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JAの活動:農業復興元年

【農業復興元年】有機いち早く「歴史が信用に」 町の生態系条例も弾みに 宮崎・JA綾町2023年1月12日

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宮崎県の綾町は1988年に「自然生態系農業推進条例」を制定し、無農薬無化学肥料や減農薬減化学肥料で生産した農産物を町が独自に認証する取り組みなどで農業振興を図ってきた。人口は7000人弱。生産者の高齢化が進む一方、町外からの新規就農者も少なくなく、JA綾町は営農指導ときめ細かい販売戦略などに力を入れ、「生産者の意欲を下支えしてきた」と坂元芳郎組合長は語る。国が「みどり戦略」を策定するなか、同JAの農産物への引き合いは強まっているといい「歴史が信用になっている」という。

出荷者の井手さんと坂元組合長出荷者の井手さんと坂元組合長

町の生態系条例弾みに土づくりから

JAの選果場に入ってきた一台の軽トラックの荷台には、小松菜、金時ニンジン、紅芯大根、タケノコ、水菜など6種類ほどの野菜が積まれていた。「綾町自然生態系農業」とプリントされた袋に入った小松菜を見せてもらうと少し虫食いの跡があった。「一度も農薬を使わず育ててますからね」と出荷者の井手久子さん(76)。

生まれは千葉県。東京・日本橋の呉服店に勤めていたが、50年前に綾町に嫁ぎ、今は7haの畑で多彩な野菜を有機栽培で作る。作った野菜は選果場から宮崎市内の量販店にあるJA綾町のインショップへ出荷する。ときには店頭に立ち、自分たちの野菜づくりを消費者に説明、「安心して食べられることを理解してもらってきました」という。

綾町の「自然生態系農業の推進に関する条例」は1988(昭和63)年に全国で初めて制定された。今年で35年になる。

町の8割を占める森林は大部分が貴重な照葉樹林で、昭和40(1965)年代にその伐採に町民が反対運動を起こし保護に結びついたことから、自然環境の保全と農業振興の取り組みへの意識が高まった。

綾町憲章は「自然生態系を生かし育てる町にしよう」が基本理念で、条例では「土と農の相関関係の原点を見つめ」、消費者に信頼される町の農業を確立しようと謳った。

条例制定の翌年、生産者を支援する有機農業開発センターを設置し土壌診断と土づくりを重視する取り組みを広げていく。有機質肥料を入れ、栽培では化学農薬や除草剤を使用しないことを目標に、無農薬、減農薬など取り組みに応じた基準を決め、生産者が提出した栽培管理簿に基づき町が農産物を認定する制度を1989(平成元)年にスタートさせた。

「土づくりがキーワード。生産履歴記帳も先駆的な取り組みでした。今では、昔から当たり前のようにやってきた、という感覚です」と坂元芳郎組合長は話す。

主な品目は露地野菜ではいも類やニンジン、千切大根、ゴボウなど根菜類のほか、ブロッコリー、ネギ、レタスなど。施設園芸ではキュウリに力を入れている。果樹は日向夏、スイートスプリング、きんかん、マンゴー、ライチなど。

繁殖和牛と養豚も盛んで豚は非遺伝子組み換え飼料を使うことでブランド化し「綾豚」として販売している。

町は中山間地域だが、畜産が盛んなことから飼料稲の作付けなどで耕作放棄地は少なく、また、家畜のふん尿を利用した堆肥による土づくりで地域内資源循環の姿を実現させている。

畜産農家を柔軟支援

生後4カ月から和子牛を預かる生後4カ月から和子牛を預かる
キャトルステーション。奥に放牧場があるキャトルステーション。奥に放牧場がある

その畜産を支えるのがキャトルステーションと肉用牛サポートセンターだ。

キャトルステーションは繁殖農家で生まれた和子牛を生後4カ月から預かり子牛市場に出荷するまで農家に代わって育てる。農家の子牛を育てる手間を省くとともに、雌牛を増頭してもらうことも狙いだ。

肉用牛サポートセンターは雌牛を受胎させて繁殖農家に戻す事業を行っている。受胎率が低下した雌牛を引き取り、放牧すると受胎率が向上するという。小規模な繁殖農家ではできないことで放牧によって健康にし生産性向上させることにつながる。

こうした預託事業など繁殖農家へのサポート事業は農家や子牛の状況に応じて柔軟に対応している。たとえば、受胎させた雌牛を繁殖農家に戻すサポートセンターの事業でも、農家がその時期に病気などで分べんと育成ができないという場合はセンターで分べんし生まれた子牛を預託牛として出荷まで育成することもある。高齢化が進んでいるなか、農家の状況に合わせたサポートを行っている。

また、JAとして子牛を導入し200頭規模の肥育事業にも取り組んでおり、綾牛のブランド構築も図っている。サポートセンターの近隣には、堆肥センターもあり、地域農業の土台となっている土づくりに供給されている。

堆肥センター堆肥センター

多様な契約と販売 多チャンネル化図る戦略

JA綾町は正組合671人、准組合員738人の計1409人(2021年度末)。販売事業の取扱高は2021年度で約28億円だった。

販売事業は消費者との交流、意見交換しながら関係を築いてきた生協や、有機野菜など原材料にこだわりを持つ地元加工食品メーカーなどとの契約取引を中心に、2019年度からは量販店のインショップへの出荷やカタログ販売、ネット販売にも力を入れている。多チャンネル化を図ることも戦略である。

露地野菜は生協など取引先から発注を受けて品をそろえ袋詰めをする。少量多品目を生産し、それを取引先のニーズに合わせて出荷するのは、JAだからできること、である。

果樹も市場を通すが、量販店などと契約販売をしている。果樹販売担当の尾仲雄介さんは、「等級や大きさの希望に合わせて契約。まるで一つ一つ手売りをしていく感覚です」と実感を話す。品質の向上は当然求められるが、土づくりに力を入れてきたことで木が元気で「量が確保できることも評価されている」と話す。生態系農業は安定的な出荷という点でも取引先から注目されている。

このように少量多品目の販売には手間がかかるが「地道に積み上げてきた関係を生かしていきたい」と坂元組合長は話す。

ワンタッチ詰めキュウリワンタッチ詰めキュウリ

もう一つ力を入れているのが施設栽培のキュウリ。減農薬栽培に取り組むとともに、「ワンタッチ」詰めを特徴にしている。これは収穫後に選別して箱詰めするのではなく、一本収穫するごとに箱詰めしていく方法。鮮度を保ったまま売り場に出荷しそのまま店頭に並べる。「農業は食べる人のためにある」という生産者の意識が根づいており、市場で評価を得て引き合いは強いという。

生産性の向上支援へ育苗センター開設も

自然生態系農業の取り組みは町の条例制定から始まった。ただ、その精神は評価されたものの、価格にはなかなか反映されないのが現実で契約栽培といっても豊作であれば価格は下落、不作となれば注文数に応えられないといった問題には何度も直面してきた。

そのなかでも最近は量販店などから改めて引き合いが強くなってきたと感じるという。要因のひとつがみどり戦略で企業にも環境への配慮が問われてきたからだ。「歴史が信用につながっている。ようやく見通しが出てきた」と坂元組合長は話す。

育苗センター育苗センター

今後の課題には、生産性の向上を挙げる。生産コストが上昇するなか、より収量を上げることが農業経営の持続に必要だ。そのための一つの支援策として行っているのが、行政が開設しJAが運営している育苗センターから野菜苗を供給することだ。接ぎ木ロボットも導入し健苗の育成をはかっている。行政が育苗センターを開設するのは珍しいが、一行政一JAの地域ならでは取り組みといえる。

こうした資材の提供のほか、JAでは所得アップPDCA運動を展開している。たとえば、販売単価や数量に着目して経営を評価し、課題を抽出して経営改善を後押しするコンサルティングの取り組みである。

そのほか遠隔地でもあることをふまえると流通コストの上昇に対応した効率的な流通を考えることも課題で、県内JAで目標とされている県域合併にもどう向き合うかも見据える。合併のメリットを享受しながら、県域のなかで綾町の存在をどこまで発揮できるか――。 「おらが農協、は大事だと思う。でもそれだけで突き進めるのか、変化への対応がわれわれにも必要だ」と坂元組合長。そのとき消費者との信頼を築いてきた「歴史の土台」が力を発揮すると期待したい。

農法の魅力 他地域からの新規就農者も

奥誠司さん、由果さん奥誠司さん、由果さん

綾町には他地域からの新規就農者が多い。畑で出会ったのは「綾・早川農苑」を運営するシードカルチャー代表取締役の奥誠司さんと由果さん。早川農苑は由果さんの名古屋出身の母親、ゆりさんが1993年に移住して新規就農してはじめた農園。それを福岡県で教員をしていた奥さんが移住して法人化し引き継いだ。約30年間、綾町で自然生態系農業を実践してきた。4haの畑で野菜を作り、毎週40人程度に個別配送。規格外の野菜を直接買いに来る人もいる。

農業体験と農苑ランチの提供、就学旅行生の受入れも。農薬、化学肥料は使わず「微生物の力で栽培」、「これは生きる力にも通じる」と話し、小さい農園ながら「本気になって作る、食べる、学ぶを発信していきたい」と力を込めた。

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