JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会
【第29回JA全国大会記念座談会】協同と共生を力に JA全中中家会長 日本労協連古村理事長(下)2021年11月1日
第29回JA全国大会は「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」をテーマに掲げた。農業振興はもちろんのこと、多様な人々が暮らす地域を持続可能な形で元気にしていくことが、この国の未来のかたちをつくる。その実現に向け「協同」の力をいかに発揮するか。中家徹・JA全中代表理事会長、古村伸宏・日本労働者協同組合連合会理事長、村上光雄・農協協会会長に大会を控えて話し合ってもらった。司会は文芸アナリスト・大金義昭氏。
日本労協連理事長 古村伸宏氏
「働く原点」を見据え
大金 「小さな協同」というお話がありましたが、ワーカーズコープもそれをやってきましたね。JAグループとは、どのように接点をつくることができますか。
古村 「協同労働」という働き方は、新しいというよりも「原点に回帰する」意味合いを含んでいるのではないかと思っています。
「労働者」は、法律上、雇用されていることが前提になります。他方、たとえば農家の方は土地を所有し自分で農業をするから、いわゆる個人事業主になるわけですが、ただし、自然を相手にすると、「ここからここまでは私の土地だ」と言っても、水や日光は周りと全部つながっています。
その意味で「働く」ことをどう捉え直すか考えたとき、私たちが一番求めてきたのは一人ひとりが主体的に「働く」ことをどうしたらできるか、です。何か指示されたり、命令されたりという没主体的な働き方ではなく、自分が「こうしたい」という主体性を発揮できる仕組みはどうすればできるか。それは自分だけで「主体的になろう」と頑張ってもうまくいかず、一緒に働いている仲間や自分の仕事を受け取ってくれる人たちとの関係のなかで、一人ひとりの主体性が自覚され、育っていくものだということが分かってきました。これは自然との関係も同様だと思います。
つまり、一人ひとりの主体性と協同性が両輪で動いていかないと「労働」のあり方の新しい未来は見えてこないと思っています。
われわれの仕事の多くは対人社会サービスと呼ばれるケアの領域で介護、子育て、就労支援などです。そこでもうひとつ重要かつ象徴的なのは、保育園や学童保育所で今、小農活動をしていることです。東京のど真ん中であっても、自分たちの食べるものはたった一品でもいいから自分たちで育てるという経験を子どもの頃から育もうと、全国的に大きな運動になっています。
食べものや暮らし、あるいは「働く」ということは、何か与えられるもので、すでに存在していて、そこに入っていかないと手に入らないものという感覚がどんどん広がっているなかで、「自分たちで作る」という一番の原点を体験的に取り戻していくことがすごく大切になっている。
その上で、これまでの「協同」と、これからの持続可能性を追求する「協同」とでは、質が変わってくるのではないかと思っています。どちらかと言うと同じような境遇にあった人たちが集まって協力するという協同から、異なる立場の人や「お互いに違う」ということを前提にしながら協力し合うという、まさに掛け算の世界になっていく必要があると思います。これを一言で言うと「多様性」です。
文芸アナリスト 大金義昭氏
「協同の感度」磨いて
大金 お互いに「違い」を明確にしながら手を組んでいくというですね。そもそも農業協同組合が基盤にしている地域共同体も、様々な人たちが集まって地域のなかで力を出し合い、これを積み重ねた協同事業を行ってきています。
中家 その点で今、われわれが危機感を持っているのは農業というよりも、農村の疲弊です。農業と農村は一体のはずですが、近年の農政はとにかく競争に勝とう、成長産業化しようということを全面に押し出してきました。そのために小規模な農家を切り捨てて大規模化をすすめようという動きがありましたが、私はこれはおかしいと思ってきました。
大規模な農家だけでは、農村は維持できません。多様な農業者がいて役割分担があるからこそ地域が維持できる。産業政策と地域政策は車の両輪でなければならないということです。
ですから危機感を感じているのは農村のコミュニティーです。JAは農業者主体の協同組合としてスタートしました。その後、正組合員数と准組合員数が逆転し、それでも総組合員数は増えていました。ところが平成30年に組合員が減少に転じた。組織の基盤は量と質だと思っていますが、組合員数の減少はJAにとっての危機です。
こうした背景から、今大会では組合員の拡大を掲げました。量と質を高め、組織基盤を強化することが重要です。改めて協同ということを訴え、「おらがJA」という意識をもつ組合員を増やしていかなければなりません。
村上 そのためにも「人間・地域・助け合い」を基本的な視点に据えたいですね。
古村 私は明治以降この150年の国づくりがどうだったのかを考えます。それは海外に追いつき追い越せであり、そのために取った手立ては工業化、最近はIT化です。工業化は農村から都市へどんどん人を流出させ、その結果、コミュニティーを壊した。
そして今、もう一度農業に光を当て直そうというわけですが、それはしばしば工業的な視点から農業を見ることになっていると思います。アグリとカルチャーが分離しカルチャーがなくなってしまったと指摘した人がいますが、これでは農村、コミュニティーをどうしていくかにつながっていきません。
一方、労働の世界では正規と非正規があり、どんどん非正規が増えて、非正規の人を正規にすべきという話が盛んにされます。ところが、最近では農業の世界で「半農半X」がありますね。それから「百姓」という言葉。つまり、これだけが私の仕事です、ということではなく、これもやれるし、あれもできるという場合、それはすべて自分にとっては正規の仕事ということでしょう。ということは「多正規」のような働き方がもっとできていいのではないかと思っています。
それはまさに一人ひとりのなかの多様性ということであり、それがコミュニティーづくりと平行して進んでいく流れをどう作っていくかが大事だと思います。
大金 農村やコミュニティーの風景が見えてくる心強い話だと思います。 中家 現在、農業の現場と消費者の意識が離れてしまっています。我々として、いかに農業現場の実態をわかりやくすく情報発信していくかが重要になります。これまで農業の担い手と言えば、親が農業をして息子が後継者というイメージがありましたが、今の時代は「半農半X」、あるいは都市から田舎暮らしをしたいという人が移住して趣味的に農業をやり、それを地元の直売所に出すなど、多様な担い手が地域に入ってきて、コミュニティーをつくっていくという動きが生まれています。そのために協同組合としてJAも多様な人材を受け入れるという姿勢が大事になります。
村上 古村理事長は本紙への寄稿のなかで「協同の種は無数に存在する。問題はその種を発見し選りすぐる私たちの感度である」と強調していますが、まさに地域にはこれも協同で一緒にやればいいのではないかと思うことがたくさんあります。お互いに協同の感度を高め、協同活動の取り組みを強化していきたいものです。
大金 ありがとうございました。
【座談会を終えて】
協同組合陣営に新たに加わることになった労働者協同組合。諸手を挙げてこれを歓迎する農業協同組合陣営。陣幕内に据えられた床机(しょうぎ)に連座し、忌憚のない意見を交わす会談に、新進気鋭の武士と百戦錬磨の古武士の「あうん」の呼吸が感じられた。
格差と分断が広がる時代に求められているのは、協同組合同士の強靭な連携である。第29回JA全国大会を直前に控え、腰のすわった刺激的な会談に心が高ぶった。
(大金)
【労働者協同組合法】
2020年12月に成立。施行は2022年10月1日。同法で労働者協同組合は「組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織」と定義。同法は「目的」に「多様な就労の機会」の創出と「地域における多様な需要に応じた事業の実施」、それらを通じた「持続可能で活力ある地域社会の実現」を掲げている。
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