JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会
【提言 農協に未来はあるか】上野 千鶴子・ウィメンズアクションネットワーク理事長 女性参画が〝成長〟の決め手【第29回JA全国大会特集】2021年11月9日
男女共同参画や女性の地位向上などの活動を進める認定NPO法人ウィメンズアクションネットワークの上野千鶴子理事長に「農協に未来はあるか?」をテーマに提言してもらった。上野理事長は若者と女性を未来のある担い手にするためには「農協は協同組合の原点に立ち返る時だ」という。
上野 千鶴子
ウィメンズアクションネットワーク理事長
わたしが理事長を務めている認定NPO法人ウィメンズアクションネットワークのサイトには、ジャーナリスト、金丸弘美さんの人気連載「ニッポンは美味しい」がある。金丸さんは各地の地域おこしや村づくりにひっぱりだこの、辣腕プロデューサー。もちろんおカネをとれる記事を書くひとだが、コーナー際に追いつめて(笑)タダで書いてもらっている。
連載の内容は、地方の農業ベンチャーの担い手、それも女性の担い手の取材にもとづくルポルタージュだ。開始してからもう3年、金丸さんからかえって感謝してもらった。これまで彼が(ひろみというまぎらわしい名前だが、金丸さんは男性である)取材した農業事業主はほとんど男性。代表は、というと男性が出てきて、その傍で妻がにこにこ黙っていたのに、取材対象を女性にすると、「いやあ、上野さん、女のひとの話の方がおもしろいわ」ということに気がついたのだそうだ。
わたしはにっこり笑って「そうでしょ」、今頃気がついたの、という顔をする。
連載の登場人物は主として6次産業の担い手だ。1次産品だけでは原材料を提供するだけだから利益率が低い。それに加工と流通を加えて1次、2次、3次の合計が6次産業。末端消費者と直結する流通経路も開拓してきた。
女性起業家 軒並み伸長
そこにコロナ禍である。コロナ前から続いてきた連載のヒロインたちは、コロナのもとでどうしているのだろう? というので、金丸さんに連載の主人公たちを再訪して、「コロナ禍のもとで---彼女たちの今」という記事を書いてもらった。
そのなかでわかったことがある。なんとコロナ禍のもとで、彼女たちの事業は軒並み売り上げを伸ばしていたのだ!
理由ははっきりしている。第1に、巣ごもり需要でおうち食材の消費が増えた。その点では食に関わる産業はつよい。それだけではない。第2に、末端消費者と直結した流通経路を確保していることである。そして...その多くが農協をバイパスしている事実を、どう考えたらいいのだろうか?
農業ベンチャーの担い手に必ず聞く質問がある。それは「農協は邪魔になりませんでしたか?」というもの。無関心で何の邪魔立てもしなかったのはましな方、抵抗勢力になることもある。反対に農協が積極的に協力してくれることはめったにないようだ。
そういう話を聞く度に思い起こすのは、農協って、農業協同組合っていう名前のとおり、助け合いの組織じゃなかったっけ? という素朴な疑問である。
組合員のための互助組織だったはずなのに、いつのまにか統制と管理の官僚組織に変わっていないか?
思い出すのは雪印乳業の不祥事である。乳製品を加工するパイプを洗浄しないで使用していたことが発覚して、製品の回収を余儀なくされた。利益追求の姿勢から来た不祥事だった。
その後で知ったのが、雪印乳業が北海道の酪農家の協同組合だということである。森永とか明治のような私企業かと思っていた。利潤追求の私企業ならやりそうなことを、協同組合がやっていたとは...ショックだった。
組織巨大化 格好の的に
今さらショックを受ける方がナイーブなのかもしれない。だがどんな組織も巨大化し制度化すれば、官僚制化し硬直する。農協は今の日本ではゆうちょ銀行に次ぐ日本最大の金融機関のひとつだし、巨大な流通機構でもある。郵政民営化を達成した政権にとっては、次に解体したいターゲットに違いない。「農協改革」を突然言い出した保守政権にとっても、手を出したくても出せない相手のようだが、油断はならない。
農業は昔も今も割の合わない産業だ。自分たちを守るためにつくった生産者協同組合。戦前には権力に抵抗する砦(とりで)だったはずだ。それが巨大な利権団体となり、戦後の農政と結託し、既得権益集団になった。そのもとでも農業を取り巻く環境は急速に変わっている。
米だけつくっていればすむ時代は終わった。そのうえ、グローバル化によって、外国産農産物に圧されて、食料自給率は大幅に下がっている。食という生きることの基本のきのところで、食の安全保障さえ、確保できない国に日本はなってしまった。
そのなかで生き残りをかけて現場で末端消費者とつながろうとする農業ベンチャーの担い手たちが、農協に頼ろうとしないどころか、農協を抵抗勢力と感じているとはどういうことだろうか。この状況では意欲の高い農業者ほど、農協から離れていくのではないか。農協の組織率も低下していくかもしれない。
コロナ禍で業績を上げた業種のひとつに、生協がある。生協はコロナ禍のもとで売り上げ3割増を達成したという。生協の成功の理由も、農業ベンチャーと似ている。巣ごもり需要で食べるという基本に関わる業態であることと、全国に毛細血管のように張り巡らせた流通網をがっちり確保している強みである。
だが、もともと組合員互助から発したはずの生協は、今や巨大な組織になり、その男女共同参画度も低い。それどころか、生協という流通業が、地域の女性のタダ働きや、女性の低賃金労働につけこんできた事実は否定できない。
わたしは生協とのつきあいが長いが、生協から講演を頼まれるたびに、生協の事業は他の営利企業のやる事業とどこが違うんだろう、「生協らしさ」って何だろう、と問いかけたくなる。
組織率低下 危機感持て
保守政権は「自助ファースト」と国民に強いた。自助・公助に加えて共助が必要なのは自明だが、共助を支える「市民社会セクター」と呼ばれる領域に農協を加えることにためらいが起きるのはなぜだろう? 日本における公社、公団などの「第三セクター」が、「官でもなく民でもない、第三の」を意味しながら、その実「民の皮を被った官」であることが周知の事実であるように、農協も民間互助団体から出発して、長期のあいだに政治に密着した利権団体になってはいないか?
今日「組合」と名のつく互助団体は組織率を低下させている。労働組合しかり、農協の組織率はまだ94%と高いが、農業者の減少にともなって、組合員数そのものは低下している。農業をとりまく環境が大きく変化している今日、そのなかで生き残りをかけてチャレンジする農業ベンチャーの担い手、そしてその中には少なからぬ女性がいるが、その意欲と能力の高い人々を包摂し支援することができなければ、農協は見放されていくのではないか。
協同組合が「わたし」のために何をしてくれるのか? がわからなければ、組合にとどまる理由はない。農協はそういう担い手の声が届きやすい組織になっているだろうか? 驚いたのは、農協役員の女性比率が国会議員の女性比率より低いことを知ったことである。
農協役員の女性比率は、農業委員の女性比率よりさらに低い。女性比率は組織の風通しのよさと多様性の指標である。それ以前に、一家の長として世帯主男性しか表に出ない農家の体質が、女性の進出をはばんでいるとすれば、農協どころか農業そのものが衰退していくだろう。農業が女性にとって魅力のある業種にならなければ、農業生産者の持続可能性そのものが失われる。2015年日本創成会議が発表した消滅可能性都市のリストの衝撃はそれを示している。希望のない農村から、生殖年齢の女性たちは出て行って戻らない。
ほとんどの自治体が「消滅可能性都市」にあてはまる秋田県で、唯一と言ってよい例外が大潟村である。大潟村は、戦後「ノー政」のもとで政府の命じる青田刈りに抵抗した闘う自治体だ。大潟村には農業後継者もいるし、その配偶者もいる。村議会の女性比率は12人中3人と25%に達する。
未来があれば、若者と女性は農業の担い手になるだろう。農協は彼ら、彼女らに「未来」を提供しているだろうか? 「協同組合」の原点に立ち返る時だと思う。
うえの・ちづこ 1948年生まれ。京都大学大学院社会学専攻博士課程中退。京都精華大学人文学部教授を経て東京大学文学部助教授、教授。東京大学名誉教授。NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。
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