JAの活動:JA全農創立50年特集 なくてはならない「JA全農」を目指して
【JA全農創立50年特集】なくてはならない「JA全農」を目指して 野口理事長と作山明大教授が対談(2)2022年3月22日
「ゆめファーム」にきめ細かい就農支援
作山 目立たないけれども重要な全農、JAの機能にも目を向けてほしいですね。「生産基盤の確立」では、JAグループが畜産施設を用意して新規就農者に払い下げる施策はいいと思います。支援する品目や作物、また支援の在り方も地域によってずいぶん違うと思いますが、全農、県本部や経済連はどのように連携しつつ支援を進めているのでしょうか。
JA全農理事長
野口栄氏
野口 生産者にとって、地域や生産品目によって課題は多種多様です。経営形態では、大規模法人経営から家族経営まで、それぞれ対応が求められます。ご紹介いただいた畜産施設の賃貸はご評価いただいております。JAグループが畜舎や施設を取得し、既存施設であれば改修して生産者に賃貸し、初期投資を軽減する。事業開始のハードルを下げて、規模拡大をしていただきたい。賃貸終了後は残存簿価で譲渡します。
同様の取り組みは施設園芸でも進めてくべきです。「ゆめファーム」という形で、現在、栃木と高知と佐賀で最新鋭の高度園芸施設のモデルを造り、栽培データをそろえ、技術も含めて一定の収益モデルとして確立しました。これを広められないかと思っています。
家族経営では後継者の確保が大きな課題です。そこで宮城、岐阜、福岡、山形、広島県などでは新規就農者の研修施設を作り、そこに若手の就農希望者を受け入れて1年から1年半研修を受けてもらい、就農後は販売面も含めて支援していくという取り組みをすすめています。
岐阜ではイチゴの部会と協力して研修を行い、施設や土地の手配も含め支援し、これまで50人ほど就農して地域の担い手に育っています。岐阜県内のイチゴ生産量の2割を占めています。
大規模法人からご要望が多いのは人手不足です。農繁期だけ労働力支援を受けられないかというニーズで、県域だけでは対応が難しく、地域ブロックまたは全国域で労働力を融通しあっていかなくてはいけない。労働力支援については、各エリアで地域ブロック協議会ができ、3月4日に全国の協議会も立ち上げました。施設の共同利用や販売面についても提案してまいりたいと思っています。
作山 全農の「ゆめファーム」は紹介する記事を読みましたが、素晴らしい取り組みだなと思いました。
野口 ぜひ一度佐賀の「ゆめファーム」を視察いただければと思います。余分な葉をロボットで摘み取る試みを安川電機と取り組んでいます。土を使わないロックウール栽培であり、レール上をロボットが真夜中にも動いています。また、清掃工場の隣に施設を作り、清掃工場から出る廃熱や二酸化炭素を活用しています。
ファミマで人気の全農
明治大学教授
作山巧氏
作山 今のお話とも関連するのですが、次にアライアンスについておうかがいします。最近、全農がずいぶん変わったなと思ったのは、以前のJAグループは「自分たちだけでやろうとする」という印象があったのです。ところが最近の全農は、輸出ではドンキホーテ、国内だとファミリーマートと連携されています。それがアライアンスだと思いますが、どういう契機で始まり、相手を選ぶ時に何を重視し、これからどうしていこうとしているのでしょうか。
野口 ご指摘のとおり、全農・JAグループ内では外の企業は競合業者と捉えて、自己完結で事業を進めていく傾向が強かったと思います。しかし、この変化が大きい時代においては、われわれグループだけでは生産者、消費者の要望に応えきれなくなってきました。
アライアンスを進める理由の一つは、国産農畜産物の消費拡大にはシナジー効果を求めて総合的な取り組みが必要だからです。二つ目は新しい商品、新しい流通ルートができれば生産基盤の拡大につながるということ。三つ目は、提携先の持つノウハウやインフラが魅力的だからということです。
ファミリーマートとの関係は、農林中央金庫と一緒に出資をさせていただき、巨大コンビニの株主が伊藤忠グループと全農・農中になりました。すでに全農ブランドのグミや「鶏めしおむすび」などの開発商品が好評を得ています。最近は地域限定商品の開発にも力を入れています。
カーリングを初期から支援
作山 社会貢献活動についてもうかがいたいのですが、去年と今年、オリンピックがあり、夏季は卓球の石川佳純選手など、全農所属の選手もずいぶん活躍されました。冬季では、全農が支援するカーリング選手も話題になりましたね。
野口 大きく分ければ卓球とカーリングで、スローガンは「アスリートの活躍を日本の食で支える」です。メディアに取り上げられることで、食べることの重要性と日本農業への関心を高められたと感じていますので、これからも強化していきます。カーリングがほとんど知られていなかった11年ほど前、日本カーリング協会のスポンサーになりました。契約した担当者は先見の明があったと思っています。
全農ツイッターが農水省超えフォロワー数
作山 ところで、私もフォローしていますが、全農のツイッターのフォロワーが17万人です。農水省は16万人なので、農水省にフォロワー数で勝ったのはすごいと思います(笑)。全農のツイッターは親しみやすく、「ロイヤル・ミルクティーの作り方」も話題になりました。どのような工夫を込めて投稿を作っているのでしょう。
野口 専門家からも、全農のツイッターは社会課題を自分ごと化して扱っており、わかりやすいと評価いただいています。「ロイヤル・ミルクティー」の件では、当時、生乳廃棄という課題がありました。そのことを取り上げたところ大手メディアも報道し、大きな反響がありました。年末年始の生乳廃棄が避けられたことはたいへんよかったと思います。
他にもコロナ禍で業務用の需要が減少した野菜や畜産物の需要創出にも貢献できました。全農のツイッターはフォロワーが700人程度だった2年前から飛躍的に伸び17万人となりました。
「次の50年」にむけて
作山 「次の50年」を展望したいのですが、長期的なビジョンも含めて将来の展望についてお話しください。
野口 「2030年のめざす姿」を協議する中で、「2050年はどうなるのか」という視点を含めて検討した経過があります。しかし、いろいろな課題を掘り下げていく中、今までの50年とは変化のスピード感が違うので、まずは2030年の目標や、めざす姿を決めて、当面3カ年の具体策を進める中で、長期的なビジョンや2050年の姿も見えてくるのではないかと考えた次第です。
ロシア・ウクライナ問題のように、1カ月前には誰も想定していないことが起こります。肥料、生産資材、穀物、原油も含め大きな影響を受けています。こうした時々の変化に柔軟に対応しながら、まずは2030年のめざす姿に向かってまいります。諸先輩方もさまざまな変化と課題に対応してきたように、われわれも同じ気持ちで、生産者、組合員の負託に応えて参りたいと思っています。
作山 最後に、「次の50年」に向けて、組合員、消費者の皆さんへメッセージをお願いできますか。
野口 この50年間、生産者、組合員、消費者、国民のみなさまに私どもをご利用いただき、感謝申し上げます。農畜産物は私たちの生活に欠くことができません。この「当たり前」を次世代のあらゆる人々に保障していくには、生産から加工、流通、消費まで、「食のバリューチェーン」を、環境問題などの社会課題にも配慮しながら、さらにアップグレードしていかなければなりません。「持続可能な農業と食の提供のためになくてはならない全農であり続ける」ために、これからの環境変化、社会課題に対応していきます。
農業をめぐっては、基幹的農業従事者の減少や、生産基盤の縮小など、ともすればネガティブな側面が注目されがちですが、私たちはその未来をあまり悲観しておりません。全農グループの経営理念である「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋」として、次期中期計画でかかげる「生産振興」「食農バリューチェーンの構築」「海外事業展開」「地域共生・地域活性化」などの具体化を着実に進めていくことが大事だと思います。
そのためには常に新しいステージをめざして、これまで以上に多くの挑戦を続けていきます。そのことによって農業の未来が創造していけると私は考えています。皆様のご支援、ご協力をお願いします。
作山 野口理事長から最後に力強い決意表明がありましたので、これで締め括りたいと思います。ありがとうございました。
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