JAの活動:JA全農創立50年特集 なくてはならない「JA全農」を目指して
世界つなぐ農協間提携の在り方は 海外トップと探る JA全農・川﨑浩之参事【JA全農創立50年】2022年3月30日
JA全農は海外からの穀物原料調達の強化などの観点から、国際協同組合間提携を進めてきた。これらの取り組みは全農50周年の歴史でもある。これまでの取り組みやその意義、さらに今後の国際農協間提携の在り方や全農の国際的な役割などについて、提携先である海外の主要な農業協同組合のトップとのメール対談を行った。
(海外戦略担当JA全農参事 川﨑浩之氏)
【対談のポイント】
1.全農との国際農協間提携を進めてきたが、これらを強化することがどれだけ重要か?
2.農業協同組合と一般企業は、何が違うのか?
3.次の50年を考えた場合、協同組合として何をなすべきか?
4.全農の海外戦略をどう評価するか?今後どういうことに期待するか?
1.オーストラリアCBH農業協同組合
オーストラリア大陸最大の西豪州農協。1971年から全農との国際農協間取引を開始。今年で提携51年目。大麦、小麦、エン麦、ルーピン、菜種などの穀物中心の取引。特に高品質大麦は嗜好性から日本の和牛生産になくてはならない飼料原料。
2.アルゼンチンACA農業協同組合連合会
アルゼンチン最大の農協連合会。1964年から全農との国際農協間取引を開始。今年で提携58年目。トウモロコシ、マイロなど、これまで1000万トン以上の飼料穀物を日本に輸出。2011年には、中国向けの穀物・油糧種子を通年で供給するため、北半球の全農グレイン(ZGC)と南半球のACAが合弁で、香港に全農ACA有限公司を設立し販売促進。国際協同組合間連携で三国向け輸出を大きく拡大。
3.米国CHS農業協同組合連合会
全米48州の1100農協と75000人の直接組合員によるメンバーシップで、世界的な事業展開を行っている。肥料農薬・飼料・食品に加え1500のSS(ガソリンスタンド)を運営。農家の生産した穀物や油糧種子、年間5000万トン以上を集荷、国内外に販売。2012年全農と合弁でCZL社を設立し日本向け小麦・大麦の安定供給に貢献。
4.フランスINVIVO農業協同組合連合会
2001年に購買農協連合会と販売農協連合会が合併したフランス最大の総合農協連合会。288農協が加盟。生産資材・飼料・種子・IT・穀物保管・販売などの事業に加え、リテールに強く、特にワインの販売はフランス最大級。国内外に事業を拡大しており、全農とは、穀物取引とスマート農業の分野で提携。
【アルゼンチンACA農協】相互の農業に寄与
アルゼンチンACA農協
ルーベン・ボルゴーニョ会長
「全農との関係はACAの誇り。単独ではなしえなかったことが国際間農協提携で実現、多国籍企業に負けないフォーメーション、農協の最大のメリットは利益を農業セクターにリターンする仕組み、そして地方創生」
これまで以上に全農との関係を強化することが極めて重要である。1964年以来のアルゼンチンから日本への飼料穀物を協定取引するだけでなく、北米にある全農グレインと合弁で香港に販売会社の全農ACAを設立することで、日本以外のアジア諸国に対して、北半球+南半球の年間供給を実現するシナジーを実現、多国籍企業に対抗した、国際的な競争力を発揮。
単独ではなしえなかったことが国際協同組合間で提携することで、実現できた。2011年の合弁会社設立当初は、アルゼンチンの大豆を中国に輸出するだけであったが、今や、大豆はもちろんのこと、トウモロコシ・マイロ・小麦・大麦を、中国・韓国・マレーシア・インドネシア・ベトナムなどのアジア諸国に販売できている。つまり国際農協間提携により、生産者が海外のバイヤーに対して、直接的に販売することを実現できた。このことで、組合員と農協の価値を大きく発展させた。
農協のメリットは、取引によって得られた収益を、生産者へのサービス向上、生産・流通の改善のための投資、直接的な割り戻しや出資配当に使える。つまり収益は日本・アルゼンチン両国の農業関連に還元されるということである。一般企業は、得られた収益を株主に配分することが主な目的となることと比べて明らかなことは、農協は農業の発展のためには重要な仕組みだということ。
もう一つ重要な点は、農協は農家生産者が暮らしを営むコミュニティーを活性化させるということ。一般企業にはない地方の活性化の仕組みが農協である。
次に、50年を考えた時、単に協同組合としての価値を高めるだけでなく、その地域・地方の価値を高めるということ。全地域に暮らす組合員が競争力ある同等のサービスを享受できなければならない。また、次代を担う若い世代に農協の価値をしっかりと示し理解してもらうことである。それは、協同組合が地域社会を形成すること、さらに個人主義でなく協同の精神がいかに重要であるかということを啓蒙することである。
言うまでもなく、日本の農家生産者が必要とする重要な資材・原料を調達するため、世界の多くの国に拠点を作り、また各国の農協とのネットを構築してきた全農グループの海外戦略は、単にただしい選択であったというだけでなく、大成功であったと言えよう。今や資材を調達するネットワークの強化だけでなく、日本の農畜産物を世界中に輸出するという戦略をスタートさせていることは素晴らしい。
ACAは、そのような全農と過去60年近く、穀物の供給契約を締結できていることを大変誇りに思っている。
次の全農との50年は、ビジネス関係の強化はもちろんのこと人的つながりを持ち続け、よりシナジーを共有できるような発展的な取り組みを作り上げていきたい。
ACAそしてアルゼンチンの農家組合員を代表して、全農50周年をお祝いする。
【西豪州CBH農協】中長期戦略がカギ
西オーストラリアCBH農協
ベン・マクナマラCEO
「協同組合だからこその価値観共有。全農とCBHは両国の農家生産者にとってなくてはならないお互いの存在。変化する農業をとりまく環境と農家生産者のニーズに対して、中長期的な戦略を示すことが農協の役割」
CBHも全農も農協であることで価値観を共有できている。農家生産者の所得向上と地域コミュニティーの活性化が重要。CBHの農家生産者は、全農に対して高品質の穀物を40年以上の長期にわたり安定供給している。まさに、西豪州の農家生産者と日本の農家生産者の関係が強化され発展的な関係が続くことが、極めて重要である。
農協の役割は、農家生産者に生産性と効率性を上げるための上質なサービスを提供するということである。さらにもう一つの重要な役割は、後継者に対して、中長期的に農協の組合員になることがメリットとなる戦略を示すということ。
今、西豪州では後継者となる若者の多くが農業以外の機会を求めて地方を離れていくため、組合員の数が減少するとともに、農地が集積されている。CBH農協は、この現象を新しい機会としてとらえ、農地の集積を行い、担い手農家に対して新しい大規模農業の機会を提供することが重要な役割であり、これは農協だからこそできることでもある。農家生産者の変化とニーズを把握し、それに対応した中長期の取り組みが農協としてやるべきことである。
そして、全農グループと50年以上の長期にわたる提携関係があることを誇りに思っている。この協力関係を今後50年と言わず、さらにその先も続けたいと考えている。
CBHグループそして西豪州の農家生産者を代表して、全農の50周年を祝うとともに、豪州から日本への穀物の供給を長期にわたり実現できたのも、全農とその農家組合員のおかげであることを心より感謝する。
【米国CHS農協】共通価値観を糧に
米国CHS農協
ジェイ・ディバーティン
CEO
「国際農協間でも、農家生産者のためという共通価値観。農協という仕組みは、持続可能な成功モデルであることを、全農との提携強化によって世界に示していきたい」
米国のCHSも日本の全農も農協であり、農家生産者にフォーカスした戦略という点で価値観が共有できている。投資やビジネスにおいて、それが農家生産者のためになるかどうかを基準に判断している。生産者に対して、持続可能な農業のための、購買事業、販売事業、そして営農コンサル事業をしっかりと提供しなければならない。国際的にも、また国内であっても、穀物・食品・燃料等の多様な事業を通して、農家生産者・地域農協・顧客をサポートする必要がある。
CHSは、農業をさらに発展させ強固にするコネクションを構築することを目標にしている。全農グループとの提携はまさにその目的を達成するための大きな助けとなっているし、農協という仕組みが世界において持続的な成功モデルであることを示すうえで双方の協力関係は重要になる。
CHSと全農グループは2012年にCHS全農という合弁会社を設立するなど強い関係にある、そして将来的にもさらなる提携関係を強化し、農協という仕組みと国際農協間提携がいかにメリットをもたらすかを示す必要がある。
全農の50周年おめでとう。
【フランスINVIVO農協】スマート農業を共に
フランスINVIVO農協
ティアリー・ブランディニエールCEO
「国際農協間提携は、長期的視点での世界的な危機への対応力を有している。全農との連携で、国際的農業事業環境の変化に対応したスマート農業を実現」
世界的なウイルスまん延や地域紛争といった危機が起きる中、長期的視点を有する農協という仕組みは、一般の会社の仕組みより、抵抗力、弾力性と適応力が優れている。
全農もINVIVOも国際的な拠点を有する多国籍大型農協連合会であるが、世界の情勢や農業に関する情報を共有するという観点でも、さらなる関係強化が必要である。
農協という仕組みは、まず長期的な観点でのビジョンを有しているとともに、資金調達の安定性に優れている。さらに、農家生産者の必要とするものを提供し、資産を守るためのサービスや、農家が生産したものをベストの価格で販売する方法を提供したりするために、団結・結束することが農協の一般企業との違いでもある。また、組合員は直接的に自由に様々な意見を発し、戦略に関して具申できるという仕組みも有している。
今後の50年間を考えると、世界を取り巻く情勢の変化に機動的に対応し、進化できるかどうかが、極めて重要になる。その変化への対応とは、世界でさらに増加するであろう10億人以上の人々に十分で品質の良い食料を提供し、脱炭素化を図ることのできる、よりデジタル化されたスマート農業・持続可能な農業に変われるかということである。
世界の主要な農業協同組合が提携して、優れた知見を共有することができれば実現ができる。既に世界の主な協同組合はそのことに気づいている。これらを実践に移すには、新たなスマート農業のプログラムの構築と大きな投資が必要となるであろう。そのための資金の準備もなされなければならない。
全農グループは、日本はもちろんのこと、世界中に事業がある、国際的に成功した世界最大の農協連合会である。全農の海外戦略は、競争力ある穀物調達能力をもった優良な海外資産を有した大変賢明なものである。特に米国の全農グレインは、これからの50年も素晴らしい事業競争力を発揮し続けるであろう。INVIVOは全農グレイングループの欧州大陸向けビジネスをサポートし、また、前述のように、加速する新たな農業環境に対応したデジタルプログラムやスマート農業技術といった新分野に対して、国際協同組合間提携として共同投資してゆくことで、さらなる提携関係の強化を図っていきたい。
祝 全農50周年。
【おわりに】世界の農協連合共同事業体の組成期待
全農は、世界の主要な農業協同組合と、理念およびビジネススコープ(領域)を共有し、長期にわたり提携関係を構築してきた。ビジネスのつながり、組織のつながり、そして人のつながりが歴史的財産である。
農業協同組合は、①中長期的な視野と持続性②利益を農業生産者と農業セクターにリターン③(受動的には)買収されないといったユニークな特徴を有する組織体である。
変化する世界情勢・農業を取り巻く環境変化に対応し、地球の環境を維持しながら、世界人口の食を満たすこれからの農業を実現するため、各国の農業協同組合連合会がリーダーシップを発揮し、国際的なパートナーシップを強化しなければならない。
この先も世界の農協のリーダーとしての全農への期待は大きく、全農の海外戦略を全世界の農協が注視している。世界の主な農業協同組合が知見とアセット(資産)を提供し、世界農業協同組合連合ビジネスコンソーシアム(共同事業体)を組成する未来は、近いかもしれない。
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