JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会
【緊急座談会:10年後にめざす姿を探って】JAあづみ千國茂組合長×JAぎふ岩佐哲司組合長×JAはだの宮永均組合長(2)今こそJAの役割発揮2021年11月5日
第29回JA全国大会では、新たに次の10年後に向けた「めざす姿」を提起するとともに、重点的に取り組むべき課題を示した。いま経済・社会の大きな変動のもと、農業とJAが進むべき方向について模索が続いている。現場で悪戦苦闘している3JAのトップが、JAのあり方と自らの思いを語り合った。
(司会は文芸アナリストの大金義昭氏)
環境に重点 農を身近に
大金 3JAとも、優れた先人たちによって積み重ねられた協同の歴史や伝統が広く知られていますが、地域農業振興について、さらにいかがですか。
岩佐 そこに今、頭を悩ませています。岐阜県の食料自給率は26%、JAぎふの管内には80万人が住んでいますが、JAがその胃袋を支えているわけではありません。そのなかで、まず第1に「もうかる農業」の実現、第2に農業者が「プライドを持って働ける農業」の実現を目ざしています。
「もうかる農業」の一つに「地産地消」の取り組みがありますが、これはあくまでプロダクト・アウトの考え方で、それだけでは地域の皆さんが買ってくれません。「安全・安心」はもちろんですが、現代は「脱炭素」から始まって「有機・無農薬」の農産物に消費者の皆さんの関心が移りつつあります。県内産のナショナルブランドは柿、ニンジン、イチゴ、エダマメなどですが、どれも10億円に及ばない。それを復活させたい。これらの品目は、どうやって他の都市に売るかが鍵です。
私案ですが、JAぎふは「有機・無農薬」に挑戦しようと考えています。市街化が進み、小面積で無農薬栽培を行い、付加価値のある農産物を生産する素地が十分あります。
それを地域に供給する。先ずは学校給食などが考えられます。
少々高くても「新鮮・安全・安心」の野菜を食べてもらうには、消費者の教育も必要です。理解のある生協と手を組んで「有機の里・ぎふ」を目ざしたい。それが農業の生きる道ではないかと考えています。
大金 大胆で素敵な構想ですね。ファーマーズマーケットはその有力なチャネルになりませんか。単なる農産物直売所ではなく「物流・商流・人流の総合文化拠点」として、これを先進的に実践してこられたJAはだのの地域農業に対するグランドデザインを聞かせてください。
宮永 正組合員は約2800人、うち1ha以上の耕作者は150人くらい。19年ほど前にこれからの市場流通が変わることを予測して、ファーマーズマーケット「はだのじばさんず」を設置しました。また畜産農家から耕種農家へ堆肥を流通させるため、家畜堆肥を使った有機農業に挑戦してきました。しかし、その後、畜産農家が減り、規模も縮小して、さまざまな農業形態が生まれました。環境保全型農業に対応し、組合員であれば利用できる「はだのじばさんず」は、現在、出荷者625人が登録し、おおよそその半分は女性です。
市内には農地が1600haあります。JAでは特定農地貸付法を活用した遊休農地による市民農園の開園や、生産緑地制度適用農地を生かした体験農園が1カ所あります。さらに3カ所ほど増やしたいと考えています。
担い手育成については「秦野市民農業塾」を開講し、100人が就農コースを終え、83人が実際に就農し、うち60人は農外からの参入です。
多彩な担い手と地域戦略を構築
大金 農業に対する社会的な潮目が変わりつつある。
千國 皆さんの話を聞き、現場を動かすヒントや切り口が見えたように思います。先ずは足もとから取り組むことですね。地域農業を担うための人づくりも始めています。農業に従事している若い農業者や移住者などを対象に、農業を核にしたあづみの地域づくりのための「あづみの新興塾」です。
さらにはJA合併55年を契機に地域の人材発掘を目的とした「55年目の発掘と褒章」事業を行っています。地域でこれまで農業を守ってきた人、新規に就農した人、地区外からの就農者、こうした皆さんをJAだけでなく、、地域の目線で発掘し、表彰することで、地域全体として農業への関心を高めてもらうことが狙いです。
大金 農業協同組合には、その力があります。
岩佐 有機農業の基本は「脱炭素」にも通じると思います。例えば、かつて牛ふん堆肥はトラックでほ場に直接投与していましたが、それがペレットになります。ペレットを有機栽培者に売り、できた農産物をJAの直売所で売る。それによって「脱炭素」で循環する世界がつくれるのではないか。これからは「脱炭素」がキーワードになります。
宮永 「脱炭素」は重要なキーワードですね。協同組合を理解する仲間と手を結び、しっかり生産する。それを起点に議論し、実践すれば必ずや先が見えてきます。パルシステムとの包括協定でプロジェクトを立ち上げましたが、生協は、特に女性がよく勉強しています。協同組合が連携すれば、女性が活躍できる場も大きく広がります。
大金 やはり「ピンチはチャンス、チャンスにチャレンジ」ですね。「いのちと暮らし」を守る活動についてはいかがですか。
宮永 JAは食料生産の組織です。コロナ禍で生活困窮者に対する給食支援を実施しましたが、現在のJAに求められる社会的に大きな役割ではないかと考えています。
大金 格差と分断が深まる中で、「子ども食堂」など社会的に新しい活動にJAも積極的に関わることで「協同組合の機能」を発揮したい。心強いことに「労働者協同組合」といった新進気鋭の仲間も台頭しています。
宮永 「いのちと暮らし」では、女性の力が欠かせません。SDGsの主題である「誰ひとり残さない」というポスターもつくりました。また、「今こそ協同 助け合いのとき」を緊急発動したとき、すぐに反応したのは女性部でした。
千國 JAの歴史は「営農と暮らし」の活動を通して、組合員の幸せづくりのお手伝いをすることです。JAあづみの暮らしの活動は、次世代活動、高齢者活動、支店における活動が中心で、高齢者福祉活動は2012年からスタートしました。地域から「独りぼっち」をなくそう、困ったときはお互い様を理念とする活動は、「JAあづみ暮らしの助け合いネットワークあんしん」の皆さんとともに、20年間継続してきました。
先ごろ亡くなった経済評論家の内橋克人さんは何度もJAに足を運び、「FEC(食料・エネルギー・ケア)自給圏」のモデルがここにあると評価してくれました。まさにSDGsのモデルそのものなのです。第29回JA全国大会の議案でも示している「地域共生社会」にも合致した取り組みです。
岩佐 「共生社会」や「豊かな社会」とは何かについて考えると、農業協同組合なので、「農と食」を中心に「農家と市民が互いにリスペクトし合える社会」ということになるのだと思います。
その鍵は女性の活躍にありますが、いま本気で考えなければならないのは、定年退職した男性の高齢者だと思います。「支店を核に女性を中心とする協同活動を」と言いますが、女性は協同活動に限らず、普段の活動範囲が広がっています。
一方で、キャリアを誇るお年寄りの男性は地域や組織に居場所がなく、さびしい思いをしています。JAはその人たちの仲間づくりをする必要があるのではないか。
大金 おっしゃる通り、地域には埋もれた優れた人材が大勢いますよね。
宮永 JAはだのの組合員には特技者が多くいます。JAはだのが主催する子どもたちの書道・図画・作文コンクールの審査員などになってもらっています。構えず、自然体で入ってこられる環境や雰囲気づくりが大切です。
千國 最近の「あんしん」活動には、男性も参加しています。営農懇談会などを開くと65歳以上の人が、こんなにもいるのかと驚くほどです。そういう人たちをJAに引き寄せたいですね。
大金 地域でそんな人たちに手を差し伸べることができるのは、JAだけです。女性パワーをいかに取り込むかの経営戦略も不可欠です。
宮永 JAはだのには120の生産組合があり、メンバーの8割は准組合員です。小さい単位の協同活動がたくさんありますが、その中から人材の発掘ができます。事務局はLAが務めていますが、組合員との交流が生まれ、結果として事業にも結びついています。
【緊急座談会:10年後にめざす姿を探って】
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