JAの活動:JA全農の若い力
【JA全農の若い力】飼料畜産中央研究所(1) 棚井俊介さん 飼料改善し繁殖向上2022年8月30日
JA全農の飼料畜産中央研究所では、日本の畜産を優良な品種改良や生産性を向上させる革新的な飼料開発などの研究に日々取り組んでいる。今回は養豚を支える技術研究に取り組む若い力に研究成果や日本農業への思いを聞いた。
養豚研究室 棚井俊介さん(2018年入会)
棚井俊介さんは2018年入会。学生時代は臨床繁殖学研究室で牛の繁殖を研究し、獣医師の資格も取得したという。受胎して子どもを生まなければ畜産は成り立たないことに興味を持ち、分娩前後の栄養状態と分娩後の子宮修復の関係性などをテーマとした。
入会後は養豚研究室で飼料開発に携わっている。
最初に担当したのが飼料成分のムダを減らしふん尿中の窒素分を減らしたり、あるいはふんそのものを減らす飼料の研究だ。
養豚農家は1戸あたりの飼養頭数の拡大により、発生する大量のふん尿の処理が課題となるためで、豚が排せつするふんの量が減れば、堆肥化処理の負担が減る。また、ふん尿中の窒素分が減れば、汚水処理の負担が少なくなることにつながる。
ただし、言うまでもなく豚の発育自体は変わらない飼料であることも求められる。そのため既存の配合飼料の内容を見直して、余分なタンパク質を減らしつつ、欠乏しやすいアミノ酸を加えることなどで栄養バランスを維持する飼料成分設計に取り組んだ。
これは、畜産に求められる「環境に配慮した」飼料であるとともに、良質な豚を育て所得を確保したい養豚農家の切実な課題に応える研究といえる。
産子数の向上へ
現在は豚の繁殖成績を向上する研究に取り組んでいる。
育種改良が進んだ最近の母豚は、1回の分娩(ぶんべん)で平均約14頭の子豚を生むという(総産子数)。この数値は農場によって差が大きく、15~16頭の総産子数という成績のいい農場もあれば、逆に11~12頭程度の農場もある。繁殖成績を向上させるには育種改良という方法もあるが、棚井さんはこれを飼料で改善し産子数を増やせないか研究している。
母豚は生まれた子豚と生後3~4週間生活し、母乳を与えて育てる。その後、離乳して子豚と離れてから5~7日後に発情すると交配を行い、妊娠、出産するというサイクルを繰り返す。
棚井さんが着目しているのが、子豚が離乳した後の母豚のホルモンバランスの変化だ。出産後、母乳を与えている期間中、母豚の体内では次の発情に向けたホルモン分泌にストップがかかっているのだという。
それが離乳後、抑えられていたホルモン分泌が活性化することで卵巣内の卵胞が発達し発情が引き起こされる。卵胞の発達に関与しているのがFSH(卵胞刺激ホルモン)であり、発情を引き起こすのがLH(黄体形成ホルモン)だという。棚井さんはこうしたホルモンがより適切に分泌されるよう促す物質を候補に研究しており、それを飼料開発につなげることをめざしている。
生産者を支援へ
こうした取り組みを通じて農場の平均総産子数が低いため、改善したいと悩んでいる生産者を支援するとともに、全農が育種改良してきたハイコープ種豚の能力を最大限発揮させる新たな技術が開発されることが期待される。
全農は長年、種豚の育種改良に取り組んでおり、ハイコープ種豚はすでに生産現場に広く導入されている。養豚研究室は、飼料の開発ならびに豚への給与試験から枝肉や肉質の評価まで一貫して行っており、「それを生産現場に提案できるのが強みだと思う」と棚井さん。
今後は、飼料の開発などととともに、飼養衛生管理までの知識を持つ獣医師として「生産者に還元できる仕事ができれば」と話す。
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