JAの活動:築こう人に優しい協同社会
【2021年を顧みて】谷口信和・東京大学名誉教授(下)分断と対立の克服 協同運動に可能性2021年12月20日
本紙は今年「コロナ禍を乗り越え、築こう人に優しい協同社会」をテーマにJAの活動レポートや識者から提言を発信してきた。2021年も残すところわずか。谷口信和東京大学名誉教授に「回顧」と、2022年の課題を提起してもらった。
やさしくないニッポンの現実
そんなことを考えていた時に衝撃的な事実に出会った。本年6月に英国の慈善団体が発表した「世界人助け指数」である。それは「過去1カ月に、(1)見知らぬ人を助けたか(2)慈善活動に寄付をしたか(3)ボランティア活動をしたか」という問いへの回答を指数化したもので、日本は114カ国中でみごとに最下位だった(朝日新聞11月27日夕刊3面および、田中世紀『やさしくない国ニッポンの政治経済学』講談社選書メチエ、2021年)。
田中世紀氏によれば、「日本人は他人に冷たいという傾向は他の調査でもみられる」そうで、米国の調査会社の2007年の調査結果を指摘している。政府は貧しい人々の面倒を見るべきだという項目に同意すると答えた人の割合は英国91%、中国90%、韓国87%に対して、日本は59%に止まって47カ国中の最下位だったというのである。
日本人は絆意識が強いと言われるが、それは幻想にすぎないということなのだろうか。確かに「自助・共助・公助そして絆」を唱えつつも、実際には自助の圧倒的な優先性を説いていた菅義偉前首相がそれなりの支持を得ていたことからすれば、当然なのかもしれない。
こども食堂とJA
しかし、私は以上に述べたような日本社会が抱える分断と対立の構造の下で、貧困の一つの形を克服しようと、全国各地で自然発生的に燎原(りょうげん)の火のごとく展開してきたこども食堂運動に注目したい。湯浅誠氏によれば、こども食堂は人をタテにもヨコにも割らない場所だという。
行政サービスが対象者を年齢・属性・所得などで、縦割り・横割りして特定のサービスを貼り付けているのに対して、こども食堂は「こどもが一人でも安心して行ける無料または低額の食堂」だが、決してこども専用ではなく、大人も高齢者も集える「多世代交流の地域拠点」であって、決して食事の提供だけに止まってはいない。無縁社会化しつつある地域において、(1)にぎわいづくり(地域活性化)(2)こどもの貧困対策(3)孤食対策(4)子育て支援、虐待予防(5)高齢者の健康づくりを通して、つながりを取り戻そうとする運動である(湯浅誠『つながり続けるこども食堂』中央公論新社、2021年)。重要なのは全員が運営者であり参加者でもあるという点だ。
先に述べた世代間の意識の差を克服し、日本人の6割以上が「社会のために役立ちたいと思っている」(2020年内閣府調査)現実に寄り添った分断と対立の構造の克服にとって、子ども食堂運動の経験は多くの示唆を与えるのではないか。
新型コロナ禍の下で、各地のJAはとくに食材を提供する形でこども食堂を支援し始めたが、それに止まることなくJAの活動・運動そのものにこども食堂の豊かな経験を取り入れることが大切ではないかと思われる。なぜなら、JAの運動はほとんどが、年齢別・性別・作目別...のように人をタテとヨコに割って組織化するものである。
また、しばしば組合員の自主的な組織であるという建前とは異なって、お客さんに純化しつつある組合員に対してJAの職員がサービスを提供するだけの組織への傾斜を強めている。このプロセスに再生の息吹を吹き込む上でこども食堂の経験は参考になるに違いない。
年末にうれしいニュースが飛び込んできた。JAの女性総代の割合が初めて10%を超え、女性役員の割合も9・4%へと伸びて、22・9%の女性組合員比率とともに過去最高の水準になったという。遅れていると言われ続けてきた農業・農村・JAの領域で今新たな時代の息吹が感じられる。
まだまだ冬の時代を通り越さねばならない日本社会だが、協同組合運動の新たな息吹が雪と氷の世界に暖光を導き入れ、お花畑の夏山に我々を誘うことが望まれる。2021年はそうした可能性の扉を少しだけ開いてくれた年になった。2022年に期待したい。
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