JAの活動:第42回農協人文化賞
【第42回農協人文化賞】厚生福祉部門 香川県厚生農協連顧問・元理事長 長尾省吾氏 求められる化ける人材2022年2月15日
香川県厚生農業協同組合連合会顧問
元代表理事理事長
長尾省吾氏
私は約40年間、脳神経外科を専門として、学生・若い医師や後輩の教育および研究、そして人材育成に携わってきました。65歳で退職して3年間、JA香川厚生連理事長を務めました。当時、当厚生連の屋島並びに滝宮総合病院は老朽化が進み耐震性も基準を満たさず、再開発は急務でした。
地域の医療ニーズの精査や新病院の診療能力の強化など、多岐にわたり病院構成員の協力を得て新病院構想を練り上げました。苦難の時もありましたが、JAグループ香川の支援を得て、新病院として5年後にスタートしました。
ところが全く予期せず68歳で香川大学学長に指名され、6年間6学部(教育・法・経済・医・農・工学部)の教員や学生並びに外部有識者と意見交換をし、大学改革にまい進することになりました。
脳神経外科という狭い医療分野しか経験のない私には、どうやって将来我が国を発展させる人材を狭い国土、鉱物や化石資源の乏しい日本で育成するか、重責でした。
私は昭和17(1942)年生まれの地元出身で、終戦前後に子ども時代を過ごし、桑畑を開墾して芋を収穫、飢えをしのいだ記憶があります。と同時に土に触った感触のお陰で、地元に愛着が生まれたのでした。
そこで最初に、大学の敷地に農学部の方々にお願いして小菜園を作っていただき、学生たちと一緒にナス・キュウリ・トマト・ピーマン・ゴーヤなどを育てました。変な学長が来たものだと思われたことでしょう。
当時香川大学の学生の地元定着率は約20%で、地域の各方面から是非地元に残る卒業生を輩出して欲しいという強い要望がありました。喜々として野菜作りに参加する学生を見て、香川の土に触り、ぜひ本県に愛着をと願ったものです。
批判もありましたが、地域と共同の教育も相まって、現在は地元定着率が40%近くまでに上がっています。一方、今回のコロナ禍で食料サプライチェーンも問題になり、現在約37%の我が国の食料自給率を将来45%に引き上げる計画も検討されています。
食料安全保障は将来とも国策の重要問題となるでしょう。JAの皆さんのご理解とご協力を得て、香川大学とJAグループ香川との包括連携協力協定も結ばれました。コロナ禍の中、貧困学生への食糧支援や物心両面のご支援もいただきました。有難いことです。
さて、香川大学からどのような付加価値を付けた学生を社会に送り出すか、最大の肝です。戦後日本人特有の緻密で手を抜かない物づくりで、高品質の物を輸出、外貨獲得、日本経済の活性化の循環で1970年代には、GDPで世界第2位にまで成長しました。それが今ではOECDの中でも、下位の成長で止まっています。
日本の物づくりがすぐ外国で模倣され、廉価で市場に出ることで次第に日本の物づくり独特の魅力が失われるようになりました。知的財産権の明確化の重要性はそこにあります。
そこで私は外国に輸出してもコピーが出来ない物づくりが出来ないかと考えました。まず工学部改革から始め、日本文化と伝統に裏打ちされ、決して外国では模倣できない、手に取ってみたい魅力ある日本独特の製品作り、新しい価値のある未来のニーズに合ったデザイン思考できる能力を持った人材の輩出を目指しました。
東京芸術大学やM自動車会社から有名なデザインのプロの方々にも新しい創造工学部立ち上げに参加していただきました。4学科組織を7コースへ、経済学部も5コースとして、学生たちが1、2年生時には、垣根なく興味のある科目を選択でき、学生の就学範囲や内容を拡大しました。他大学の卒業生とは異質の人材が社会で活躍する事を祈っています。
社会では将来大きく成長・変化する(化ける)人材が求められています。私はあらゆる機会をつくり異質の分野や人と交流することは不可欠と思います。大学を含め学習するという事は、そのための素地(弾を込める)をつくるという事なのです。
香川県厚生連 長尾省吾「四国遍路」
医師現役時代に多くの方をお送りした私には、心の中に忸怩(じくじ)たる思いや経験、出来事がありました。そこで65歳の定年を機会に四国遍路旅に出ました。実家の横を通るお遍路さんを子どもの頃から見ていましたので、抵抗なく懺悔とお教え、そして救いを求める旅に出たのです。
八十八のお寺さんは異なった霊気に包まれ、心の波を鎮め安寧な毎日に導いていただきました。それ以上に、ご本堂や大師堂にお経を差し上げ、樹齢2300年の神木の路を歩むとき、心は全く何にも固執しない自由な「空」となります。この様な時に、新しい人材育成や大学改革のキーワードがごく自然に浮かんでくるのです。これが後で知るデフォルトモードネットワークといって、全く「空」の時に全脳が活性化されて、新しい閃(ひらめ)きが浮かぶのです。
この様な経験をすると、専門性に固執するのではなく、他の世界を経験する重要性が実感されるのです。
最も大切なのは、ひらめき・気づき・化けるためには多くの蓄積した経験の引き出しがないと効果がないという点です。
座右の銘
【略歴】
ながお・せいご 昭和17(1942)年生まれ。平成3(1991)年香川医科大学医学部教授。平成15(2003)年香川大学医学部附属病院長。平成20(08)年JA香川厚生連代表理事理事長。平成23(11)年香川大学学長。平成29(17)年JA香川厚生連顧問。
【推薦の言葉】
命守り経営にも才覚
脳神経外科医として科学・哲学に裏打ちされた正確な医学知識・卓越した技量で、人の命・健康と対峙し多くの命を救うとともに、大学の教員として、医師を志す学生など後進の育成に積極的に取り組んだ。大学病院院長としても、就任2年後の黒字化を目指して病院改革に取り組み、1年目で黒字化するなど、経営者としても卓越した才能を発揮した。
香川大学定年退職後、JA香川厚生連の代表理事理事長に就任。二つの総合病院および健康管理センターかがわの運営に携わる。その一方で、「新しく入れ物を作っても、そこで働く人材が目覚めなければ、厳しい医療界を生き延びることは難しい」という考えのもと、職員の意識改革にも心血を注いだ。組織の垣根を越え、地域社会全体のためにまい進する極めて優れた人物である。
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