JAの活動:実現しよう!「協同」と「共生」の新しい世界へ
幸南食糧株式会社・川西修会長に聞く モノを売る前にやることがある(1)【特集:実現しよう!「協同」と「共生」の新しい世界へ】2022年1月7日
経済・社会環境だけでなく、人々の価値観も大きく変化する時代に、企業はどのように対応するか。このことは協同組合組織にも問われている。政策に翻弄され、消費の変化にさらされ米を扱い、小さな小売店からスタートし、独自の経営哲学で社員をやる気にさせ、年商250億円の米卸メーカーに育て上げた大阪・松原市の幸南食糧株式会社会長の川西修氏に聞いた。(インタビュアーは下小野田寛・JA鹿児島きもつき組合長)
幸南食糧株式会社・川西修会長
時代の変化つかみ"小さな"一流追求
【略歴】
1946年 香川県生まれ。高校卒業後、大阪に出て米穀業界で修業。71年7坪の貸し店舗で一人で独立起業。76年 幸南食糧(株)、米穀卸メーカー設立。2011年幸南食糧(株)取締役会長。現在、関連会社4社の代表取締役を務める傍ら、自分の歩んだ経営を通じての講演活動。21年NPO法人農産物加工協会代表理事。
――川西会長は日ごろから、「ライバルは『時代』だ」と言っておられます。その「時代」とどのように対峙(たいじ)してきましたか。人(社員)、組織(会社)を元気にさせ、地域を盛り上げるため、どのような取り組みをしてきましたか。経営についての会長のお考えとこれまでの取り組みを聞かせてください。
私は香川県で生まれ、育ちました。両親は戦時中、山あいの村に疎開し農業や林業の仕事を手伝いながら子ども3人を育ててくれました。小さいころ満足に食べられなかったこともあり、なにか食べ物に関係する仕事をしたいと思い、18歳のとき大阪に出て米の卸問屋で働いたのが、米との関わりの始まりです。
26歳まで米問屋のお世話になりましたが、お客様から商売で大事なことを学びました。「商売はモノ(米)売りではあかん」ということです。お客様の店舗は大阪のど真ん中にあり、家賃が高いので米屋は間口が狭い店ばかりでした。何十台もの配達用の自転車の置き場所がなく、天井につるしていましたが、それを片付けるため、自分の仕事が終わった後、お客様の店舗を回りました。それを重ねると、「ありがとう」と言われるようになり、新しく米の注文が入るようになりました。小さなことでもいい。お客様に喜ばれることをやることの大切さを実感しました。
――そうした気づきが生まれる源はどこにあったのですか。
前向きな心と発想力でしょうか。少しでも親を楽にさせてやりたいと思って大阪に出て、苦しくても辛くても後には引けないという気持ちがありました。26歳のとき念願の独立を果たし、松原市に7坪(23・1平方メートル)ほどの小売店を持ちました。
当時松原市には43軒の米屋があり、後発の小さな米屋が入り込む余地はありませんでした。その時考えました。他の米屋がやっていないことはないかと。当時、新興住宅地では共働きが多かったのですが、米屋は一斉に土日曜・祝日は休み、午後5時には閉店するなど営業時間も決まっていました。そこで私は、朝6時から夜12時まで店を開きました。もとからの米屋は怒りましたが、7年で地域ナンバーワンの米屋になりました。その時、消費者の変化をつかむことの大切さを知りました。ライバルは同業の米屋ではなく、時代の変化だということです。
聞き手・下小野田寛JA鹿児島きもつき組合長
――まさにプロダクトインからマーケットインへの切り替えですね。
従来のやり方に縛られない後発だからできたことだと思います。当時の43軒の米屋は、いま1軒も残っていません。このほか大手スーパーに対抗するため、外食店等にご飯のおいしい炊き方を教えるなど、他の米屋のやらないことに挑戦し、顧客を増やしました。
そのなかで気づいたのは自社ブランドの必要性でした。産地ブランドがあるのなら、消費地ブランドがあってもいいのではないか。同じ産地でも、栽培管理をよくする人とそうでない人では、米のおいしさが違います。それと同じで、同じ品種でも小売店ごとに違うはずです。そこで、当時は奥さんが炊飯する家庭が多かったことから、「おくさま印」という弊社独自のブランドをつくりました。
最初、市場の反応は冷たいものでしたが、300ほどの店舗を持つ大手スーパーが、おくさま印ブランドに興味を持って、取引していただき、売り上げを伸ばしました。今では会社名の幸南食糧より「おくさま印」の方が通っています。ブランド浸透まで10年くらいかかりましたね。一方で、信頼や信用を失うのもブランドです。ブランドを維持、高めるためには人の教育が大事。ブランドと教育は表裏一体です。
――産地もブランド力が、これから求められます。諦めないことが大事ですね。御社は人材教育でも知られています。その考えは。また具体的にどんな取り組みをしてきましたか。
卸メーカーになって5,6年後のことですが、取り扱いの3割ほどを占めていた大切なお客様から突然、取引中止を言い渡されたことがあります。理由を聞くと、「あんたのとこの社員はあいさつをしない」という苦情でした。モノのクレームから人のクレームの時代になっていたのです。そこで社内あいさつの徹底を呼び掛けました。
社内でできないと、これからも同じ問題が起こると考え、まず社内からということです。いまでは年齢、社歴、肩書、性別を問わず、朝、出勤すると「おはようございます」とあいさつします。
どうせやるなら握手して、ひとこと声をかけるようにしたらどうか、という社員の提案があり、「元気体温計あいさつ」と称して運動しました。全社員に広がるのに3年半かかりましたが、このあいさつの仕方・取り組みがテレビで紹介され、大きな反響がありました。
弊社の幹部候補の基準は営業成績でも、社歴、年齢でもありません。あいさつの上にもう一言付け加えてあいさつできる職員です。つまり人の心に火を着けられる人がリーダーの資格があると考えています。
幸南食糧株式会社・川西修会長に聞く モノを売る前にやることがある(2)
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