JAの活動:【JA全農の挑戦】
【JA全農の挑戦】対談:海外市場に見る日本農業の活路 PPIH専務・松元和博氏×JA全農参事川﨑浩之氏 (1)オールジャパンで安定供給がカギに2021年11月2日
日本の農畜産物の輸出が拡大している。人口の減少で国内市場が縮小しつつあるなかで、海外市場の拡大は日本農業に大きな可能性を示している。海外への店舗展開で、2030年までに海外売上高1兆円をめざすPPIHグループの松元和博取締役専務とJA全農で海外戦略を担当する川﨑浩之参事が、農産物の輸出の現状と将来について対談した。
左からPPIH専務 松元和博氏、JA全農参事 川﨑浩之氏
・PPIH専務 松元和博氏
まつもと・かずひろ PPIH取締役 兼 専務執行役員CMO(Global) 兼 海外事業統括責任者。1995年9月、日本ドン・キホーテ4号店にあたる木更津店(千葉県)にアルバイト入社、翌年正社員に。起業を志し、一旦退社するが97年7月再入社。店長、カテゴリーの責任者、支社長を経て2007年から食品の責任者としてM&Aなどにも携わる。19年7月、シンガポールに移住し海外事業部の食品責任者として着任。2年で帰国したが、来年は米国に拠点を移して活動する予定。
・JA全農参事 川﨑浩之氏
オールジャパンで安定供給がカギに
海外で売れる! わけ
PPIH専務 松元和博氏
川﨑 日本国内における需要の伸びという点においては、なかなか先が見通せませんが、海外市場は、経済成長・所得向上とともに需要も拡大しています。
世界の成長を取りこみ、日本の農家生産者の所得を伸ばし、生産基盤の維持拡大につなげるためにも、 輸出への取り組みが今後ますます重要になってきます。
PPIHが日本から海外に進出するに至ったきっかけを教えてください。またどうして日本の農畜水産物や加工品といったいわゆる"ジャパン"食品が海外で売れると考えられたのでしょうか。
松元 創業者オーナーの安田(隆夫)はシンガポールに居を構えています。そこで生活しているうちに、日本の商品が非常に高いことに驚き「当社が出店してみてはどうか」となり、2017年シンガポールに1号店を出しました。
日本の商品と地元のローカル商品も一緒に並べるものだと思っていました。すると安田が、「そうではない。日本商品のみで展開すべきだ」と申しました。中途半端ではいけないという「日本縛り」が、顧客にはわかりやすくて良かったようです。当初は何が売れるかわかりませんでしたが、お菓子、お酒、果物がよく売れました。現在は食品が9割弱になっています。
川﨑 なぜそんなに日本の食品に注目が集まるのですか?
松元 日本の食品はおいしくて高品質で安心、つまり信頼性が高い点で潜在的な顧客は非常に多いのです。
ところが、これまでの日本食品の価格では一部の高所得者層しか買えない。われわれは適正価格を実現することで、日本食品の敷居が下がった。適正利益を確保し、店舗拡大もできる値付けを行うことで、より広範囲のお客様の手に届くようになったのだと思います。
共存共栄で安定供給
川﨑 価格を下げるというと、ドン・キホーテさんにはディスカウントショップのイメージがあるので、日本の生産者の中には「買いたたかれる」と思う人もいると思います。海外の消費者への価格を下げる際、生産者に値下げを求めるのでしょうか。それとも、他の方法でそれを実現されているのでしょうか?
松元 日本国内の商売では国内相場で売買していますが、海外では日本の相場に影響されにくい、計画的に安定的に生産供給していただけるような安定した価格で取引したいと考えています。私たちはマーケットインしているので、その国で、いつどんなものがどれくらいの値位置で売れるかをつかんでいます。
それらの海外の需要情報をどう活用するかです。従来のルートや市場に出すより、私たちに売る方が、生産者の収入としても良い事例も出てきています。そうすることで計画取引、柔軟な規格対応、ロス率低減、鮮度保持など、生産者も我々もWinWinとなっています。
政府も進める輸出物流の合理化、つまり一定のロットをまとめることで、生産地からいったん大都市に出荷し、複数の拠点を経由して輸出するのではなく、生産地の近くの港から輸出することで流通経費の削減も図っています。
どの国で何が売れるか
川﨑 海外にも販売することで生産者の収入が安定し再生産が可能になる。生産者とPPIHとがダイレクトなつながりを持ちながら、共存共栄し事業を拡大できる仕組みを追求されているのですね。国内相場の「上がった」「下がった」とは別のマーケットの形成が海外では可能であることがわかりました。
M&Aを含めて海外進出を加速されていますが、どの国に何店舗くらい進出しているのですか。
松元 シンガポールは先週、11店目がオープンしました。香港は8店、タイが3店(12月にもう1店)、マレーシア1店(年内にもう1店)、マカオ1店でアジアは計25店、カリフォルニアにマルカイが10店、ゲルソンズ27店、ハワイは3法人あって28店なので、米国事業では計65店、海外全体では90店になります。
川﨑 日本のドン・キホーテと比べ商品構成も違うと思いますが。
松元 国による違いはありますが、共通して販売が拡大しているのは食品です。海外の店舗では食品の構成が85%と日本のドンキの35―50%に比べ大変大きくなっており、アジアではそのほとんどが日本商品です。
川﨑 輸出における課題やご苦労もあると思いますが。
松元 目下の苦労は、国によって違うレギュレーション(規制)です。複数の国への出店拡大に伴って、生産者の理解が広がり、自治体や政府にも協力いただけるようになってきました。
川﨑 検疫条件の変更には国家間の協議が大前提となりますが、JAグループでは、検疫条件に合致する輸出産地の形成にも取り組んでいます。 農畜産物は、輸出先国の規制に合わせて生産や流通を変えていくのは時間がかかりますが、規制に対応できる輸出対応産地や流通を確実に増やしていくことで、安定的な供給ができるよう進めています。そのためには、安定した取引契約が重要になりますので、生産・流通・リテールが一体となってとりくむ必要があります。
松元 成果が見え始めているのは、肉を日本で加工しても輸出できるようになった国が出てきたことです。これまで現地産の肉をしゃぶしゃぶ用、すき焼き用にカットしていたのを、日本産の肉に置き替え取りそろえられます。
川﨑 素材だけでなく「食べ方」やそれにあわせた加工もパッケージで海外の消費者に訴求することでポテンシャルが増すと。
松元 すごいポテンシャルがあります、こういった取り組みは、新たなジャパン需要を創造することにつながります。
川﨑 コロナで日本に来られないので「桜そのものを買いたい」というオファーが来ました。JAグループで「啓翁桜」の輸出の検討も進め、輸出先国の検疫許可を待っているところです。意外な日本のものが海外ではヒットすることがあります。
松元 東南アジアには四季がないですから、日本の四季が新鮮であって不思議でもある。旬もそうです。盆栽のような文化もそうです。暑い国での焼き芋の大ヒットもそうです。東京五輪で日本が露出され、日本は「行きたい国」トップになっています。
川﨑 そうすると、コロナが収まったらまたインバウンドが期待できますか。
松元 爆発するでしょうね。日本に来て日本を体験され、自国に帰って日本産の食品を買う。できれば、われわれのドンドン・ドンキで(笑)。
ハラル対応の可能性
川﨑 マレーシアなどの出店に関してはハラル対応も求められますね。
松元 マレーシアにも出店していますが、今のところマレー人の顧客は1割くらいです。私たちは、日本メーカーや海外進出した日系メーカーを回って「ハラル・マークをつけた日本商品を展開しませんか」と声掛けをしています。ハラル商材が増えれば、マレー人のお客様も増えるでしょう。大きなポテンシャルがあります。
川﨑 将来的な世界のイスラム人口の伸びを考えると大きな可能性を感じます。日本の商品を売っていく上で、海外の人々の所得はどんなレベルにきているのでしょうか。
松元 米国に行くと時給が高くてびっくりします。海外では所得レベルが上がり、日本の物を安く感じるようになっています。貧富の差はあるので、アジアでマーケットインしている国ではまず富裕層にリーチし、そこから中間層に広がっていくところです。国内だけでなく海外に目を向けると、大きな市場が広がっており、この市場にリーチできれば販路拡大につながるわけですから、生産・流通等に関わるみなさんが幸せになれるのではないかと考えています。
海外事業売上高2024年3000億円 2030年1兆円へ
川﨑 今後の戦略についてうかがいます。PPIHは経営戦略「パッション2030」で、2030年までに海外事業1兆円をめざしていますね。
松元 2024年までの3カ年計画では3000億円をめざしています。すでに出店している国での出店可能数の拡大と新規出店国への進出も進めていきます。
川﨑 3000億円という売り上げのほとんどが日本産品ということになるのでしょうか?
松元 はいそうです。
川﨑 農産物輸出について政府は2022年に2兆円、30年に5兆円という目標を掲げています。そのうちかなりのウエートをPPIHが担っていただくわけですね。たとえば米国や中国向けの輸出では、現在は品目が限られている点がハードルになっています。出店判断では、政府間協議の進捗(しんちょく)が重要になってきます。
松元 そうですね。ただし、準備としては、政府間の合意ができてから動きだすのではなく、現地の商材を使ってでも日本料理や加工品・化粧品などのノーフード(非食品)で先にマーケットインし、日本の農畜産物が輸出できるようになったら日本のものに切り替えていく、という戦略を描いています。
川﨑 日本の農家生産者、JAグループと関係するところで、青果、肉、卵、乳製品、米、加工品についてはどうでしょう。
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