JAの活動:築こう人に優しい協同社会
【コロナ禍を乗り越え 築こう人に優しい協同社会】JAむなかた・小島信昭組合長に聞く 組合員とともに「ふるさとむなかた」の農業振興と地域創り2021年11月22日
福岡県のJAむなかたは玄界灘に臨む宗像市と福津市を事業エリアとする。宗像市には宗像大社、福津市には宮地嶽神社があり、福津市の新原(しんばる)・奴山(ぬやま)古墳群は世界文化遺産に指定されるなど、歴史豊かな地域である。常務理事(信用共済担当)に女性を配置するなど、女性の管理職登用に力を入れている。小島信昭代表理事組合長にインタビューした。(聞き手=村田武・九州大学名誉教授と高武孝充・元JA福岡中央会営農部長)
※高武氏の「高」の字は正式には異体字です
JAむなかた
小島信昭代表理事組合長
――コロナ禍のもとでJAむなかたはどんな影響をうけましたか。
もっとも打撃が大きかったのはトルコギキョウやバラなどの花き部門でした。とくにバラは大打撃で、農協で買い取り、学校や病院に贈るなどの対策をとりました。最近はようやく持ち直してきました。
JA独自の高品質米生産支援奨励金
――2016(平成28)年からの自己改革については、「組合員との対話」を大切にして幅広い取り組みをなされていますね。とくに興味深いのは「高品質米生産支援奨励制度」です。
「自己改革」のトップを切って開始したのが「高品質米生産支援奨励制度」です。むなかた産米は主食用、酒米ともに高い評価を受けてきましたが、化学肥料多投による水田土壌の酸性化が稲の倒伏とあいまって収量を押し下げてきました。これへの対策を本格化させようと、(1)JAへの米出荷者(2)生産調整目標の達成者(3)農協指定の土壌改良材(中和剤の施肥基準量「ミネラルG」10a当たり200kgや倒伏防止剤「くみあい珪鉄」同200kg「くみあい粒状ケイカル」同140kgなど)の施用者であることを条件に、JA出荷1俵(玄米60kg)当たり500円、10a当たりの上限を8俵4000円として奨励金を支給するものです。
2018(平成30)年に主食用米の生産調整廃止にともない、国の「米の直接支払交付金(定額部分)」が廃止されるなかで、これは組合員から高い評価を得ました。2016年に事業開始後毎年200件前後で約1300万円、昨年度までの5年間に合計1057件、6360万円の支援実績になっています。
JA独自の事業であるので負担は小さくないのですが、支援対策農家の米平均反収も0・5俵はアップしています。土壌改良効果も相当上がってきたので、今年度からは中和剤「ミネラルG」の施肥基準量(10a当たり)200kgを100kgに半減させ、JA出荷1俵当たりを250円、上限を10a当たり2000円に減額します。
土壌改良材散布の様子
――水田の暗渠(あんきょ)排水にも力を入れていますね。
これは10a収300kgあった大豆の収量が大幅に落ちてきたことに対する対策です。土中に排水用パイプを敷設するもので、2018年度からの3年間で44haの実績になりました。JA主体での暗渠排水事業はめずらしいと思います。
パッケージセンターで園芸農家を支援
――イチゴなど園芸作物の栽培が盛んで、園芸農家支援にも力を入れていますね。
そのとおりです。高齢化のなかでとくにイチゴについてはパッケージ作業が栽培の維持のネックでした。現場をよく知る職員から何とかすべきだとの要請もあって、パッケージセンターを設置しました。約4年間の仮設作業所を経て、パッケージセンターを農協本店の敷地に設置し、2020年11月にイチゴ「あまおう」のパック詰め作業受託を開始しました。
イチゴ栽培農家約50戸のうちパッケージセンター利用は新規就農を含め30戸にのぼります。現在のパッケージセンターは、11月~5月のイチゴ、6月~8月のオクラ、7月~10月のイチジク、8月~12月のミニトマト、さらに通年の「ふるさと納税品返礼品・インターネット通信販売」と、年間を通じる稼働になっています。パッケージ作業を行うのは近隣団地の女性で、平均50人前後が働いています。出荷箱の組立作業は、農福連携事業として近隣の障がい者就労支援施設がやってくれています。このパッケージセンターは、高齢化で栽培面積の縮小を考えていた農家の作業負担軽減で、面積維持に確実に貢献しています。
農作業ヘルパー
――農作業ヘルパーの紹介もいいですね。
農繁期の労働力不足を解消するための農作業ヘルパーの紹介(厚生労働省に届出済の無料職業紹介事業)を開始したのは2015年です。これも近隣に非農家住民が増えていることを利用したものです。
2020年度のヘルパー登録者数は96人、利用組合員は延べ77戸、ヘルパー派遣人数は延べ166人になっています。水稲は種・田植えの補助、イチゴや野菜の定植・管理作業など、組合員農家だけではなく、働き場ができた近隣住民にも喜ばれています。
専業・兼業農家の多様性、そして近隣住民との共存
――組合員とともに"ふるさとむなかた"の農業振興と地域創りというJAむなかたの組合理念をめぐって、小島組合長の抱負をお聞かせください。
今後のこの地域の農業振興と地域創りにとって、ともかく農地を守ることが不可欠で、それには「頭数(あたまかず)」が必要です。優秀な高品質生産農家に加えて、半農×半X型の多様な兼業農家の存在が求められます。Uターンを含めて後継者の確保に力を入れたいですね。その点で、ここには農協も半額出資して(財)むなかた地域農業活性化機構が2010(平成22)年に設立されています。
この機構を生かして農地集積を進めて耕作放棄地を増やさないこと、新規就農者支援の本格化で成果をあげたいですね。
さらに、JAむなかた直営の地元産米100%の米粉を使用した米粉パン工房「姫の穂」、キャベツ加工部会の設立とそれを支える予冷庫の野菜集荷場への設置、玄米黒酢・純米酢、「むなかたの旬採りジャム3本セット(いちじくジャム・とまとジャム・あまおうジャム)など加工品づくりをしてきましたが、今後も「JAむなかたオリジナル加工品」の開発を進めたいですね。
パッケージセンターで働いてくれている女性のイチゴ端境期の夏場の仕事起こしとして、あまおう、ブドウ(シャインマスカット)、アスパラなどの冷凍・出荷作業を始めましたが、ネット販売でよく売れています。
――最後に、政府の農政にたいして一言。
食管制度を復活しろとは言いません。しかし、農業の多面的機能を評価するといいながら、市場原理一本やりでは困ります。国は政府米の備蓄量を増やすべきです。
政治とは常に富の再配分のはずです。「分配」を大事にするという岸田新政権にはそれを実際にやってもらわなければなりません。
【現地レポート】女性がJAを下支え
アグレスマネジャー(女性部長)の増田富枝さん
アグレスマネジャー(女性部長)3期目の増田富枝さん(68)は、コロナ禍で女性部の会合やイベント開催が中止され、「顔と顔を合わせることができない」ことに苦労されている。女性部の支部長などリーダーが、活動できないことで達成感を味わえないことが最大の問題だという。なるほどコロナ禍にはこういう影響もあるのだと思わされた。JAむなかたの加工品、たとえば大豆発酵「テンペ」は女性部が開発に貢献したことを誇りにされている。
コロナ禍後の女性部活動では、むなかたならではのSDGs活動は何にポイントを置くべきか、九州特有の問題、すなわち農家家庭内での女性の地位を引き上げること(SDGsの第5目標―ジェンダー平等を実現しよう)を運動の目標にするのはどうかと、女性部地区リーダーとの熱い議論が期待される。
国は農業を潰す気か
JAむなかた管内の福岡県稲作経営者協議会のメンバー
JAむなかた管内の福岡県稲作経営者協議会の中心メンバーに集まってもらった。彼らは青壮年部が2013(平成25)年に組織した「JAむなかた有害鳥獣害駆除研究会」のメンバーで、箱わなの狩猟免許を取得しての駆除活動に参加している。
管内の稲作トップ経営の寺島康文さん(50、主食用米21ha、麦32ha)は、「農業を潰すわけにはいかない。年間最低400万円を払える雇用を確保できる条件をわれわれ原料生産農家に与えるのが国の責任だろう」。安倍政道さん(50、水稲+露地野菜、農協理事)や舩津義樹さん(73)・幸江さん(74)夫妻も「米価が安すぎる。国は主食を守ってほしい」という。若手の清水陽介さん(42歳、水稲・麦・大豆+露地野菜)は、ため池や農道の管理に苦労している。国の「農地・水保全管理支払交付金」による地域の維持は無理がある」という。
彼らが会員である福岡県稲作経営者協議会は来年2022年に設立35周年を迎える。その記念事業のひとつとして、「フードバンク福岡」に米の支援を行おうとしている。
【取材を終えて】
国の農業を犠牲にした自由貿易政策による外圧に押されて、主穀である米をはじめとする農産物価格の低迷が生産農家の高齢化と世代交代の困難を生むなかで、地域農業の産出高の後退を避けがたくしている。古くからの良食味米産地である宗像市・福津市にあっても、そうした趨(すう)勢に引きずり込まれる事態を迎えている。JAむなかたの、独自財政負担をもってする「高品質米生産支援奨励制度」やパッケージセンター建設をはじめとする多面的な自己改革の取り組みは、何とか、むなかたの産地力を確保したいというJAの思いを示すものである。
女性部長の増田さんや稲作大規模経営の皆さんからは、そうしたJAの心意気をバックアップする覚悟を聞くことができた。なお、組合長インタビューを初めとする取材の設定や直売所への案内などで、企画広報課長の黒田賢治さんにお世話をおかけした。
【JAむなかたの概況】
JAむなかたは1977(昭和52)年に5農協の合併で生まれており、正組合員は2800人、准組合員は2万人を超える。准組合員が増えているのは、管内が福岡市と北九州市のほぼ中間に位置し、近年では新興住宅団地に住み、両市に通勤する勤労者市民が増えていることによる。管内の水田には水稲859ha、麦521ha、大豆271haの作付けがある。2020(令和2)年度の販売額は、24・1億円で、イチゴを中心とする園芸が9・4億円(39・2%)とトップを占め、次いで米の7・5億円(31・3%)、麦・大豆の2・3億円(9・6%)、直売所の販売が4・3億円(18%)である。
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