JAの活動:【第29回JA全国大会特集】コロナ禍を乗り越えて築こう人にやさしい協同社会
【提言】もの言うJAたれ 姉歯曉・駒澤大学教授【第29回JA全国大会特集】2021年11月11日
10月29日に開かれた第29回JA全国大会に寄せて、現在スウェーデン在住の姉歯曉駒澤大学教授に提言してもらった。コロナ禍など世界的な問題が山積するなか姉歯氏は提言として農村、地域の課題解決に「ものいうJAであってほしい」という。
姉歯曉・駒澤大学教授
第29回JA全国大会開催おめでとうございます。
お祝いの言葉をもっと述べたい気持ちはありつつも、やはりコロナの問題から逃げるわけにはいきません。
この間、日本では医療崩壊状態に追い込まれ、外食産業も大打撃を受け、特に都市部在住の高齢者は感染の恐怖だけではなく、ワクチン接種後も人目を気にしてあまり外に出ない、人に会わないといったまさに「自粛」状態を続けざるを得ない状況が続いています。
人にとって人と関わり合うことは言うまでもなく「生活機能および身体機能維持」のために最も大切な要素です。家族とも友人たちとも会えないままで生活していると、孤独感を感じることはもちろんですが、筋力が落ち、食欲がなくなるなど、肉体的にも致命的なダメージをうけることになるとWHOが警告しています。
WHOではこうした高齢者が受けるダメージに対して社会全体での対処が必要であると述べていますが、日本では今まで以上に家族介護の負担増大が顕著になるなど、行政支援が圧倒的に不十分なままに置かれています。
家族介護も限界です。地域間の移動が自粛される中、私たちは家族による介護の限界を今まで以上に思い知らされることになりました。親が住む地域の助け合いや行政による支援に老親の介護を委ねるしかない中、老親を田舎に残している多くの家族が農村地域で厚生連病院が果たす役割の大きさを再認識したのです。
このコロナ禍で全国のJAから経済的支援や防護服などの物的支援が行われたこともまた、JAという組織ならではの横のつながりによるものです。
本来であれば、コロナを経験した日本では公的医療の再生が図られるべきであると考えています。人員が不足する病院に余剰人員を振り分けることや感染者を受け入れても病院の経営を圧迫しなくて済むための制度保障はそれしかないからです。
地域医療や地域介護、それはJAが農協だった時代から担ってきたものであり、民営化が進む中で、JA厚生連は国に代わってこうした公的医療を担ってきました。本来、国はここから地域医療や地域介護のあり方を学び、徹底して支援するべきであると考えます。
未だに病床を減らす方針を変えていない政府に対して、コロナを教訓に緊急時の病床圧迫が生じないよう、普段から十分な人員配置と資材、設備を確保しておく拠点としてJA厚生連病院を含めた地域医療への徹底したテコ入れが必要です。
JAはかねてより持続可能な農業を地域社会の維持と連携させるという目標を掲げてきました。高齢者が多い農村にあって、安定した医療を誰でもが利用できる形で提供できる仕組みを維持発展させていくことは住み続けることができる地域社会の実現にとって必要不可欠な要素です。
寄付やJA内部の財政支援だけでは足りません。行政への働きかけを積極的に行っていってもらいたい、それはこれまで長年この問題に関わってきたJAだからこそできることだと思います。
ルンド市の学校給食、メインの温かい料理とサラダのコーナー(スウェーデンの学校給食は、朝食、おやつを含めすべて無料)
こども食堂への食材供給と農業支援を結びつける
コロナ以前から全国で広がりを見せていたこども食堂はコロナ禍でもさらに増加していることがわかっています。全国調査をおこなった「むすびえ」によれば、2020年10月から12月の調査期間を通じて把握されただけで全国にこども食堂は5,086箇所、この中にはコロナ禍の2020年2月以降に増設された186箇所が含まれており、前回調査時の2019年6月末から1,368箇所も増加しています。こども食堂という名称からは対象が子どもだけのように思われがちですが、実際には親を含めた世帯全体や高齢者にとっての拠点としても重要な触れ合いの拠点となっており、人と人とのつながりが希薄になりがちなコロナ禍の生活環境のもとでその重要性は増しています。周知の通り、JAではこうしたこども食堂への食材提供などの支援を行っており、近年では設置そのものにも関わるに至っています。(福田いずみ「こども食堂の現状とJAの動向―地域共生社会の実現に向けて」『共済総研レポート』No.167,2020.2. https://www.jkri.or.jp/PDF/2020/Rep167fukuda.pdf)
ルンド市の給食は環境対応8割以上を達成し表彰されている。国産利用率も8割以上である
コロナ禍以前から貧困世帯の増加、特に母子世帯や高齢者世帯、独居世帯の貧困化の深刻度が指摘されていましたが、このコロナ禍でますます食事も十分に取れない世帯が増えています。東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏が指摘するように、政府は米価下落の原因を貧困であることを認め、過剰在庫となった、あるいはこれからなるはずの米を買い上げ、人道支援としてこの米を必要な人々に届けるべきです。
未曾有の危機に際して、一方で十分な栄養を取ることさえできない国民がいる、そしてコロナ禍のライフラインである食料供給を支えてきた農業をますます追い込む政府に対して、しっかりものを言うJAであってほしい、それが願いです。
コロナ対策の失敗による貧困の増大だけでも問題ですが、世界同時のパンデミックのもとで国民の生活を支えてきたのはやはり国内の農業生産者なのです。どこの国もできるだけ自国の農業でこの流通の停滞を乗り切ろうとしています。それだけではありません。気候変動問題への対処が急務となる中、長い距離を燃料を使って食料を輸送すること自体にメスが入れられる状況にあって、今後ますます食料自給への関心が高まっていくでしょう。
現に、冬の長い北欧スウェーデンでも学校給食における自国産の利用率向上への取り組みがなされ、今もEU各国は米国などからのホルモン剤が投与された牛肉の輸入を禁止しています。一方で、日本ではこれほどに素晴らしい農業技術を蓄積させ、品種改良を重ねることで収量や食味の向上をはかり、狭い農地を最大限利用できる基盤を作ってきましたが、米余りといいながらもミニマムアクセス米を保持し、補助金もEUや米国に比べても極めて卑小なままにおかれ、農家はまさに自力で歯を食いしばって耐えているという状況です。
今なすべきは、今後もいつ分断の危機に直面するのかわからない食料の輸出入に依存することなく安心して生産を継続できるだけの生産基盤を国民一体で守っていくことです。そのために、JAはもっと国民に積極的に訴え、ともに食料がすべての国民に届くための政府の役割を求めていく運動を展開していってもらいたい、そう思っています。
ルンドを含むスコーネ県のLRF幹部mariaさんと
女性の力を組織拡大に繋げる
女性農業者のジェンダー平等をめぐる問題にもさらなる取り組みが必要です。スウェーデンのJAにあたるLRFでは幹部の男女比が対等です。日本からJAの視察団を受け入れたことがある農家に取材に行った時に言われた話が今も頭を離れません。「視察団の全員が男性で高齢、世話役が女性でお茶を配り男性がそれに対して何もしないことが不思議だった」と。
スウェーデンでも農家には日本と同じく相続権の男性への偏りや長子相続偏重の問題が存在します。それでも、全国組織やその支部では女性は当然のごとく男性と同じ比率で運営に参加します。女性たちが組織全体を見直す機会が得られたことで、次世代育成へのてこ入れが必要であるとの認識が共有されました。
特に、女性たちがトラクターを運転するのは男性の役割との固定観念を持っていることも認識されました。それが、ティーンエイジャーで農業に関心のある若者たちを組織し、サークルを作り、定期的に農家の経験を聞いたり農場体験をしたり、ジェンダー平等について学ぶワークショップを開くなどの活動につながりました。
その中から実際にトラクターを運転したいので農業に従事することを決意した女子生徒や、豚の飼育に関心を持ち農場に通い詰める男子生徒の例が報告されています。次世代をどう育てていくか、すでにスウェーデンの農協では非農家の子どもたちをも含んだ次世代教育に乗り出しているのです。
最後に、コロナでなかなか希望を語ることが難しい中ではありますが、そんな状況だからこそ、息の長い「希望が持てる=持続可能な農業」を取り戻すための努力がJAには求められています。このまま貧富の格差が拡大していけば、さらに消費需要は落ち込み、食事がまともに取れない国民が増えていくことは必至です。農業の維持可能性は国民生活にかかっているのです。JAがさらに国民の中に入って一緒にこういった課題に取り組んでいける組織として力を発揮してもらえることを心から願っています。
【略歴】
あねは・あき 駒澤大学経済学部教授。経済学博士。経済理論と経済学の解析手法を用いて消費・くらし・女性の問題、農村女性の歴史的分析。現在、北欧スウェーデン南部の学園都市・古都ルンドに交換教授として滞在し、調査・研究を行っている。著書に『「豊かさ」という幻想―「消費社会」批判』(桜井書店)、『農村女性の戦後史』(こぶし書房)など。
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