JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会
【緊急座談会:10年後にめざす姿を探って】JAあづみ千國茂組合長×JAぎふ岩佐哲司組合長×JAはだの宮永均組合長(1)今こそJAの役割発揮2021年11月5日
第29回JA全国大会では、新たに次の10年後に向けた「めざす姿」を提起するとともに、重点的に取り組むべき課題を示した。いま経済・社会の大きな変動のもと、農業とJAが進むべき方向について模索が続いている。現場で悪戦苦闘している3JAのトップが、JAのあり方と自らの思いを語り合った。
(司会は文芸アナリストの大金義昭氏)
【出席者】
長野県JAあづみ組合長 千國茂氏
神奈川県JAはだの組合長 宮永均氏
岐阜県JAぎふ組合長 岩佐哲司氏
司会・文芸アナリスト 大金義昭氏
コロナの影響大 つながりに腐心
大金 第29回JA全国大会の議案を念頭に、少子・高齢化や人口減少といった経済・社会環境をどのように捉えておられるのか。コロナ禍のもとで課題を浮き彫りにし、共有できる対応策を一緒に考えてみたいと思います。
宮永 JAはだのは、コロナ禍で組織活動ができず、強い危機感を持っています。総会や座談会、部会も開けず、職員の訪問活動もままならない状態です。そのなかで組合員との対話ができなくても情報だけは伝えようと、全戸訪問は休まずにポスティングを続けています。メールやファクスで意見をいただくようにしていますが、毎年600~650件ほどあった意見が、今は10~20件という状態です。
一方、こんな時こそ「協同の力」を発揮すべきだと考え、JAとして「今こそ協同 助け合いのとき」をキャッチフレーズに、秦野市との共同で、市内の生活困窮者の食料支援を行いました。
青年部員や女性部員、生産者の皆さんから米650kg、ファーマーズマーケット「じばさんず」から野菜、それに防災協定を結んでいる福島県のJA東西しらかわから600kgの米を提供していただきました。
千國 JAの現状や将来を考えるとき、二つの前提が考えられます。少子・高齢化の進行と情報技術の進展です。人口が減って栄えた国はないと言われますが、世界史的にも現在は特異な時期にあるのではないか。組織活動については、組合員の高齢化と減少で協同活動が意のままにならなくなっています。
JAは、組合員の皆さんが支店に集まり「わいわい・がやがや」やりながら一つにまとまってきましたが、コロナ禍でそれもできなくなりました。JAと組合員の意識のギャップが大きくなるのではないかと心配しています。
JAあづみの組合員は正組合員が75%を占めていますが、これからは減っていくのが確実です。このために農産物直売所などで、出荷者や利用者の皆さんに組合員加入を積極的に働きかけています。
一方、最も大事な組合員組織である農家組合の基盤がぜい弱になってきました。組織の「根っ子」は残っているものの「粘り」がなくなりました。コロナだから仕方がないというのではなく、農家組合長の会議や研修などは大事な活動であり、何とか続けてきました。青年・女性部の活動も情報伝達だけは欠かさないようにして、JAと組合員との距離が広がらないように努めているところです。
大金 「現場・現物・現状」の"三現主義"を貫いておられるわけですね。組織基盤づくりに、ご苦労されている様子が伝わってきます。JAぎふはいかがですか。
岩佐 2年間のコロナ禍で、2JAと同じように既存の組織活動が停滞しました。面談率は3割強に低下し、放っておくとポスティングだけの訪問になる恐れがあります。それを防ぐためにも、なるべく組合員に声掛けをするよう、職員に働きかけています。
大金 コロナ禍は、事業・経営にどのような影響を与えていますか。
宮永 これまでは「総代会」でなく、全組合員を対象にした「総会」を開催してきましたが、今回は初めて「総代会」に移行しました。JAはだのにとっては、発足以来のことです。
事業面で言えば、推進活動ができないことが痛手ですね。LAや営農サポーターのTAC(タック)などの活動が止まってしまいました。一方で職員のなかに「組合員を訪問しなくてもいい」という気持ちが生まれはしないかと心配しています。
千國 その通りです。昨年から「総代会」も生産部会も書面決議です。これでいいのか、この先はどうなるのか。渉外活動ができない状態が続くと心配です。また。情報技術の面でも「自己改革」でやるべきことはやってきましたが、ポストコロナでは先が見通せない状況です。
大金 全国の組合長さんも、みな同じ悩みを抱えているのではないか。なかなか容易ではありませんが、お三方で"文殊の知恵"を出していただければ幸いです。
岩佐 今年は、職員の活動指針として「フレームワーク」をつくりました。「私たちは、組合員の期待に応えるために支店が中心となり、総合的なサービスをもって組合員の財産活用と暮らしのお手伝いをいたします」というキャッチです。職員全員が、このフレームワークに沿った活動ができる組合を目ざします。
金融事業では利ザヤが低下し、収益が右肩下がりになることが確実ですが、金融を捨てるわけには当然いきません。地域で金融事業を展開する以上は、地域の人にJAが必要だと思っていただかなければなりません。そのために、住宅ローンが中心だった融資事業を改革し、格付けシステムを導入し、担保に頼らない事業性融資拡大に取り組んでいます。「農協さんがあってよかった」と言っていただける体制を確立したいと考えています。
経済事業では、新しい考え方の産直店をオープンさせました。地元農産物をそのまま売るだけでなく、地元産を利用した加工品を40品目つくり、地元業者を中心に1500アイテムをそろえた売り場と地元農産物の料理を提供する食堂が一体となった産直店です。コンセプトは「地元のおいしさをお届けする」です。
大金 組合員に必要と思われることなら、何でも果敢に挑戦・実行することが、大会議案の「協同組合としての役割発揮」になるのでしょうね。経営上は、何を一番の問題にされていますか。
宮永 今年は中期3カ年計画策定の年です。JAの経営にとって一番の課題は「早期警戒制度」です。国は、問題があれば発動すると言っています。プロジェクトを三つ立ち上げ、それぞれ収支計画も含めた結果をもとに専門家を入れて3カ年計画の策定を進めています。
そのなかでシミュレーションし、5年の経営再構築の見通しを立てました。7支所1支店のうち二つを「コミュニティープラザ」の施設に移行し、組合員のよりどころとして支所・支店を維持していく場合は、今までの人員体制では難しいので、支店長に経験のある再雇用者を配置するなど、地域の組合員の「砦(とりで)」や「城」として制度設計する考えです。
事業では、ファーマーズマーケットの販売手数料をアップするのでなく、ITを活用した新たな買い取り販売体系の確立をめざした販売システムをつくり、生産と消費を結ぶことで一定の手数料を新たに確保する新しい仕組みづくりが必要だと考えています。
千國 金融事業が厳しいのは、地方でも同じです。地元の有力バンクの話ですが、子会社をつくり、遊休農地で農業生産をすると言っています。本来はJAがやるべきことです。そう考えると、「やれること」や「やるべきこと」を「やっていない」ことが多くあるのではないか。
経営面では、10年かけてマスタープランをつくり、総代・理事の定数や非常勤理事の位置づけ・役割、支店の統廃合などに取り組み、支店17カ所を5カ所と金融1店舗にします。これで効率化は何とか実現できますが、事業は伸ばさなければならない。営農部門の新規事業を起こさないと、事業管理費削減による縮小均衡の収支構造には限界があります。
大金 「協同の原理」で「協同の価値」をいかに発揮するか。この本質的なテーマがコロナ禍によって厳しく問われているとしたら、ピンチはJAにとって大きなチャンスでもあるように思います。
千國 JAあづみは昨年で合併から55年。管内の農業生産額は117億円、販売農家は延べ6000戸といった現状です。主力の水稲とリンゴに加え、近年は夏秋イチゴ栽培に多くの若い農業者の参入があります。ファーマーズマーケットでは7億円の販売高を目指し、今年度は達成しそうです。長期構想では10年先も、多様な農業者が地域の農業を担っている姿を目ざしています。大型経営や兼業農家だけでなく、非農家も何らかの形で、あづみの農業に関わるような仕組みを考えています。
【緊急座談会:10年後にめざす姿を探って】
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