JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会
【JAの挑戦】産地ブランド確立で所得向上を JA鳥取中央「琴浦ブロッコリー」「発泡氷詰め」で品質向上を担保【第29回JA全国大会特集】2021年11月2日
農産物の販売で「ブランド化」、あるいは「ブランド戦略」という言葉が広く使われる。野菜は単なる品目としての「野菜」ではなく、どこで、だれが、どのように作ったかによって評価され、購入されることが多い。そうして選ばれた農産物が市場で定着し、消費者に品質・鮮度・安全安心など、特定の農畜産物に対するイメージができあがるのが「ブランド」である。これは産地づくりの基本であり、そのためには品種の管理から栽培方法、選果・選別まで、統一した体制づくりが欠かせない。
全国的に知られる農産物の産地は、品質・規格に裏付けられた「ブランド」力がある。その力は、短期間でつくられるものではなく、生産者の諦めない意思とJAの粘り強い指導が欠かせない。JAグループは、この数年の自己改革で「農業者の所得向上」「農業生産の拡大」に取り組んできた。今回のJA全国大会でも引き続き、取り組むべき目標として確認されたが、そのポイントはブランド産地づくりにある。ブロッコリーの「発泡氷詰め」で品質を向上させたJA鳥取中央と、ブドウの「デラウェア」を「統一共選」で品質・規格を統一したJA山形おきたまのブランド産地づくりの取り組みを見る。
発泡スチロール箱への氷詰めが決め手に
JA鳥取中央の琴浦ブロッコリー生産部は、病害や商系の攻勢を克服し、「発泡氷詰め」による流通改革で、「琴浦ブロッコリー」の産地ブランドを確立した。JA鳥取中央では、令和3年現在の224haから令和5年には500haの産地づくりをめざす。
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JA鳥取中央は合併20周年を迎えた2018(平成30)年、農業愛、人間愛、中央愛の「三つの愛」を掲げた「私たちのJA宣言」を行った。そのなかで第1に挙げる農業愛は、「恵まれた大地を活かし愛されるブランドを育て、みんなが誇れる農業を実現する」としている。
同JA管内の農業は、まさに「恵まれた大地」にある。鳥取県の中部に位置し、中国地方の最高峰、大山(だいせん)と日本海に挟まれた比較的平たんな丘陵地からなり、海岸沿いの砂丘地、内陸部の黒ぼく(火山灰土)を利用した露地やハウスの菜園や果樹園が広がる。「二十世紀」梨、西瓜を始め、ラッキョウ、ブロッコリー、白ネギなど、JAの生産組織のある果実、園芸品目だけでも35品目ある。
なかでも西瓜は、2020(令和2)年度のJAの取扱高で34億9000万円、梨が23億円と、全国トップクラスの規模を誇る。その中でブロッコリーは取扱高で第4位の約4億8000万円あり、野菜だけでみると、西瓜、ラッキョウについで取扱高は第3位。なお、同JA全体の販売品取扱高は20年度で約167億円。うち園芸69億円、果実27億円となっている。
転作導入も病害脅威に
同JA管内でブロッコリーの栽培が始まったのは1970年代。米の生産調整に伴って、旧中山町、同赤碕町で水田の転作作物として、白ネギなどと一緒に導入された。JA合併後、2007年に琴浦ブロッコリー生産部を設立。当時、生産者80戸で栽培面積58ha、販売金額は約1億7000万円だった。
ブロッコリーで新しい農業を切り開こうという意欲旺盛な生産者が多く、生産量は順調に伸びたが、2010(平成22)年、産地を揺るがす問題が起こった。ブロッコリーには、つぼみが枯死して黄変・褐変して、商品価値を落とすブラウンビーズという病気があり、これが大発生した。原因は高温・乾燥や強日照によるストレスなどと考えられているが、新鮮なグリーンが売りもののブロッコリーにとっては、致命的な問題である。
危機脱出へ議論を徹底
「このままでは産地の信用を落としてしまう」と、危機感を抱いたJAは、長野県や香川県などのブロッコリー産地や青果市場などの視察を重ね、生産者と徹底的に話し合った。その結果、鳥取県で初の発泡スチロール箱に氷を詰める出荷方法を採用し取り組むことになった。
真空予冷も検討したが、収穫から小売店までのコールドチェーン化が難しいため、製氷機の設置だけですむ氷詰めを導入。その結果、クレームが激減し、市場の信用が回復して発注が増えた。ここから実質的な琴浦ブロッコリーブランドのスタートとなった。
市場の要望に応え、ブロッコリーの栽培拡大の機運が高まったが、問題点は労働力の不足にある。課題は三つあった。第1に省力化のために必要な作業機械の導入にコストがかかる、第2に管理・収穫作業などの管理作業が間に合わない、第3にブロッコリーは朝取りが原則で収穫・調製時間の足かせになることだ。
そこで県や町、JA、生産者の会議を重ね、2013(平成25)年から産地計画を立て、機械の導入などを助成する「地域プラン」を実施。このプランによって、13年~14年にかけて全自動移植機21台、乗用管理機11台、予冷庫16台、ブームスプレイヤー4台を導入した。
それによって、これまで10a当たり、84・5時間要した作業時間を74時間に短縮できた。
また予冷庫の導入は、これまで常識となっていた朝取りから、前日収穫への切り替えを可能にした。特に子育て世代の若い生産者にとっては「働き方改革」となり、ブロッコリーへの生産意欲を促した。
この結果、2012(平成24)年に100haだった栽培面積は、2017(平成29)年には141haに拡大。販売金額も2014(平成26)年度に3億円を突破し、15年度以降に4億円をめざした。
機械化が求められるブロッコリーの収穫
青年部誕生現場に活気
しかし、この計画は頓挫した。17年の長雨による日照不足で病気が発生して不作に見舞われた。このため、生産者の生産意欲の低下、新しい病気の黒すす病の大発生、そして品質が悪くても買い取るという商系の業者が現れ、JAの共販からの流出が始まった。
この危機を乗り切るため同JAは、生産部の活動を強化し、長雨の影響がなく、単価が期待できる春ブロッコリーへの切り替えを提案。生産部の栽培指導会には機械メーカーにも参加してもらい、行政も加えほ場の排水対策を検討した。
また、2014(平成26)年には琴浦ブロッコリー青年部を設立。ブロッコリー生産部は約160人の部員がいるが、中心になっている30、40代の担い手21人で構成する。新規就農者や経験の浅い後継者に対して、栽培前後の勉強会や、作付け後の反省会、次期の作付け前指導会などを開く。
またスマホを使った作業日誌のデータ化、青果市場やバイヤーとの交流会などを開き、生産者の販売について関心をもつように促した。スマート農業にも率先して取り組みドローンの実演なども行っている。
こうした琴浦ブロッコリー生産部や青年部の取り組みは他の地区にも刺激を与え、ブロッコリー栽培を望む生産者も出ている。現在JA鳥取中央の管内で約224haの栽培面積があるが、同JAでは今後500haまで拡大するためのプロジェクトを立ち上げている。
ゆるキャラの「ロコト」
また、同JAのブロッコリーではゆるキャラの「ロコト」がブランド化に一役買っている。ブロッコリーとコトウラを掛け合わせた名称で、生産部の「元気」を表現している。生産部が開いたコンテストで公募したものだ。
同JA栗原隆政組合長は、「JA自己改革のなかで、ブロッコリーの産地づくりに取り組み、成果を上げている。さらに面積の拡大とJA鳥取中央のブランド確立で、2023(令和5)年までに500haの産地づくりを達成したい」と、大きなビジョンを描く。
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