JAの活動:農業復興元年
【農業復興元年】農家所得向上に照準 JA茨城旭村 先駆者の努力がメロンで開花し日本一の産地に2023年1月10日
新年特集「どうするのか 土壇場の日本農業 2023農業復興元年 希望は農協運動にある」では、きょうから4回にわたって、未合併ながら大きな挑戦に取り組むJAを紹介する。1回目は、先駆者の努力で日本一のメロンの産地を築いた茨城県のJA茨城旭村を紹介する。
(取材 客員編集委員 先﨑千尋)
日本一のメロン
隆盛の基礎築いた"メロンのレジェンド"
「夕張メロンが日本一? いや、茨城の旭村農協のメロンが質量ともに日本一だ。先駆者のたゆまぬ努力が結実して今日がある。今年は、箱単価も反収も過去最高の成績だった」。茨城旭村農協の新堀喜一組合長はそう語って胸を張る。同農協の現在の実績を見る前に、まずこの地域にメロンが導入された歴史をふり返って見てみよう。
かつて太平洋岸のこの地方一帯は、でんぷん用のカンショを主体に、陸稲、ラッカセイ、葉タバコ、麦などが一般的な作物だった。1964年に大谷農協と諏訪農協が合併し、旭村農協が誕生してすぐの頃、管内の篤農家がプリンスメロンを作り始めた。他の作物よりいいという話が伝わり、66年に農協にプリンスメロン部会が結成され、農協共販が始まった。
旭村のメロンの歴史を知るには、最初から農協で営農を担当した浅田昌男さん抜きには語れない。浅田さんは北海道ニセコ町の開拓農家の出身で、茨城県内原町の鯉渕学園を卒業後、県のあっせんで大谷農協の営農指導員になった。浅田さんは出荷されたメロンの検査に当たるだけでなく、栽培技術の改善、部会の指導、専門肥料の開発などを進め、その後の同農協の隆盛の基礎を築いた。今では「旭村のメロンのレジェンド」と言われている。多い日には1日に7万箱も出荷され、検査に朝までかかったが、面白かったと言う。
メロンの収穫風景
メロンの種類は、プリンスからエリザベス、コサック、シラユキ、アンデス、パパイヤ、クインシー、アールスなど多種になり、現在は、オトメ、クインシー、アンデス、アールスなどが中心になっている。1970年にはハウス栽培が導入された。
プリンスメロンの栽培面積が5haから始まった農協管内のメロン栽培農家と面積はその後順調に進み、75年に出荷数量が100万ケース、翌年に販売高が10億円、90年には32億円を突破した。最盛期には栽培者454人(86年)、栽培面積350ha(85年)、出荷箱数が230万箱(2000、2001年)を数えた。03年に青果物管理センターが完成し、翌年から光センサーにより、糖度や熟度、形状などの選果を始めている。この導入により、出荷現場の作業は大幅に軽減された。
1971年にはメロンの後作としてレタスが導入され、その後、インゲン、抑制トマト、ブロッコリ小松菜、ミズナ、ホウレンソウなどの野菜が作付けされるようになった。並行して、メロンの作付けは減少し続け、現在は栽培者、面積ともピーク時の約3分の1になっている。ただ、箱単価が高くなっているので、2021年春の販売高はピーク時の71%程度だ。小松菜などの葉物類は回転が速く、しかもメロンと比べて労力がかからない。
8年連続で青果物の販売が100億円を突破
2021年度の農産物販売高は124億7000万円(1組合員平均651万円)。うち青果物は7年連続で100億円を超えている。青果物は、メロン価格の上昇などにより、22年度も10月末時点ですでに100億円を突破している。
昨年度の農協販売高のデータを品目別に見ると、メロン29%、ミズナなどの葉物類32%、カンショ13%、トマト18%、イチゴ6%などと特定の作物に偏らない構成になっているのが特徴だ。米や畜産はごく少ない。農協の青果物販売高が50億円を超えた1990年に、メロンは全体の6割を占めていたが、その比率は半減している。
農協の販売金額を生産者で割った1農家当たりの金額は、2021年度で春メロンが1893万円、アールスメロンが926万円、トマトが989万円、葉物が1921万円、イチゴが2354万円、カンショが2412万円などとなっている。
同農協の作付け体系(営農類型)を大雑把に分類すると、メロン+野菜(葉物)、メロン+トマト、野菜だけ、イチゴだけ、カンショだけという体系になる。メロン単作は少ない。春メロンと夏から秋にかけてできるアールスメロンと両方作付けする生産者も多い。野菜を入れたのは、年間を通しての労働力の適切な配分を考えてのことだ。外国からの研修生を遊ばせておくわけにはいかない、ということもその理由の一つになっている。
直売所「サングリーン旭」の店内
メロン類の販売に大いに貢献しているのが「サングリーン旭」という直売所だ。海岸を通る国道51号沿いにあり、1994年にアンテナショップとしてオープンした。昨年は来客数が25万人を超え、販売金額も11億円と茨城県内では最大規模。売り上げのうちメロンが7割を占め、最盛期には開店前に500人が並ぶという。ネット販売もここで扱っている。コロナ禍でも売り上げは減らず、昨年夏は約2割も増えている。ギフト用のメロンが好調だ。品ぞろえのための仕入れ品は1割以下と少ない。直売所の優等生だ。夏場には、メロンを使ったアイスクリーム類がよく売れている。
◇
販売主軸に好サイクル 農協と組合員 近いのが本筋
JA茨城旭村 新堀喜一組合長
昨年4月に組合長に就任した新堀喜一さん(69)に今後の農協の抱負などを伺った。
――組合長は、メロン部会長や非常勤理事を経て組合長になられましたが、外から見ていた農協と、経営の中に入ってからの印象とどう違いましたか。
新堀 人件費、光熱費、修繕費などが高額なのに驚かされました。これだけ出して、よく経営ができるなと感じました。
――昨年の決算では、出資配当が2.1%、それとほぼ同額が利用高配当になっています。茨城県では最高です。
新堀 この農協は販売事業を主軸に、購買、金融、共済がサイクルで回っている。これまでに培ってきたやり方です。組合員でいた時は、それが農協なんだと思っていましたが、組合長になって他の農協を見ると、他は違うんだなあと思いました。
――組合長は、ご自身で春メロンを130a、ミニトマトを50a、シュンギク15aを作っておられますが、労働力の構成はどうなっていますか。
新堀 妻と養子、それに中国からの研修生3人です。
――研修生はいつから入れていますか。
新堀 2000年からだから随分前になるね。研修生がいないとこの地域の農業は回っていかない。
――メロンだけじゃなく、管内ではいろんな野菜を入れていますが、どうしてでしょうか。
新堀 メロンに連作障害が出るようになったためだね。農協で光センサーを入れてからの頃だ。
それと、メロン作りは作業が大変だということがあります。メロンの苗1本ずつビニールを掛け、その上にトンネル、そしてハウス。それを毎日開け閉めしなければならない。すごく手間がかかる。葉物はまいておけば収穫するだけ。手間がかからない。
合併のメリットない 組合員との距離近く
――旭村農協が合併しなかった理由はなんですか。
新堀 合併してもメリットがない。隣のほこた農協とは、これまで切磋琢磨(せっさたくま)しながらやってきた。それぞれの経営内容がいいので、合併しなくてもいいんじゃないかというのがこれまでの流れで、私もそれでいいと思っています。
合併しないメリットは、農協と組合員の距離が近いということ。先人が積み上げてきた歴史を守っていき、組合員が高水準の所得を挙げ、組合員の懐が豊かになればいい。組合員のための農協なんだよね。
――国は、一昨年「みどりの食料システム戦略」を策定し、有機農業の推進に大きく舵を切りました。旭村農協はどう対応しますか。
新堀 国が日本の農業をどう守ってくれるのか、はっきりした方針が見えてこないんだよね。動きようがない。
――最後に、この旭村農協をこれからどうされますか。
新堀 当農協の強みである販売事業を主軸にして、組合員が安定して高収益が上げられる事業経営を長期的に続けていくことが私の使命だと思っています。
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