JAの活動:実現しよう!「協同」と「共生」の新しい世界へ
【新春放談】人間、協同、農の根源に迫る 内山節氏×古村伸宏・日本労協連会長×村上光雄・農協協会会長(1)2022年1月6日
農的な福祉国家が理想「文化」を育む協同労働
ヒトは「自然」に働きかける(労働する)ことで「協同」し、かつ自然と「共生」してきた。地球温暖化などに見るまでもなく、その関係が崩れると、人々は大きな不幸に見舞われてきた。新自由主義と言われる大きな社会変化のなかで、われわれは「自然」とどのように「居り合い」をつけるべきか。哲学者の内山節氏、労働者協同組合連合会理事長の古村伸宏氏、農協協会会長の村上光雄氏が、それぞれの立場から意見交換した。
【出席者】
・哲学者 内山節氏
・日本労働者協同組合連合会理事長 古村伸宏氏
・一般社団法人農協協会会長(司会・進行) 村上光雄氏
若者に芽生える働く価値観変化
村上 欲張ったテーマ掲げましたが、「協同」と「共生」について考えたいと思います。まず、ことし10月に施行となる労働者協同組合法(労協法)に向けた思いを古村理事長から。
古村 われわれが40年余かけて取り組んだ労働者協同組合(労協)が、一昨年の12月に法律になりました。実際に法律を動かすには、税制や組織の移行など多くの課題がありますが、労協について誤解なく伝え、受け止めてもらえる元年になると思います。
問い合わせも多く、法律ができて何をするのか、また何を変えるのか。労協という乗り物が向かう方向を思考しながら定め直し、広げたいと思います。同時に労協の労働者とはどういう存在で、従来の雇用労働者とどこが違うのか、協同労働とはどういうことかについて一人ひとりの実感、体感を積み重ねていく必要があります。
40年以上試行錯誤でやってきて、いま約1万5000人の組合員がいますが、協同の難しさ、面白さを体験してきました。やってみないと分からないところがありますが、体験を共有し交流することで協同労働、われわれはそれを「文化」と言っていますが、それを育くんでいきたいと思っています。
内山 私が暮らす上野村(群馬県)は、コロナの影響で観光客は減っていますが、ことしも何とかやれるのではないかと思っています。というのも、上野村は人口1100人くらいで、役場の人は全村民の名前が分かる規模です。それだけ血の通った行政ができます。
また、村内は協同組合だらけといってもよい状態です。95%が山林で森林組合がしっかりしており、農協だけでなく川の漁協もあってそれぞれ加工場や店舗を持ち、地域の雇用の場になっています。町の直営や第3セクターの事業もあり、資本主義の企業とは違う形で地域のみんなの仕事場になっています。
市場競争ではなく、協同組合的な職場によってみんなが生きていける場所がありますので、それが束になってムラを守る形がある限り、何とかやっていけると思います。
世界は横暴な資本主義の支配下にあります。それとは異なるものをどのようつくっていくかは世界的な課題です。小さな協同組合的な働き場所でありながら、面として広がる形をつくるのが市場主義経済と向き合う一つの姿ではないでしょうか。それは労協だけでなく、利益追求とは違う社会貢献的な組織をつくることだと思います。若い人のなかにそうした動きが出てきています。それらが結びついて面になって社会に影響を与え、少しでも前に進めばと願っています。
村上 広島県の中山間地域で、若者のそうした動きはピンときませんが、全体では大きな流れがあるのですね。
内山 企業に勤めたくないが、将来役に立つスキルアップのために一度企業に勤めたいというのが、いまの若者に増えています。
古村 私もそれを感じています。新卒採用を担当していたことがありますが、世の中に役に立つ仕事をしたいという若者が多くなっています。特に1995年の阪神淡路大震災で若い人々の働き方への意識変化がおこりましたね。ここ数年大学の寄付講座を広げていますが、学生の労働観が変わってきていると感じます。企業で働くことにマイナスイメージを持ち、自分の価値観を削ぎ落とすことによってでしかお金を手に入れることができないと考えている面があります。暮らしのなかで大事にすることと働くなかでの価値観が異なり、自己分裂しているように見えます。
では価値観を一致させる働き方はないかということで、働く中に「学び」をビルトインしながら、自分らしく働くことへの欲求がみられます。自分らしさを発揮するには、みんなのために働くことだという感覚が熟し始めているのです。
内山 東日本大震災のあと、大学生の話を聞く機会がありましたが、災害に備えて非常食などを用意しているという。その理由は、自分が無事なら他の人を助けることができるからだというのです。
村上 それはすばらしい。明るい兆しですね。では「働く」ということについて話を深めたい。コロナ禍で、働く職場の喪失、テレワークでの仕事が生まれ、働き方が変わってきていますが...。
主体性を持ち市場経済脱却
古村 協同労働について、組織内では定義がありますが、取り組んでいくなかで、次々と新たな気づきがあり、その定義はどこまでいっても不完全だと感じています。協同労働はいきなり生まれたわけではなく、失業のなかから、自分たちで協同して仕事をつくることから始まりました。
ずっと働き続けるには、地域で認めら支持される仕事であり、「よい仕事」でなければなりません。その原動力が、一人ひとりが主体的に働くということであり、それが協同労働につながるのです。
労協の仕事は子育てや介護などが多く、利用者は子どもや高齢者ですが、本人だけでなく、その家族にとってもよい仕事でなければなりません。働く人だけでなく、仕事を真ん中において、関係する人が行き来する協同の関係がないと、仕事はよくなりません。
地域、コミュニティーにその仕事がどういう影響を与えるか考えることが、まさに協同の関係づくりにつながります。仕事と地域の協同の関係が広がると、仕事そのものが豊かになります。そこで先に内山先生が指摘された若者のありようがクロスしつつあるのではないでしょうか。
一方で非正規就労が増えています。労働が商品化、部品化し、それをよしとしてきた流れがありますが、そうではなく、労働と自分がどういう価値を持っているか、見直す必要があります。労協法はそれにチャレンジするチャンスだと思います。
「働」には、「はたらき」と「はたらく」の二つの読み方がありますが、客観性のある「はたらき」には、その人の個性や存在があります。自立支援にはそうした捉えかたが大切です。同じように「自ら」には「おのずから」と「みずから」の読み方がありますが、その人が「おのず」とすっくと立ちあがる環境をつくることが労協の役割です。
内山 現在では「おのずから」は「自然に」で「みずから」は「自分で」という使われ方をしていますが、本来、あまり意味は変わりません。「おのずから」が分かってこそ「みずから」の役割が分かると考えられてきたのです。農業に当てはめると分かりやすい。「みずから」12月に田植えはできません。米づくりの「おのずから」が分かっていて、それ応える形で「みずから」やるのです。
あらゆるものは「おのずから」があり、人々はそれを大事にしてきました。地域社会への貢献なども同じです。それが自然でした。いまは「金だけに」なり、「おのずから」を忘れてしまったのです。また、「おのずから」の労働がどこにあるか分からなくなり、「おのずから」が感じられるような仕事がしたいという願望が強まっていると感じています。
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