JAの活動:特集
【インタビュー】反貧困ネットワーク事務局長 瀬戸大作氏に聞く(1)未来を築く協同理念【第29回JA全国大会特集】2021年11月8日
第29回JA全国大会では、次の10年に向かって挑戦する「めざす姿」を改めて提起した。このなかでは「豊かで暮らしやすい地域共生社会の実現」もある。コロナ禍で見えてきた格差や貧困問題に通り組む反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作氏に活動の現状を聞いた。瀬戸氏は「協同組合セクターで考えるのでなく、地域に入り込んでニーズを掘り起こし課題解決に連携すべきだ」という。 聞き手は農業ジャーナリストの榊田みどり氏。
せと・だいさく パルシステム生活協同組合連合会職員。パルシステム神奈川事業本部長、連合会事業部長などを歴任。この間、福島原発被害者の救済を求める全国運動を取り組み、避難者支援の協同センターを設立。日韓市民連帯を進める「希望連帯」の事務局を担う。2020年「反貧困ネットワーク」の事務局長として、「新型コロナ災害緊急アクション」の設立を呼びかけ事務局長を務める
社会の底が抜けた
――瀬戸さんは、リーマンショック時、派遣切りで職を失ったひとたちを支える2008年の「年越し派遣村」で活動なさっていました。その頃と今回のコロナ禍による貧困問題のちがいをどう感じていますか。
瀬戸 世代が圧倒的に下がったことですね。20代が急増していて、僕が事務局長を務める「反貧困ネットワーク」にSOSをもらう6割以上が20代前半です。若者たちに貧困、非正規の問題が直撃したのだと思います。しかも、今回は炊き出しに女性や母子連れが並ぶ。これは年越し派遣村ではなかったことです。社会の底が抜けた。そう思います。
――リーマンショックよりも深刻ですね。
瀬戸 大事なポイントは、彼らの多くが一度は福祉事務所に相談にいっているという事実です。そして冷たく追い返されている。最初から所持金100円じゃないんですよ。それまでの過程があって、相談したけれど相手にしてくれなかった。助けてといったのに助けてくれなかった。福祉事務所自体が、貧困に直面した若者を差別している。
福祉ってそういうもんですか? 逆でしょう。「大変だったね、今日からちゃんとご飯食べられるようにしようね、助けるよ」というのが福祉でしょう? やり直しが聞かない社会。「自己責任社会」ですからね。だから若者たちは、糾弾することさえ忘れています。
コロナ禍で貧困可視化
――2000年から構造改革が始まり、20年たって格差問題が顕在化してきたのに、福祉行政はその変化に対応できていないわけですね。
瀬戸 逆に悪化したんじゃないでしょうか。今回の貧困問題は、コロナ禍で始まったわけではなく、以前から貧困が厳しかったひとたちがコロナ禍で可視化しただけですよ。
もともと、住居を持たずに数年過ごしていたネットカフェ難民の若者がかなりいて、コロナ禍でネットカフェ代金も払えなくなったり、ネットカフェが休業して追い出される。住居を持たずに非正規で働いていた若者がこれだけいたという現実が、コロナ禍で可視化されたんです。本当にぎりぎりの線で生きている若者が、こんなにいたという現実を、僕たちも十分わかっていませんでした。
――コロナ禍以前の2018年の「国民栄養調査」で、経済格差と健康格差の相関関係が初めて取り上げられました。今の若者だけでなく、その親世代から貧困問題に直面していたケースも多いようですね。
瀬戸 貧困の世代間連鎖は、10年前の派遣村のときより深刻化しています。親も貧困で、家族がセーフティネットとして機能していない。親も子どもを支援できる状況じゃないわけです。離婚が多いし、貧困になると親の虐待もある。本当に、これまでよく生きてきたねという感じです。
もうひとつ気になってるのは、東京のコロナ感染者が5000人を超えた状況下でも、地方から多くの若者が上京してくる現実です。地方に仕事がないからと。
貧困と孤立の複合化
――瀬戸さんは、SOSを発した若者に駆けつけたとき、よく「もうひとりじゃないから」と声をかけますよね。孤立問題も貧困問題と絡み合っているということですか。
瀬戸 僕らが付き合っている若者は、10代の頃から、共生社会があるはずなのに孤立していたケースが多いです。家が貧しくて万引きや窃盗を1回でもしたらレッテルを貼られてしまう。しかも、「僕たちが悪いんです」と本人が言う。
自己責任社会の意識が一般化して、「生活保護を申請するくらいなら死んだほうがましだ」という若者も多い。社会が悪い、社会保障を受ける権利があるという意識がなく、僕が悪いとなってしまうんです。
もうひとつは、10年前と比べて、ネット社会が広がりましたよね。僕たちの世代にもわからない感覚ですが、現実社会との接点が希薄になっている。それでも、ひとりぼっちは辛いみたいなんです。つながりたいけれど、経験がないから、つながり方がわからない。そこに今後の協同の可能性も感じます。
モノだけで解決しない
――福祉行政と現実のミスマッチの中で、民間ではフードバンクや子ども食堂などの取り組みも広がっています。JAの参画も増えています。瀬戸さんはどう見ていますか。
瀬戸 フードバンクで集まった食品を配布する福祉事務所の現場を見ていると、実は複雑な思いがあります。フードバンクは市民の善意ですが、それを渡す現場は、たとえば、乾パンとカップ麺とサバ缶をポンと渡すだけ。その食品を提供した市民の気持ちは全く伝わっていない。
渡された側のひととしての尊厳が守られていないように感じるときもあるのです。本質的な支援になっていない。
――モノだけが渡って提供者の思いは伝わっていない。
瀬戸 その意味で、僕が希望を感じるのは"産直フードバンク"とでも言ったらいいか。僕たちは外国人労働者の支援をやっているんです。彼らは公的支援もないし、無断で働いてもいけないので、仕事を切られたら生きるすべがない。農業ジャーナリストの大野和興さんを中心に結成された「米と野菜でつながる百姓・市民の会」を通じて、農業者有志から米を送ってもらったのですが、農家の方たちみんな、米に激励の手紙を付けてくれるんですよね。それを読んで、受け取った外国人がめちゃくちゃ泣いている。モノではなく気持ちが通じるからですよね。
モノを入り口に、ひととひとが接することが大事だと痛感しています。当事者どうしが直接つながると、相手のリアルがわかり、そこから、食料支援だけでなく、自分たちにできることは何かを考えられます。
僕たちは今、ゲリラ的にやっているけれど、これだけでは解決にならないことも痛感しています。構造改革が格差を広げ、福祉はそこに追いついていない。この構造に対して、協同の力で、地域に事業と居場所をつくることが必要ではないかと思ってるし、JAグループを含め協同組合の力を結集できないかと呼びかけたいと思います。
さかきだ・みどり 農業ジャーナリスト。「食と農をつなぐ」をテーマに、食育、地域ブランド、地産地消など多方面から農業を紹介している。主な著書に「再生可能エネルギー―農村における生産・活用の可能性をさぐる(JC総研ブックレット)」(共著)など。
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