JAの活動:【JA全農の挑戦】
【全農の挑戦】座談会 直売所から未来創造 元気な循環型社会を(1)2022年1月13日
JAグループの基本目標は「農業者の所得増大」と「農業生産の拡大」、そして「地域の活性化」である。同時に農協法の第一条には「国民経済の発展に寄与することを目的とする」とあり、全国の多くのJAが展開しているファーマーズマーケットは、その目標実現の一翼を担う重要な事業だ。そこにJAグループの持つ「ネットワーク」の強みと、農業と地域づくりの新時代に欠かせないDX(デジタルトランスフォーメーション)を組み合わせれば、どんな世界が広がるのか。地域循環型社会を実現するJA直売所戦略をテーマにそれぞれに思いを持つ関係者に語り合ってもらった。
【出席者】
和歌山県JA紀の里元常務理事 大原稔氏
JA全農米穀生産集荷対策部次長 小里司氏
全農ビジネスサポート事業開発推進部事業開発課課長(兵庫県JAたじまから出向中)塩見真仁氏
《司会》全農ビジネスサポート代表取締役社長 久保田治己氏
和歌山県JA紀の里元常務理事 大原稔氏
【生産者の思い届ける】大きい直販利点 利用者に納得感
久保田 JAファーマーズマーケット(以下、JA直売所)を核とした元気な地域づくりをテーマに話し合いたいと思います。最初に塩見さんからJA直売所への思いを、JAたじまでの経験をふまえてお話しいただけますか。
塩見 JAでは金融、共済を経て営農に携わり「コウノトリ育むお米」の販売担当をしていました。今でこそ、「コウノトリ育むお米」はブランド米として認知されていますが、当初はなかなか売れず苦労しました。
そのときに助けてもらったのが、ある直売所です。環境保全型の米づくりに共感したので取り扱いたいと連絡をもらい、それで直売所の可能性を非常に感じました。全国1500以上のJA直売所にこうした農産物を提案して取り扱ってもらえれば、たとえば環境保全型農業ももっと広がっていくのではないか。
全国には生産者の思いが詰まった農産物がたくさんあり、自分で値段をつけて売っていきたいという生産者も大勢いると思います。そういう生産者を支援する仕組みを改めて直売所からスタートさせられないか、そのためにJA直売所を結ぶネットワークを構築できないかというのが私の思いです。
久保田 そうした構想を実現するためにも、まずは大原さんから「めっけもん広場」の経験をお聞かせいただけますか。
大原 JA紀の里は1992(平成4)年に合併しましたが、合併前のJAでは海外研修で米国のファーマーズマーケットの視察、小規模ふれあい市場の運営など、農産物の販売方法についてさまざまな挑戦や議論を行っていました。大型の直売所を作るという提案は合併後に引き継がれ、議論を重ねました。しかし、反対意見も強くて、なかなか認められず8年後の2000年にようやく開設できました。
店長は手上げ方式で決めました。最初の壁は、この広い売り場をどう農産物で埋めるか。初代店長に決まった彼は、店を開けたものの荷物がまったくない、という夢ばかり見ていたと言っていたのを覚えています。そのときに教えてもらったのがJAいわて花巻の「母ちゃんハウスだぁすこ」です。半年ほど研修に行き、その経験から自分たちなりの方式を作っていきました。
どんな事業でも苦労はありますが、私が考えたのは、目的、目標を決めること、継続させるべきものを整理しようということでした。「めっけもん広場」のテーゼや、出荷者の組織化、生産者の仕事とJA事務局の仕事の明確化などです。そしてそれが協同組合原則に合っているか、組合員のためになっているか、必ず見直すことを心がけてきました。
直売所の運営ルールを生産者にどう納得してもらうかが一番の苦労だったかも知れません。出荷者は1200人ほど、私たちは出荷者大会を全員参加としました。しかし、実際に出荷者全員が大会に足を運ぶようにするにはどうするか。店長に考えてほしいと指示したところ、出荷者大会に出席しない場合は出荷停止とします、と書きよった(笑)。こんな案内文書はとても出せん、誰が責任を取るんか、となりましたが、店長が苦情は自分で受けます、と。結局、みんな文句たらたら言いながらも参加してくれました。
こういう仕組みをきちんと作り、店長が変わっても体験も含めて引き継いでいく。これを心がけてきました。もちろん時代の変化にも対応しなければなりませんから、店長にはさまざまな外部の研修に行かせました。井の中の蛙にならないためです。
久保田 苦労の一端をお話しいただきましたが、たとえば出荷者大会には必ず出席を、というのはやはり協同組合の原則だと思います。米国の農協のサンキストも全利用が条件になっていたはずで、日本の独禁法の考え方が世界標準とは逸脱している可能性があります。そうした協同組合としてのJAが試行錯誤しJA直売所をここまで育ててきたわけですが、全国連の全農は系統三段階の機能分担論もあってJA直売所にはほとんど関与してきませんでした。小里さんはどう考えますか。
小里 JA直売所は地域によってその意義に違いがあるとは思いますが、特定品目を大量に生産する大産地にあっても、少量多品目生産や有機栽培に取り組む生産者、あるいはI・Uターンや定年後に就農する小規模生産者もいます。そうした人にとってJA直売所は無くてはならない販売拠点であり生き甲斐ですし、もちろん大産地化が難しい地域にとっては、生産者全般にメリットをもたらす場所だと思います。
そこに全農がほとんど関わってこなかったのは、全農が関わっても生産者やJAのプラスになることが少ないと考えてきたからだと思います。
昨今、コロナ禍で来店客数が減少した直売所も多いようです。そこでどう売るかというときにEC(ネット上でのモノの販売)が注目されましたが、直売所単独あるいは生産者自身が取り組んでみても思ったほど売れないという声をたくさんの方から聞いています。
一方、もともとECを活用して米等を消費者にダイレクト販売している生産者も多いと思いますが、宅配料が15年前にくらべて3倍近く値上がって「品代にくらべて運賃が高すぎる」と客離れが進んでいるという実態もあります。
そこで全農として何かできないかと考えたのが、JA直売所を網羅したECサイトの開設と直売所バックヤードを活用した宅配発送拠点のしくみです。宅配大手と交渉してみたのですが、地方でたくさんの物量が集まりまとめて発送できる拠点をつくれば、宅配料は大幅に下がりそうです。先ずは全農が全国の直売所をまとめたECサイトをつくって集客し、各直売所のEC販売量を大幅に拡大する。さらに、個々の直売所は、個人通販している生産者の農産物を受託発送する。これにより、JA直売所は地域で最大の配送拠点になるはずです。JAに持っていけば運賃が安くなるということなれば、直売所に出荷しない生産者にも利用してもらえるでしょう。
全農がこうした事業を展開するプラットフォームをつくれば、生産者もJAも高騰する物流費を抑え、新しいお客様を獲得することができるはずです。今まで直売所は全農が関わるビジネスではないだろうと考えられていましたが、そうではなくなったと私は確信しています。
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