JAの活動:築こう人に優しい協同社会
【乗り越えようコロナ禍 築こう人に優しい協同社会】現地ルポ:愛媛県・JAひがしうわ兵頭仁志組合長に聞く 担い手育て 生命育む産地づくり-人と自然の夢づくり2021年7月28日
JAひがしうわ(東宇和農業協同組合)は愛媛県南予・西予市の大半を事業エリアとする農協である。昨年度に始まった「第3期農業振興計画」は「担い手を育て、生命(いのち)を育む産地づくり」と題し、とくに担い手育成に力を入れている。その先頭に立つ兵頭仁志代表理事組合長にインタビューした。(聞き手・構成:村田武・九州大学名誉教授、椿真一・愛媛大学農学部准教授)
兵頭仁志東宇和農業協同組合代表理事組合長(JA全農愛媛県本部運営委員会副会長)
――まず、20018(平成30)年7月の西日本豪雨災害からの復興状況をお聞きします。
兵頭 野村ダムの緊急放流でキュウリ・ナス共同選果場が3メートルも浸水しました。夏秋キュウリの出荷が最盛期を迎えるなかで、選果能力16.8トン(日量)がすべてストップし、100戸近いキュウリ農家には農協職員30人が応援に入って各農家で選別出荷してもらいました。選果機の復旧には丸半年がかりで、8000万円の経費負担になりました。
また、野村は四国随一の酪農地帯です。野村ダム直下の変電所の水没で、30時間余りの停電で、42戸の酪農家のうち自家発電機で対応できたのは3、4戸でした。大慌てで町内土建会社の発電機などを借りて搾乳機を何とか動かしましたが、バルククーラー冷却までは手が回りませんでした。生乳100トン余りが廃棄の憂き目をみました。現在では、酪農家すべてに自家発電機を設置しています。
さらに深刻だったのが、野村町の浄水場が水没し、丸10日間も断水したことです。乳牛は1頭が1日に100リットルも水を飲みます。県酪連の集乳車に松山の本社工場で水を詰めて給水を続けました。
――新型コロナウイルス禍のもとで、どのような問題が発生しましたか。
兵頭 昨年3月の突然の学校休校措置では、給食用牛乳の処理がたいへんでした。松山市の生協やスーパーの店舗で割引販売してもらったり、農協や市の職員にも買ってもらいました。また、肉牛枝肉価格の下落や、花きの売り上げ減少の被害を受けました。
コロナ禍後の生活意識の変化に対応
――コロナ禍後の社会をめざして、農協が今、一番力を入れていることはどのようなことですか。西予市で農協がどのような存在でありたいと考えていますか。
兵頭 JAひがしうわは「四国西予ジオパーク」の認定を受けた多彩な地形や景観を生かそうと、経営理念に「人と自然の夢づくり―青い空、碧(あお)い海、豊かな大地を守り、環境に優しい多彩な生産と地域社会の発展につとめます」を掲げています。
そのうえで、経営方針を、「1.安全・安心な食料の提供と担い手の育成・支援、2.経済事業の改革、3.地域社会への貢献、4.経営の健全性確保と人づくり」としています。
コロナ禍は、人々に「これまで家庭を顧りみなかった状況を変えよう。家族との日々の暮らしをもっと大切にしよう」という意識を生み出しているように感じます。「家族中心の生活様式」の再生です。これに応えて、われわれは持続可能な農業とJAづくりに全力をあげなければなりません。
西予市の管家(かんげ)一夫市長も「西予市は第1次産業が中心の中山間地域だ。市民の生活を守るには、農業所得・農業生産のアップが不可欠であって、西予市を支えるのはJAだ」といってくれています。行政とJAの連携がポイントになります。
今年度は、「第3期農業振興計画」の2年目ですが、同時に「第7次中期計画」の最終年度です。愛媛県JAグループの「組織整備研究会」は今年12月の「JA愛媛県大会」に全県JAへの合併も視野に入れた提案を行う予定です。そうした動きもしっかり捉えて、JAの経営基盤の確立に力を入れなければならないと考えています。
JA直営酪農場の建設をめざす
――大胆な目標数値を掲げた「第3期農業振興計画」の進捗(しんちょく)状況をお聞きします。
兵頭 「担い手を育て、生命(いのち)を育む産地づくり」をスローガンにしています。国の農政には、農産物価格の安定や家族農業の経営を守り、自給率を引き上げようという観点が弱すぎます。手をこまぬいていれば、農業後継者難と高齢化による離農や耕作放棄地の拡大を抑えられません。そこで、「第3期農業振興計画」では、第1課題として、5年間で「50人の新規就農者確保」という目標を掲げました。
まずは、野菜部門では、民間業者が撤退したハウス(約1ha)を買い取り、直営農場「JAひがしうわ農業センター」とし、2人の職員を配置しました。トマト・キュウリ・イチゴの栽培を開始して2年目です。これに新規就農研修生を受け入れています。経営のめどが立ってきたので、速やかにJA出資型農業法人化をめざしたいと考えています。
畜産部門での新規就農者の育成も農家まかせにはできません。JAひがしうわは、標高1200メートルの大野ヶ原に旧野村町が1974年に開設してくれた子牛育成牧場の管理を担っています。私はJA職員として開設時の育成牧場の管理担当者でした。生後6カ月から2年の子牛の預託(現在は160頭)を受けることで、酪農家をバックアップしています。場長と職員合計5人ほどで運営しています。
さらにぜひとも早急に実現したいのが「JA直営酪農場」です。野村産牛乳の生産量を落とさないためには、JAが酪農場を直営する時代がきたと考えています。野村産牛乳は消費者から高い評価を得ています。同時にこの直営牧場が酪農新規就農者研修牧場としての役割を担うことで、「50人の新規就農者確保」という目標の達成に向けてがんばりたいと考えています。
「営農組合」で耕作放棄地管理
――「耕作面積2300haの維持」が目標になっていますね。
兵頭 管内でも宇和平野など平たん地は、20~30ha規模の担い手農家に任せておけばいいのですが、農山村の谷筋の水田は放棄が進んでいます。集落営農で集落の農地全部を管理できればいいのですが、そうもいかない場合にどうするか。私の実験を話しましょう。私は野村町のわずか14戸という小さな芒原(すすきはら)という集落で、水田60アール、ユズ60アール、野菜20アール(うち10アールはハウス)を経営しています。
この集落で3年前に地権者が2戸の合計30アールの耕作放棄田が出ました。そこでこの放棄地を管理するためにメンバー5人の「芒原営農組合」を立ち上げ、ニンニク、タマネギ、水稲を栽培しています。私が営農組合長です。他のメンバー4人は、私より若い60代です。さらにこの営農組合で芒原機械利用組合を立ち上げ、コロナ対策の経営継続補助金を利用して3条刈りコンバイン(500万円、うち助成金340万円)を導入しています。
汎用収穫機
このコンバインで集落農家の水稲収穫の作業受託も行っています。こうした機動的な営農組合で耕作放棄地の管理ができることを広げたいと考えています。
国内産消費を拡大し自給率向上を
――国の農政について意見がありますね。
兵頭 愛媛県は裸麦の全国トップの産地です。過去余り作柄が良くなかったので問題にならなかったのですが、この2年続きの豊作で問題がいっきょに浮上しました。麦作助成金の支給が全農愛媛と実需者の販売契約済みであることを条件にしているために、2020年産の販売契約が生産量に追いつかず、生産農家への助成金支払いが滞る事態になりました。全農愛媛は年度末までに全量の販売契約を何とか取り付け、事なきをえました。
麦類の用途を食用・食品加工用に留めず、食料自給率の引き上げを農政の目標とするかぎり、飼料用など他用途での販売も認めて当然ではないかと考えます。国は農産物輸出の拡大に熱中するよりも、国内産の消費を拡大する、すなわち自給率を上げる農政に立ち返るべきではないでしょうか。
畜産農家100戸堅持―酪農経営の減少を食い止める
「野村コントラクター組合」代表の那須秀樹さんに聞く
左 那須秀樹さん(51歳)搾乳牛22頭・繁殖和牛(母牛7頭)。酪農学園大学を卒業した息子(24歳)がこの6月にUターン。搾乳牛60頭・和牛母牛18頭に規模拡大するために畜舎を新築中
右 宮内友也さん(36歳)JAひがしうわ畜産部酪農課職員、コントラクター組合事務局。
――「第3次農業振興計画」では、畜産農家100戸の堅持をめざして、飼料作の増産による管内飼料自給率の向上を目標にしている。それを担うのが「コントラクター組合」である。宇和平野では耕種農家の水稲・WCS稲・麦の刈り取りとラッピングを行い、畜産農家に粗飼料を販売する。野村町では、畜産農家の飼料作(デントコーン・ソルガム)やWCS稲の刈り取り・ラッピングを受託し、受託料を請求する。
トラクター・ラッピングマシーン
那須 コントラクター組合のスタートは2013年に組織された「東宇和コントラクター研究会」です。現在では、汎用収穫機1台とトラクター・ラッピングマシーン2台で、50戸の畜産農家から合計80~90ヘクタールのデントコーンとソルガム、WCS稲の刈取り・ラッピング作業を受託しています。
7月中旬から12月初めまで続く作業には、熟練の要る汎用収穫機に3人、ラッピングマシーンに4人を配置しています。畜産農家には、飼料収穫を委託でき、良質の飼料を確保できることを喜ばれています。汎用収穫機は1台2000万円、トラクター・ラッピングマシーンも1台1000万円します。高齢化のもとで畜産農家単独ではとても投資できません。私自身が畜産農家として、コントラクター組合はますます充実すべきだと考えています。
取材を終えて
私は、本紙の昨年8月6日号(※参照)で、「若手農業者が行動起こす」と題して、JAひがしうわの若手稲作農家2人と畜産農家2人の座談会を掲載した。そこでは、新規就農者づくりを農協任せにしないと、繁殖和牛経営の「臨時ヘルパー組合」を立ち上げ、野村高校畜産科の新卒者にヘルパーとしての技術を習得させる取り組みを聞くことができた。そうした組合員の努力に依拠しながら、担い手育成に本気に取り組むJAひがしうわの先頭に立つ兵頭仁志組合長の思いを聞くことができた。また、畜産を担う那須さんにコントラクター組合の存在意義を確認することができた。(村田)
(JAの概要)
JAひがしうわは1997(昭和62)年に愛媛県南予の旧東宇和郡の4農協が合併して誕生している。宇和海沿岸の明浜町はかんきつ産地、宇和町は内陸盆地宇和平野(約1000ha)の愛媛県下で知られた良食味米「宇和米」産地。野村町と城川町は酪農・肉牛に加えて、野菜。山村の城川町はユズや栗の産地である。標高0メートル(宇和海はかつて九十九里浜、長崎県五島列島にならぶ日本3大イワシ漁場の一つ)から1400メートル(四国カルスト)という多彩な地層や地形で、2013(平成24)年には「四国西予ジオパーク」の認定を受けている。
正組合員4446人(4155戸)、准組合員9060人(3670戸)で、正職員151人、2020(令和2)年度の農産物販売高48億7400万円のうち酪農が16億5300万円、肉牛が15億2400万円と畜産物の販売高が65%を占める。
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