JAの活動:【JA全農の挑戦】
【JA全農の挑戦】新春座談会:輸出最前線 現地責任者の思い(2)日本の農畜産物にブランド力2022年1月12日
国産の農畜産物がどのような評価を受けており、輸出の拡大にはどのような取り組みが必要か。最近、国内では少子化やコロナ禍で農畜産物の需要が減少しているものの、海外では米国や香港で、Eコマース向けの需要で牛肉やコメの輸出が伸びている。海外輸出の第一線で活躍するJA全農の6人の海外駐在員にオンラインで輸出の現状と課題を報告してもらった。 (司会進行は作山巧・明治大学農学部食料環境政策学科専任教授)
「ジャパン」ブランドで差別化
廣木 また、日本のスーパーでは当たり前に売っている薄切り肉を、英国ではほとんど売っていません。販促していくには、しゃぶしゃぶ、すき焼き、牛丼といった薄切り肉を使うメニューも普及させていく必要があります。和牛はサシが入っていて見た目が違い、試食するととろける食感もあるので「違い」が分かりやすいです。お米は違いがなかなか分かってもらえません。さまざまな国からの輸入米が出回り価格競争になる中で日本の米を販促しようと、ロンドン郊外の酒蔵で日本から精米を輸出し「米ビール」というオリジナル商品をつくるなど試行錯誤しています。
西村 米国の課題は品目が圧倒的に少ないことです。デコポンもふじリンゴも、日本から品種が流出し、こちらで育っています。大きさはばらばらですが価格は安い。その点和牛は、ビーフとは違うジャンルと認知されています。もう一つの課題は各県ごとにアピール、販促していることです。日本の県名や都市名は米国ではほとんど通じません。何が日本の強みかを掘り起こし、知財も含め「ジャパン」で括ってブランディングしていくべきでしょう。日本で余っているから輸出するのでは、差別化の部分でつまずくと思っています。
作山 皆さんのお話から課題が明確になりました。次に将来像をお願いします。国が2030年に5兆円という農林水産物の輸出目標を掲げ、全農でも具体的にご議論されていると聞いています。2030年、どういう姿に持っていきたいと考えていますか。
東南アジア購買力上昇
祝部 シンガポールは人種のるつぼと言われ、中国系、マレー系、インド系などの人々がいますが、東南アジア各国は嗜好も含め比較的似ていると感じます。シンガポールでの経験を生かし、タイやベトナムに横展開していくことが消費拡大になると思っています。世界では消費力、特にいいものを買おうとする力が盛り上がっているので、日本の農畜産物の良さを前面に出しながら海外に届けていこうと思います。
固定概念捨て発信を
金築 海外市場を見据えた農業ビジネスを行うには固定概念を捨てて意識を変える必要があります。日本の人口が減ると国内市場は小さくなるので、成長の活路は外に求めるしかありません。今は国内のマーケットを見て生産している人たちに海外の魅力を発信し、売れる仕組みづくりを通じて、「ルック中国」「ルック香港」となるようにしていきたいと思います。
環境問題の重要性増す
仮屋園 康人氏(台湾)
仮屋園 日本産にはよいイメージがあります。その期待に応えられるものを届けることに尽きます。有名なJAグループの出先ということで、お客さんの方から来てくれることも多々あります。うちは後発なので、売れているものを仕入れようとしても回ってくるものがないということもあります。日本の産地との連携をどうつくってもらえるか、考えています。
辻野 2030年の姿としてイメージするのは、全農ブランド・JAブランドが世界の市場でどこでも目にする光景です。そして、日本の技術での海外でのライセンス生産も当たり前になっていると思います。柱はABCの3つ。Aはアライアンス、産地とマーケットをつなぐには、現地マーケットにおけるパートナーとの結びつきが必須です。海外はスピードが速いのでPDCAサイクルでは遅い。P(計画)の前にDO(行動)。まず動き、修正しながらグルグル回す。
Bはブランディング。全農・JAマークがついていればトップブランドだと思われるブランディングをしていきます。それには人、たとえば産地の人が登場しストーリーを語っていく、マーケットに語り掛けていくことが必要と思います。
Cはコンプライアンス。和牛解禁で売り上げが伸びればいいというだけでは持続しません。SDGs、ESGにもとづき、カーボンニュートラル、環境負荷を低減させる取り組みを進めたい。中国をめぐってはネガティブな報道も目立ちますが、米国商工会はビジネス交流を活発に進めています。日本も戦略的対応が必要で、固定概念を捨てて意識を変えるというキーワードは私もすばらしいと思います。
産地の力 発展に直結
廣木 正憲氏(英国)
廣木 日系・アジア系のお店だけでなく現地のスーパーや量販店に日本産のものが普通に並び、こちらの消費者も、お米を炊いたりホットプレートで和牛を焼いたりすることが普通になればと思います。寿司やカツカレーの次におにぎりや丼ぶりもブームにするためメニュー普及にも取り組みます。ブレグジット(英国のEU離脱)もあったので、大陸側にもJAの拠点を出したいという想いもあります。
西村 「日本食はおいしい」というところをアピールしていきたいです。こちらの貿易関係者に「おいしいは世界を制す」と言われました。その「おいしい」を戦略にしたい。もう一つはSDGs。アメリカにいると、イケてる企業はどこもSDGsをアピールしています。農業の環境負荷にも議論がありますが、私たち日本人は先史以来、環境にやさしい農業を営んできました。それをストーリーにし、付加価値を付けて輸出していくことが全農に求められると思います。
作山 巧氏
作山 最後に、2022年への決意と日本の生産者へのメッセージをお願いします。
祝部 海外の消費者に日本の生産者の想いと日本産のいいところをしっかりとPRしていきたいと思います。産地の皆様には伸び行く世界のことを実感していただくようつないでまいりますので、これまで以上に輸出を意識した取り組みをしていただければと思います。
金築 生産者のみなさんのおかげで私たちは販売できています。お体に気を付け、これからもよろしくお願いします。期待に応えられるよう、これまで社員と積み上げてきたことを明日も進めます。
仮屋園 産地のみなさんには、台湾の人たちにこれからもおいしい農畜産物を届けてほしいです。こちら台湾においても商売を伸ばすと同時に営業体制を整えていきます。
辻野 中国はチャレンジングなマーケットです。産地のみなさまと一丸で、日本産の食品を中国の方々に広く届けたい。そのためのストーリーを一緒に発信していきましょう。私たちは懸け橋になり、産地と中国の消費者とをつなげていきます。
廣木 私たちも少しでも多く販売できるように、日本の生産者とヨーロッパの消費者を結ぶ懸け橋になります。新しいお客さんむけの商売を増やし、数字を積み上げることが目標です。
西村 生産者のみなさんが安心して生産し、全農に出荷していただける価値をつくっていきたい。「新しい生活様式」に日本食をどう取り込んでいくか。「まずはDo、次にPlan」で、生産者の期待に応え新規開拓にチャレンジします。
作山 海外拠点のみなさん、とくにロンドンとアメリカは時差もあるなか、ありがとうございました。海外拠点の活動の輸出への効果については、今年研究を進めたいと思っています。全農の輸出事業の発展と現地拠点のみなさんのご活躍を祈念し、座談会を終わります。
◇ ◇ ◇
今年度輸出目標170億円
JA全農の海外戦略の柱の一つに農畜産物の輸出がある。2021年度は170億円の輸出目標を立てて輸出拡大に努めている。そのため全農輸出対策部では、シンガポール、中国、香港、台湾、英国、米国に職員を派遣し、国産農畜産物のPRや販路開拓に努めており、国内需要が頭打ちのなか、海外市場の拡大によって国内農業の維持・拡大をめざす。
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