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JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会

【提言】今日の経済社会を立て直す協同組合運動を 内山節(哲学者)【第29回JA全国大会特集】2021年10月20日

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コロナ下で格差拡大が広がっている。新自由主義的な結びつきのない社会をつくりだしたのが一因ともいえる。このような中、哲学者の内山節氏は「今日の経済社会を立て直す協同組合運動が必要だ」と提言する。内山氏に寄稿してもらった。

内山節先生内山 節(哲学者)

コロナ下の日本は、この社会がもっている脆弱(ぜいじゃく)性をさらけ出した。感染が広がりはじめたとき、はじめにマスクやアルコール消毒液の不足が顕在化した。その頃日本で売られていたマスクのおよそ7割が中国製だった。つづいて国内でのワクチン開発の遅れが問題になり、製造業では半導体や部品不足から操業停止に追い込まれる工場が続出した。その原因もまた、海外での生産に依存している生産体制が招いたものだった。

これらはすべて、グローバル化がもたらした問題だと言ってもよい。基礎的な物質までもが、国内で生産されていない。しかもそれらは、ときに政治的な道具として使用され、世界のパワーゲームの手段にされていくのに、である。

さらにコロナの感染拡大はシングルマザーや非正規雇用で働いている人たちを直撃した。新自由主義的な政策によって格差社会が拡大し、しかも自己責任という言葉とともに結びつきのない社会を生みだしていたことが、このような現実をつくりだしたと言ってもよい。企業の利益だけを追求するグローバル化や新自由主義的な経済政策の推進が、コロナによって追い詰められた人々を大量に発生させてしまったのである。

これらの現実は、利益を追求するだけのグローバル化や新自由主義的な経済が、危機をいかに拡大するのかを明らかにした。とすれば、この事態は、より強靱(きょうじん)な社会を再構築するためには、野放図なグローバル化から循環的な経済社会へ、新自由主義から連帯経済への転換が必要だということを教えている。

農村が原点 連帯の営み

ところで、この循環経済や連帯経済の原型は農業、農村にあったということができる。自分たちを包む自然を活用しながら、農業は自然を収奪しない産業のかたちをつくりだしてきた。その地域における自然の営みと人間の営みが調和してこそ、農業は持続の基盤を確立する。それはひとつの循環経済のかたちである。とともに農業は農村で営まれ、その地域のなかに営みの循環を生みだしてきた。そしてそれは農村にさまざまな連帯基盤を形成させた。

稲作地帯では共同的な水管理が生まれ、山には共有地や入会地がつくられていった。いろいろな講組織が生まれ、結いの仕組みもつくられた。農業、農村における連帯経済は経済だけで成立したのではなく、農村の社会システムと一体となることによって形成されたのである。

世界最古の「農業協同組合」は、江戸時代に大原幽学を指導者として生まれた千葉県の一地域の農民の活動にあったと言われるが、そういう活動を生みだす基盤を伝統的な農業、農村はもっていた。協同組合の基盤をもつ社会があったからこそ、協同組合は社会のなかに定着することができたのである。

現在の私たちの課題は、グローバル化や新自由主義的経済に対抗できる、危機に際しても人々を守れる経済社会をつくることなのである。

とすればそれは、協同組合の精神とともにあるものだと言うことができる。言うまでもなく協同組合は、「一人がみんなのために、みんなが一人のために」という精神とともに展開してきた。

経済はつねに複合経済として成立している。資本主義の時代にも、資本主義とはいえない家業的な商業も存在するし、伝統的な職人仕事も残りつづける。資本主義とは異なる原理、原則で動く協同組合も展開する。決して資本主義一色になるわけではない。

だが資本主義の主導権が強まれば、非資本主義的な領域も変質を余儀なくされ、解体を迫られるようになる。そしてそれは現在の事態でもある。ゆえに今日では、家業的な商店が閉店に追い込まれ、地域とともにあった職人たちも廃業させられていく。そして協同組合に対する攻撃も強まっている。農協の実質的な解体をめざす動きなどが、資本主義の側から推し進められようとしている。

この歯車の動きは逆転させなければいけない。まずは健全な複合経済のかたちに戻すことが必要だ。資本主義とは異なる原理で動く経済を強化し、そのことによって横暴な資本主義に歯止めをかけることがいま求められているのである。

資本主義は、企業の論理、経済の論理だけで動いていく。だから利益のためには非正規雇用などの低賃金労働者を増やし、今日温暖化が問題になっているように、環境を破壊することも平然とやり続けてきた。農山漁村の過疎化を招き、都市では人々を牛馬のごとく働かせる社会をつくった。その結果は子育てができない社会であったり、孤独な高齢者が堆積する都市であったりしたが、それは企業や経済の利益追求の絶対化が招いた結果でもあった。

経済は利益の追求だけを考えてはならず、社会を支え、人々の暮らす世界を守る経済でなければならない。経済だけを自由に活動させてしまえば、経済は利益を求めて暴走する。そしてそれが今日の日本や世界をつくっている。

振り返ってみれば協同組合運動は、それもまたひとつの経済活動であるとともに、社会づくりの活動でもあった。江戸時代に大原幽学がつくった「農業協同組合」は、農地や農具の共同利用などを通して農民の経済的向上を図ったという点では新しい経済のあり方をめざしたものであったが、それは農村づくりの活動でもあった。

このかたちは戦後の農協運動にも引き継がれ、一方では農民の経済的向上を追求しながら、同時に暮らしやすい農村、有機的に結ばれた農村づくりが農協の課題でもあった。すべての人々が連帯し、助け合える社会をつくろうとすれば、経済もまたその動きと結ばれたものでなければならない。

ともに生きる社会づくりを

今日の協同組合に求められているものは、協同組合運動を通して資本主義の暴走に歯止めをかけ、私たちの社会を支え合い、ともに生きる社会に変えることでもある。だからそれは経済活動であるとともに社会づくりの運動でもある。

そしてこのような活動をすすめようとするなら、今日の協同組合には、自分たちの組織だけで活動するのではなく、横暴な資本主義に歯止めをかけ、ともに生きる社会をつくとするさまざま動きとの連携、連帯が求められていると言わなければいけない。

さらに農業のあり方としても、大規模農家とともに小農を大事にする農業対策も必要になるだろう。なぜなら農村を守り、助け合える地域を維持する上では、小農が果たしてきた役割もまた大きなものがあったからである。

とともに、経済的循環のかたちも変わってきている。一昔前の社会なら、地域内で循環が成立していればそれで十分だった。だが今日では、直売をとおして生産者と広い地域の消費者の支え合うかたちが生まれているように、広域的な循環経済もまた形成されている。

台湾のパイナップルを中国が輸入禁止にしたときには、台湾の農民を支えるために日本の消費者が台湾産パイナップルを購入するという動きも発生している。もちろんそれを中間で支えた輸入、小売業者もいる。このような国境を越えた支え合いも生まれているように、これからの連帯経済、循環経済がどのようなかたちをつくったらよいのかも、私たちは検討していく必要性があるだろう。

この二十年くらいの間に、私にはずいぶん変わってきたと感じられることがある。学生が就職先を探すとき、地域づくりに貢献できる仕事とか、社会や人々に役立つ仕事をやりたいという人がふえてきた。ふえてきたと言うより、多数派になっていると言ってもよい。

だが今日の資本主義の下ではそのような仕事は簡単にはみつからないから、就職しても短期間で離職する人や、地方への移住を考える人、起業する人などが多くなった。

横暴な資本主義にうんざりしている人々は、いまでは社会のなかに増えつづけているのである。第29回JA全国大会が、このような状況の下で開催されるのは意義深いことである。農業、農村を守り、現在の資本主義のあり方に異議を申し立てる。社会を破壊する今日の経済から、すべての人々が安心して暮らせる社会をつくるための経済を創造する。この課題に応える力が、農業、農村を基盤とする協同組合にはあるのだと私は思っている。

特集:コロナ禍を乗り越えて 築こう人に優しい協同社会

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