JAの活動:農業復興元年
【農業復興元年】「消費者から評価される」日本一のリンゴ産地を 青森・JA相馬村のめざすもの2023年1月11日
青森県のJA相馬村は小規模ながら「消費者から評価される日本一のリンゴ農協をめざして」奮闘している。その方向性や理念などについて組合長インタビューも交え、青森の農協事情に詳しい元JA十和田おいらせ専務の小林光浩氏にまとめてもらった。
1.日本一のリンゴ農協を目指して
最新のJAリンゴ選果場
JA相馬村は1964(昭和39)年10月に相馬村の村内2農協が合併して発足した。行政では2006(平成18)年2月に弘前市と合併したものの、農協は「消費者から評価される日本一のリンゴ農協」を目指して独自の産地づくりを進め、今日に至っている。
正組合数は、当初の731人から483人(2022年6月)に減少したものの、リンゴ取扱高は5万箱(1箱20kg)からピークには106万箱(2008年度)と大幅に拡大している。リンゴ生産量は自然環境の変化によって上下するものの、リンゴ販売額は33億円(2013年)、35億円(2014年)、38億円(2015年)、36億円(2016年)、34億円(2017年)、37億円(2018年)、36億円(2019年)、40億円(2020年)、41億円(2021年)と、維持・拡大している。リンゴ出荷者401人の一人当たり平均は1000万円を超えた。
JAリンゴジュース加工所
リンゴ生産に労働力を集中させるために、水稲は、全ての集団組織を一本化した稲作生産組織「ライスロマンクラブ」(1村1農場)に運営させている。また、付加価値を高めるためにリンゴジュースの加工・販売施設を取得(年間162万本/l)、農業所得向上に向けては農産物直売所を設置・運営等、リンゴ産地づくりを主体としたJA事業運営に取り組んでいる。
そんなJAの施設は、リンゴ選果場2カ所、リンゴCA貯蔵庫5カ所、普通冷蔵庫1カ所、リンゴ加工センター1カ所、農産物加工センター1カ所、ライスセンター1カ所、米倉庫1カ所、水稲共同育苗施設1カ所、ガソリンスタンド2カ所、農産物直売所1カ所、購買倉庫1カ所、本店・支所事務所3カ所等と充実している。
そして、これらの運用体制は、JA役員11人(理事8人、監事3人)、職員38人(うち営農指導員5人、生活指導員1人)、労務職員(常雇的臨時職員)53人となっている。
2.リンゴ産地を守る 消費者の嗜好変化に対応
こうした体制で消費者から評価される日本一のリンゴ産地づくりを進めているJA相馬村の大場勉組合長(57歳)からJA経営について聞いた。
――JA相馬村は、これまで一貫して「リンゴ産地づくり」に取り組んできましたが、産地づくりで最も重要な事は何でしょうか。
大場勉組合長
大場 リンゴ生産では過去に何度か大きな問題が発生しました。平成3(1991)年9月の台風19号では収穫前のリンゴがほぼ落下。平成9(1997)年産リンゴ価格の大暴落では「平成の山川市場」と言われたほどでした。また、平成13、14(2001、02)年では「無登録農薬使用問題」によって青森リンゴが風評被害を受けました。
――その時、JAはどのような対応をしたのですか。
大場 役職員総ぐるみで有利販売の対策やリンゴ加工事業の実施等、その時々に農家・営農支援等に取り組みましたが、産地づくりで最も重要な対応は「消費者の嗜好(しこう)変化への対応」です。リンゴ価格暴落の時は、消費者が高品質でおいしいリンゴを求めていたのです。つまり、「消費者に求められるリンゴ産地づくり」を進める必要がありました。その時は品種更新のため「リンゴ苗木の購入助成」に取り組みました。それは今日まで続いていて、今年は苗木1964本(2021年度)の実績です。今後も年間2000本以上を計画しています。
――リンゴが出荷できるまでは何年もかかりますよね。果樹の産地づくりでの品種の更新は難しい課題ですが、重要な取り組みですね。
JA農産物直売所「林檎の森」
大場 最近はJAによる農道の除雪もしています。冬場のリンゴ管理作業をするためには雪深い山にある園地までの農道を通らなければなりませんが、高齢者はスノーモービルを使うのは難しいので、JAの除雪車を使って、JA職員が農道の除雪作業を行っています。主要農道の5、6線を除雪しています。
さらには、国内での需要調整の取り組みとしてはリンゴ輸出が重要だと考えています。一昨年(2021年)の実績は8億円ですが、これまで為替レートの影響を受けて販売価格的に厳しい時もありましたが、長年の信頼関係を築くために継続して取り組んできました。
――その他にもJA「第11次経営振興3カ年計画(令和4~6年度)」を見ますと、JAブランド化・差別化の有利販売戦略の実践、農家手取りの増加を進めるスーパー・量販店への直接販売の拡大、あるいは企業援農やホームページ・マッチングアプリを使った補助労働力の掘り起こし、病害虫の殺菌のための農薬助成、青年部を主体とした次世代の育成・確保、選果荷造作業の労働力不足対策として外国人労働者の雇用の継続等、様々な取り組みを継続して進める計画ですね。
量販店でのリンゴ販売促進
3.さらなる発展のためのJA人づくり
――リンゴ農家組合員のために、多くの取り組みをしていますが、それらを可能とさせるのは「90%を超えるリンゴ共販率」をベースとした強固な農協経営基盤を確立して、財源の裏付けと役職員の問題意識の高さにあると思います。そこで、これからの農協経営で組合長が考えている事を教えてください。
大場 幹部職員がしっかりしていれば、JAは間違った方向に行かないと確信していますので、幹部職員の継続育成に努めたいと思っています。また、これまでの職員は、農家の事、地域の事についての共通の問題意識を持っていましたが、最近では半数以上が非農家・地区外の職員となりました。サラリーマン職員が増えているように思います。ですから農家・農業・地域に対する共通認識を持たせなければなりません。そして、職員教育とともに、農家組合員との触れ合いを進めて、組合員とのコミュニケーション不足をどうなくすのかが課題です。組合員との交流を基本とする事こそが相馬村農協の強みですから。
――今、信用事業のさらなる収益減少が見込まれて、JA経営基盤の再編が求められていますが、JA相馬村ではどう考えていますか。
大場 確かに信用事業の収益減は大きな問題ですが、当JAでは経済事業を中心とした事業採算性の確保を進めてきました。ですので信用事業が収益減になったとしても金融支所の統廃合はしません。当地区の支所は、本所から5km圏内に支所が2カ所あります。経営を考えれば非常に効率が悪いのでしょうが、支所は採算制確保を目標とするのではなくて組合員のよりどころを確保すると言う考え方です。経営的には厳しいですが、今後も支所を維持して組合員のコミュニティー店舗化を進めることにしています。
――今後の担い手の確保・育成はどうですか。
大場 当JAの若手リンゴ農業者は元気があります。青年部に加入して青年部活動を通じて育成・強化しています。今年度からは青年部から農協理事を出してもらいました。女性部の代表も理事になりました。JA理事会において若い人や女性の声が反映されていくことを期待しています。これからも「組合員のための事業になるよう常に目が届くJA経営、農業振興」に努めたいと思っています。
――限られた時間の中、貴重なお話がきけて、大変有意義でした。ありがとうございました。
【取材を終えて】
JAによる食料自給率の確保が求められている今日、農家組合員一人一人の農業経営を見て、農家組合員のためにJAが出来る事を真摯(しんし)に60年以上継続して取り組んできた結果が、今日の相馬村農協の姿であると理解しました。特に産地づくりは一朝一夕にはいかないものです。消費者が求める産地づくりは、常に消費者の要求変化への対応が求められます。農家組合員の求める農協、農協による農業振興のあるべき姿、JA経営者のあるべき姿について、ひとつの答えをJA相馬村の「消費者から評価される日本一のリンゴ産地づくり」の継続した長い期間での取り組みから見る事ができました。
特記すべきは、すぐには実を結ばない苗木を長年支援し続ける事で「消費者から支持されるリンゴ産地づくり」ができている事です。この事は、全ての事業においても当てはまるものと考えます。つまりは、事業収益から一定の財源を確保して将来のために継続して投資し続ける事が「良い農協づくり」の第一歩となるでしょう。
【JA相馬村の概要】
〇 組合員数 = 855人 (うち正組合員483人)
〇 職員数 =38人
〇 貯金残高 =102億円
〇 長期共済保有高 =317億円
〇 販売品販売高 = 42億円 (うちリンゴ41億円)
〇 購買品供給高 =14億円
(2021年度末)
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