JAの活動:築こう人に優しい協同社会
【乗り越えようコロナ禍 築こう人に優しい協同社会】JA全青協元会長緊急座談会「困難時こそ生を結ぶ農を実感 命守る協同の意義を内外に」(2)2021年7月27日
【出席者】
天笠淳家 群馬県・JA太田市代表理事組合長
黒田栄継 北海道・芽室町会議員
飯野芳彦 埼玉県・飯野農園代表
司会・進行 大金義昭氏(文芸アナリスト)
分断許さず多様性尊重
――その話は、農協の「居場所」づくりにも重なります。小手先ではなく、天笠さんが唱える「組合員の組合員による組合員のための事業運営を目指す」ということでしょ。10年先を考えた農協の「居場所」づくりです。
飯野芳彦
埼玉県・飯野農園代表
飯野 これからの組合員が支える地域農協は、小・中規模家族経営、法人経営など規模も経営方針も多様化することになると思います。これをどう束ねていくかが、農協に問われる。家族経営と大規模経営が求めるものは真逆なこともあるけれど、お互いが歩みよって共有できる「一致点」を見出し、手を組む必要がある。みんなが小規模家族経営で、協同しながら経済的・社会的地位の向上を目指してきた時代とは異なる新たな「一致点」です。違いを認め合い、相互に尊重し合って手を組み合わないと地域社会が崩れ、農協も崩壊してしまう。
――組織や地域での分断を許さないというのが「協同」の意味や意義でしょうが、『自分ファースト』をどう乗り越えますか。時流は「今だけ・金だけ・オレだけ」が主流になっている。
黒田 「大規模一辺倒」はあり得ませんが、いわゆる「農協改革」のときに「農業者の所得向上」について、規模拡大は「協同の理念から外れる」と評した識者がいました。しかし、農業者は、経済のことを考えずに理念だけでは生きられない。二宮尊徳のいう「道徳のない経済は犯罪であり、経済のない道徳は寝言」です。
多様化に対応できる農協であってほしい。「隣の経営がつぶれると、自分の経営にプラスになる」というような時代ではない。私たちには国民に食料を供給するという大きな目標があり、だから「協同」できる。
いつでも再挑戦できる環境を
――多様な担い手によって成り立っているのがコミュニティーであり、多様な生産者を巧みに束ねていくのが農協の課題ということですか。
飯野 農協は「トライ・アンド・エラー」ができる環境・条件をしっかりつくる必要があります。「自己改革」は役職員だけのトライだった。これに組合員のトライが合流し、仮に組合員が失敗しても、その原因を分析して再挑戦できるような環境・条件をつくることが必要です。女性の経営参画や組合員の格差解消の取り組みも同じことですね。
多くの会社を設立した渋沢栄一は、一方で多くの会社を潰している。しかし残った会社は立派に続いている。組織はしばしばエラーを隠そうとするけれど、エラーを許し、そこから学んで前進するチャンスを共有するのが協同組合ではないか。
黒田 男女共同参画の話が出たけれど、現在の運動にはいささか違和感があります。男性がやっていることを、女性も同じようにやるという「上から目線」のようなものを感じる。この「上から目線」を変えないと、本当の共同参画にはならないのではないか。
農作業でも、体力を使わないトラクターは男性が運転し、女性がきつい補助労働という場面も多く見受けられますが、これはおかしなことですね。農協理事の進出でも、過渡的に女性枠を設けることは分かるけれど、農業経営者として参加する資質も女性には求められる。
また、女性参画が、自分たちのメリットにもなるのだということを、男性はしっかり理解しなければならない時代です。国民に大事な「食」と「農」が主題なのだから、男女の固定観念にとらわれないようにしたい。
仲間づくり男女差なし
「農と食」を介して
――コロナ禍は、命を守ることがどれだけ大変なことかを教えくれた。農協の果たすべき役割はどこにありますか。
天笠 大事なことは、国民の食料をつくっているというプライドをもって仕事をすることですね。私たちには国民の命を守る責務があります。
黒田 あらためて、人と人とのつながりづくりに生きる意味があるということを、未来に生きる世代に継承していかなければならないと思いますね。僕の畑は自分のものではなく、未来の世代からの預かりものなのです。「使命」は、私たち農業者が種をまくように「命を使う」ことですからね。
飯野 大きな災害に見舞われると、人のつながりや「協同」の大切さがよく分かります。世の中にはお金で解決できることと、それだけでは解決できないことがある。貧しかった戦後の先人たちはお金がなく、すべて「協同」でこなしてきた。その後、多少豊かになってお金で解決できることが増え、お金ですべてが解決できるように思い込んでしまったようです。
組織は小さいほど「協同」の理解が行き届き、その積み重ねによって、地域全体で命を守る。その命でつくった農作物が、食料を守ることにもなる。見て見ぬふりを少しでもなくすような努力が、地域農業を協同によって持続・発展させることにつながる。小さな協同の積み重ねが大事だと思う。
「ギブ・アンド・ギブ」ですね。やみくもに見返りを求めない。置かれている立場や時間でできることをする。昔のコミュニティーは「人さまのために」と、鎮守の杜(もり)の清掃など奉仕活動に熱心だった。そんな豊かな心を次の世代に引き継ぐ必要があります。
花開く未来の種を継承者に
大金義昭氏(文芸アナリスト)
――最後に、この秋に予定されているJA全国大会などについて、何かご意見がありませんか。
黒田 JAの「自己改革」には現場の声が重要です。そして組合員自身の「自己改革」こそが、JAの「自己改革」の基本にならなければと考えているのですが、なかなか画期的な方法が見つからず、結局、仲間と語り合う場づくりから始めています。JA改革は、その必要性に気づいた者が、自ら進んで取り組みはじめるしかないのかもしれない。
天笠 JA改革を自分のこととしてとらえた組合員や役職員がどれだけいたか。政府の「農協改革」はJAの弱体化を狙ったものでしたが、それは組合員の意見ではなかった。農業や農協の将来ビジョンを提案できる組合員が必要です。
農協がなくなって、初めてその必要性に気づくようなことにならないように、私は農協の常勤役員になってから、1年に1回だった集落座談会を半期ごとに開催するようにしました。組合員と正面から向き合い、思い描く農協の姿を形にしていこうと思っています。
黒田 地元JAの組合長は若く、49歳の農業経営者です。理事に推薦するときに、自分の所の農業をどうするかという問題が出ました。地域で話し合って、みんなでフォローすることになりました。「出したい人を出す」ためには、そうした環境・条件づくりが大切です。
――いずれの話も「思いを言葉に、言葉を形に」ですね。天笠さんには、組合長としてJA全国大会への期待を。
天笠 「持続可能な経営基盤強化」を打ち出していますが、やっぱり「組合員の組合員による組合員のため」の組織維持大会にしたいですね。
飯野 「モノいう組合員」が増えないと改革もできず、農協の組織も守れません。誰からも文句をいわれたくないと思ってしまったら、組織は続かないのではないか。しっかりしたモノが言えるのは農協青年部であり、また改革の必要性に気づいた人が第一声をあげる。それが組織の維持・発展には最も重要なことではないかと思っています。
――「協同組合」であるJAを一歩でも前進させ、「だれひとり取り残さない」「人に優しい協同社会」を実現するためには、皆さんのように有言実行のメンバーが力を合わせ、「アクティブ・メンバーシップ」を活性化していく以外にないのかもしれませんね。コロナ禍のただ中にお出かけいただき、大変ありがとうございました。
座談会を終えて
3人には以前に座談会でご一緒している。しかし、そろい踏みの会談は初めてだった。会談には、JA青年組織時代に築いた信頼関係があふれていた。「戦友」の志を分かち合っているからだろう。転換期をけん引する頼もしいリーダーとして健康に留意され、それぞれの茨の道を果敢に切り拓いていっていただきたいと願うばかりだ。
(大金義昭)
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