JAの活動:JA全農の若い力
【JA全農の若い力】飼料畜産中央研究所(2) 古川了一さん 優良種豚育て全国に2022年8月30日
JA全農の飼料畜産中央研究所では、日本の畜産を優良な品種改良や生産性を向上させる革新的な飼料開発などの研究に日々取り組んでいる。今回は養豚を支える技術研究に取り組む若い力に研究成果や日本農業への思いを聞いた。
上士幌種豚育種研究室 古川了一さん(2020年入会)
古川了一さんは2020年入会。大学では動物遺伝育種学分野を選び、おいしい豚肉を生産するための基礎的な育種改良手法を学んだ。豚肉のアミノ酸含量や糖分などの分析、遺伝的能力の調査などを通じて、豚の集団としてより能力を高めることをめざす研究に取り組んだ。
こうした経験から全農の研究機関を志望、上士幌種豚育種研究室に配属された。
入会1年目は豚の飼養管理からスタート。上士幌の農場は約600頭を飼養している。成長段階ごとに飼料を変えて飼養し、種豚として残す豚と出荷する豚に分ける。
種豚として選畜された豚は繁殖豚舎に移され、雄からは採精、雌は発情確認をして人工授精し、再び分娩させる。豚の移動などは当初かなりの労力が必要で「思ったより大変だった」が、豚の飼養管理全般に関わることで生産者と同じ目線で豚をみることができるようになることが生産者の役に立つ種豚の育種改良をおこなうためにも重要だと一通り学んだ。
実際に肥育作業に関わることで出荷までのプロセスを理解することになると同時に、良質な豚生産のためには飼養環境が重要なことを実感できたという。とくに子豚のときに不適切な飼養管理であるといい豚に育たない。「育種改良は重要ですが、十分に管理された適切な環境があってこそ優良な能力が発揮されるということだと思います」と話す。
農家の収益が基本
現在は病気に強い豚を育種する抗病性育種や、超音波測定装置による豚の検定作業などに取り組み、後代に残す種豚の生産を担当している。
抗病性育種は、上士幌の農場で飼養している豚のDNAを抽出してPCR検査で遺伝子型を判別し、これまでの内外の研究成果とも照らし合わせて、たとえばウイルスなど病原体に対して感受性の違いを把握していく。交配をする際の判断材料として病気に弱いタイプの豚同士での交配を避けることで、病気に強い種豚を増やし、養豚農家の経済的損失を減らすことにつなげる。
豚の背に超音波測定装置を当て背脂肪の厚さを測定
検定作業は100kgにも育った豚を2人がかりで柵にくくりつけて 、超音波測定装置を当てて行う。背中にプローブを当てて背脂肪の厚さを計測したり、プローブの角度を変えてロース芯面積や筋肉内脂肪割合も分かる。非破壊的に豚の能力を調査することができる。こうした作業で得られたデータをもとに後代に残す豚を選ぶことにつなげていく。
現在、日本の豚の75%を占める三元豚は、ランドレース種と大ヨークシャー種の交配から得られたF1交雑種の雌とデュロック種の雄を交配した豚だ。 それぞれの品種に特徴があり、改良する形質も異なる。上士幌の農場では抗病性育種や超音波診断などのデータやさらには豚のゲノム情報を大規模に解析して選畜をしている。大量のゲノム情報を解析して豚の育種改良をおこなっているのは現在、日本では上士幌の農場だけで世界最先端の手法とのことである。しかしながら、データだけではなく体型や歩き方などの人間の目による観察も選畜には重要だという。
とくに雌系の品種となるランドレース種や大ヨークシャー種では、たとえば乳頭の数が左右とも最低限七つあることを後代として残す条件としているなどだ。あるいは足が短く子どもを踏みつぶしかねないような豚は選ばない。
現在、古川さんは雄系品種であるデュロック種の育種改良を担当している。後代に残す豚を選ぶ際は、歩き方や蹄(ひづめ)のバランスなどを見て、後の採精作業や実際の養豚農家での飼養に適した個体であるかを重視しているという。
今後の研究課題は暑熱に強い豚の育種。研究は緒に就いたところだが、暑熱ストレスを受けた時期に育った豚と、暑熱ストレスのない時期に育った豚の生育データの比較などを検討している。
「全農は 、最終的には農家の収益という出口をしっかり見据えたうえでの研究を徹底して考えていると、入会して改めて実感しています。とくに上士幌種豚育種研究室はピラミッドでいえば頂点のような位置。優秀な種豚を各地に広める研究室であることをしっかり考えたいと思います」と話した。
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