JAの活動:第43回農協人文化賞
【第43回農協人文化賞】営農事業部門 群馬・佐波伊勢崎農協元組合長 児島秀行氏 試練越え高まる使命2023年1月31日
群馬・佐波伊勢崎農協元代表理事組合長 児島秀行氏
農業協同組合組織が設立され、今年で76年を迎える。戦後、農村の民主化は地主制度の廃止であり、耕作者自らの農地所有を原則とし、耕作者の地位安定と国内農業生産と食料供給安定の確保に資することを目的に農地法が制定され、農業委員会法等関連法案が制定されたことは周知のことであります。
農協も協同組合の理念を旨として農村の復興と民主化に役割を果たしてきたことは農協活動の成果そのもので、今日の礎を築いてきたといっても過言ではなかろう。農協が長い歴史の中で今日まで平穏無事の組合活動に専念できたとは思えないし、様々な試練に遭遇し乗り越えてきたことも事実であります。
私が農協活動の中で衝撃的な出来事と捉えている記憶に、2005年の「経営所得安定対策大綱」の制定があります。特に「品目横断的経営安定対策」は米、麦、大豆、てん菜、でん粉用馬鈴薯は価格保障制度を取りやめ一定規模農家に限り交付金を支払うという政策変更でありました。これは小規模農家の切り捨てであり、農民の廃業を迫るものであるとの不満が怒号となって説明会場を覆った。農民の悲痛な叫びともいえよう。
しかし経済のグローバル化による、ガットからWTO体制による農業分野の国際規格に合わせる政策変更であるとの説明であった。群馬県の小麦生産は全国的に4位であり、群馬の小麦生産を壊滅させる訳にはいかない、地域農業を守ろうという機運の盛り上がりは集落営農型組織の設立に広がっていった。
品目横断的経営安定対策の期待というより農民の生き残りを掛けた選択であったと言えよう。現在、私の住むJA佐波伊勢崎管内では26の集落営農型生産法人が設立され水田農業の経営体として重要な役割を果たしている。
私自身、地域の集落営農型農業生産法人を立ち上げ35ha、構成員25人で地域水田農業の担い手として一翼を担わせて頂いている。群馬の県央地域の水田二毛作地帯の水田農業は、JA前橋と共にJA佐波伊勢崎の集落型農業生産法人により担われているといっても過言ではないであろう。
宮子稲荷営農組合立ち上げ(平成18年)
次に記憶に残るのは2014年2月14日から15日に降った大雪による被害である。この日、関東甲信地方に降った大雪は記録的であり、各地に甚大な被害が発生した。群馬県平坦部に位置する前橋、伊勢崎、太田地区の被害は深刻であった。降雪量は前橋で73cmを記録し、かつて経験したことのない大雪により農業ハウスの倒壊が相次ぎ13000棟に及んだ。
群馬県全体の被害総額は247億6200万円とされ、うちハウス被害は35%以上を占め、前橋、伊勢崎、太田地区のハウスは壊滅状態となった。私は当時、JA佐波伊勢崎の組合長を兼務しておりましたが、職員の緊急招集と事態の把握と対策に奔走し、被害農家の支援と復旧に全力で取り組む日々に追われた。JAグループ群馬としても国の支援を必死の思いで要請したが、規制改革会議の農業攻撃が苛烈を極めていた時期であって農水省の反応に不安があったものの、当時林芳正農水大臣の支援の意向の表明により大いに復旧に弾みが付いたと感謝している。
資材の不足や倒壊ハウスの撤去など地域で協力しなければ復旧に支障が出ると必死の思いで取り組んだ。職員も休日返上で撤去のボランティア活動に臨んだが、被災農家から感謝された。恥ずかしい話だが私自身、心労のため1週間の入院加療を余儀なくされてしまった。被災から復旧まで2年の歳月を要したが農協が行政と農民の橋渡し役的使命を発揮し農協の使命を遺憾なく発揮したことは特筆すべきことで農協が農民から信頼される存在であることを示せる機会となったと確信をしている。
最後の記憶であるが、アベノミクス政策の農業の成長戦略では規制改革会議の農業、農村攻撃は従来の農村、農業の仕組みを根底から覆すもので協同、共助の仕組みから資本の原理を最優先する競争社会を農村社会に取り込もうとするもので、協同組合の理念に反する政策に農協としていかに理論武装するかという点に腐心してきたが、農協人として当然のことと思っております。
2014年9月、ICA「国際協同組合同盟」は日本政府の農業改革案をめぐり協同組合の理念に反する疑いがあるとして調査団を派遣したが、当農協JA佐波伊勢崎が選ばれバンセル理事の訪問を受けた。JA改革の中央会制度廃止や全農株式会社化、農協の信用事業や共済事業の廃止など、様々の改革案は協同組合の理念に反するのではないかとバンセル理事に必死に訴えるとともにICA(国際協同組合同盟)に要望書を託した。バンセル理事は「改革案には衝撃を受けた。日本政府の考えは世界の潮流に反して理解しがたい」との表明をされた。後日調査団の報告を基に声明を出すとの約束をされ農協を後にされた。ICA(国際協同組合同盟)は後日、日本政府の一連のJA改革は協同組合の理念と原則に反し是正するようにとの声明が出されたが、政府は無視、メディアも専門紙を除いて黙殺であった。強権政治の怖さをこの時ほど実感したことはなかった。今政権が変わり、岸田総理の新しい資本主義の農政がどのように展開していくのか注視したい。使い古された言葉であるが「一人は万人のため。万人は一人のため」は農協の理念そのものである。ますます農協の使命は高まっていると言えよう。
【略歴】
こじま・ひでゆき 昭和23(1948)年3月生まれ。昭和41(1966)年就農、令和4(2022)年3月高崎経済大学大学院地域政策研究科博士後期課程単位取得退学、現在、同研究生在学。平成22(2010)年農事組合法人宮子稲荷営農組合代表理事組合長、平成24(2012)年佐波伊勢崎農業協同組合代表理事組合長、平成26(2014)年群馬県農協中央会副会長、平成26(2014)年群馬信連副会長、同年群馬県農業会議所常任会議員
【推薦の言葉】
退任後も大学で学ぶ
児島氏は地元の営農組合の組合長として県内で初の法人化を実現し、現在100を超える県の集落営農法人の先駆けとなった。JA佐波伊勢崎の組合長を経て平成26年、JA群馬中央会副会長に就任。政府の規制改革会議によるJA叩きのまっただ中にあって、JA・県連役職員で構成する県域総合審議会専門委員会を設置し、JAグループ群馬としての自己改革案を策定するなど、政府の規制改革路線に向き合った。
営農面では県内初となるナス・キュウリの選果場を建設。それが今、同JAのナス・キュウリの一大産地につながっている。組合長を退任後は一念発起し、学問の領域から地域農業について検証するため高崎経済大学に入学。大学院まで進み、群馬県における満蒙開拓の歴史について調査研究し卒論にまとめた。忘れ去さられようとしている満蒙開拓の歴史を後世に語り継ぐことの大事さを唱え、関係者から高い評価を得ている。
【谷口信和選考委員長の講評】
児島氏は根っからの戦う、誇り高き農民です。営農組合設立で全国に先駆けていた群馬県では後発ながら立ち上げた営農組合を品目横断対策に抗して群馬県で最初に法人化して、地域農業の守り手の組織化に大いに貢献しました。また、JA組合長や県中央会副会長として規制改革会議の理不尽な農業・農協攻撃に正面から向き合い、ICAの日本政府批判の是正勧告を引き出すことに貢献しました。2014年の大雪による農業災害では獅子奮迅の活動で農協の信頼を高めました。
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