JAの活動:特集
【インタビュー】反貧困ネットワーク事務局長 瀬戸大作氏に聞く(2)「つながる」協同の可能性【第29回JA全国大会特集】2021年11月8日
第29回JA全国大会では、次の10年に向かって挑戦する「めざす姿」を改めて提起した。このなかでは「豊かで暮らしやすい地域共生社会の実現」もある。コロナ禍で見えてきた格差や貧困問題に通り組む反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作氏に活動の現状を聞いた。瀬戸氏は「協同組合セクターで考えるのでなく、地域に入り込んでニーズを掘り起こし課題解決に連携すべきだ」という。 聞き手は農業ジャーナリストの榊田みどり氏。
反貧困ネットワーク全国集会で行われたデモの様子
組織の枠超え 連帯経済創出
――瀬戸さんは、もともとパルシステム生協の職員で、今も同生協に籍を置いています。それだけに、協同組合の一員としてメッセージがあると思います。
瀬戸 今回痛感したのは、農村現場と都市での僕たちの活動は分断していることです。たとえば、今年の米価の大幅下落で農村は大変なことになっているという現実も、大野和興さんが僕たちが主催した緊急アクション集会で話してくれてようやく知った。
どんなに地域経済が疲弊しているかという農村のリアルと、都市部での貧困問題がつながっていない。
――構造改革による地方経済の疲弊と今回の都市部での貧困問題は、実は根は一緒なのに、共有できていないということですね。
瀬戸 今求められているのは、セクターを超えた協同の「連帯経済」という考え方だと思います。僕は韓国の住民運動の現場に行くことも多いのですが、韓国は、政府が単純に給付支援するだけでなく、住民連帯の中で、若者たちが自立していくための仕組みを考えているという点で日本より進んでいると感じます。
食料支援以外に、空き家をシェルターに活用するなど、協同の力でもっとできることはあるはずです。たとえば農村で暮らしていけるグランドデザインを創るなど、都市の貧困と産地の連携でなにかできないか。小さな自給圏をあちこちに作っていくことも必要かもしれません。そういう貧困層の若者たちの未来を描くことが、貧困支援の現場でもあまり語られていません。
――緊急支援の先に、協同組合セクターがどんなビジョンを描けるかということですね。
瀬戸 協同組合として、新しい働き方を創出していくことが必要です。僕が気になっているのは、派遣切りなど、これだけ今の社会に痛めつけられても、また派遣に戻るしかない。寮から追い出されても、他の選択肢を想像できないから、再び寮付きの仕事に戻る。この繰り返しなんです。
年越し派遣村から10年、今回のコロナ禍。今の社会構造のままだと、同じことが、また繰り返されると思います。
――協同組合の存在の意義が問い直されているともいえますね。
瀬戸 実は、先日の協同組合学会の講演で、「協同組合は協同組合セクターだけで議論しているのではないか」と問題提起しました。同じ地域に複数の生協があるしJAもあるのに、地域単位で横断的に貧困問題に取り組もうとしたとき、生協もJAも参加していない。地域運動や社会運動の場に、協同組合がほとんどいないんです。これは寂しい。
救いは、組織ではなく生協の少なからぬ組合員が個人でそういう場に参加していること。住民連帯ですよね。そういう組合員の主体的な活動を協同組合が支援するという体制ができていないんじゃないかと感じます。
協同組合セクターだけで考えるのではなく、地域にもっと入りこんで地域のニーズをしっかり聞き、地域住民連帯に対して何ができるかを考えるべき時代。僕はそう思います。
【インタビューを終えて】
今、農業界は、主食用米の需要減少が深刻な問題になっている。コロナ禍が原因とされているが、本当にそうか。実際は、格差拡大の中で、「買いたくても買えない」人が増えているのではないか。公共事業の減少と企業の海外移転による地方経済の疲弊、非正規労働の拡大と都市部での貧困層の増加。ふたつの問題は表裏一体で根はひとつだと思う。瀬戸さんも言うように、緊急支援だけでは根本的な解決にならず、今後また同じことを繰り返すかもしれない。自分たちにできること、政策要求することの2本立てで、協同組合が連携して何ができるのか、中長期的な視野で議論すべきときではないかと改めて感じた。(榊田)
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