してやっている。
協同組合の存在意義
――農協が誕生して70余年。政府の「農協改革」に翻弄(ほんろう)されるなど、あらためてその存在意義が問われています。かねてからの「自己改革」はもちろんのこと、特に、コロナ禍は協同組合の基本的な価値を問い直すチャンスではないかと思うのですが。
黒田 いわゆる「農協改革」の渦中で、「なぜこの組織は存在するのか。農協のこの事業は、何のためにやってきたのか」とあらためて考える機会になりました。青年部時代も、そんな思いを抱えて議論した。当たり前のようにやってきた農協の活動や事業を、「なぜ必要なのか」と問い直すことは大事ですね。
天笠 時代の流れのなかでも、問われているよね。農協の事業も、環境の変化によって必要がなくなったものもあるように思う。マイナス金利で、いま農協は厳しい経営状態にあるのですが、コロナ禍がこれを浮き彫りにしました。組織維持には、必要な事業と需要が低くなってきた事業とをしっかり見極め、取捨選択する必要があります。
しかし、農協は農業者の組織です。農業協同組合の看板を掲げる以上は、農業をしっかり守っていかなければなければならない。
一方、デジタル化が進むことで人間の「居場所」がなくなる恐れもある。職員には常に自分の「居場所」をしっかり確保するように、業務の改革や刷新を唱え、人材確保と役職員の意識改革を目指してきました。人は「守り」に入ってはだめですね。自分の守れる範囲を守るのがデジタル化ですが、「居場所」づくりは、デジタル化できないことを創造的に考え、取り組んでいくことだと思っています。
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