JAの活動:第43回農協人文化賞
【第43回農協人文化賞】営農事業部門 秋田しんせい農協専務 佐藤茂良氏 農業経営支援に精進2023年1月31日
秋田しんせい農協代表理事専務
佐藤茂良氏
このたびは、栄えある農協人文化賞の授与を賜り誠に有り難うございます。大変光栄に思うと同時に身の引き締まる思いであります。ご推薦頂きました当JAの前組合長畠山勝一氏、組合員の皆様、諸先輩方々、職員の皆様に厚く感謝と御礼を申し上げます。
私の農協人としての歩みも役職員を通じて36年目を迎えました。この間、幾多の高く立ちはだかる壁と向き合い、心が折れそうになったこともありました。まさに、葛藤、紆余曲折の連続であり、先人が築いた農業協同組合を未来に引き継いでいかなければならないという思いで走ってまいりました。アメリカ合衆国第37代大統領リチャード・M・ニクソンは「人生負けたら終わりでない、諦めたら終わりだ」と演説しました。この言葉に励まされ、真剣に且つ誠実に業務・経営に当たってまいりました。
私は、平成25(2013)年から6年間、信用共済担当常務に就任しております。就任当時、当JAの共済推進目標は7年連続未達であり、挑戦するという風土が欠けていて負け犬根性がまん延していました。就任初年度は目標にかかわらず、意識改革・体制の整備、戦う集団、チームによる営業力向上等改革を進めました。一方で、目標未達、やってもやらなくても良いという空気が不祥事につながることを最も懸念しておりました。必要以上の縛りをかける必要はありませんが、ある程度の節度と緊張感は不可欠です。
今では、コロナ禍においても共済推進目標を8年連続達成できるJAとなりました。信用事業についても常務最終年度はJAバンク推進目標の14項目完全達成を遂げ、JAバンク全国大会にて優良JA表彰をいただくことができました。信用共済全職員でつかんだ栄誉であります。現在もかたくなに職員に話しをします。「仕事の指示をする前に、なぜやらなければならないのか」目的を話せ。「これをやる事によりこうなる、こうなりたい」仮説を立てろと。納得しないと人は動かず、行動が伴いません。JA秋田しんせいの職員よ、Creative(未来を考え創造する)&Active(積極的に行動する)な職員となれ。
私は、信用共済事業がJA経営の屋台骨として、その利益が営農経済事業を支え、農家・組合員の負託に応えるのが営農指導事業であり、ひいては農家所得の向上につながるものと今でも信じて止みません。しかしながら、農協改革、農中の奨励金の引き下げ、信用事業の事業譲渡あるいは総合事業の選択、現在の早期警戒制度。そして内部統制システム基本方針で掲げる経営者責任等、求められているイコール・フッティングに対抗するには、これまでのJAの浪花節では通用しないものと痛切に感じてきました。
営農経済事業はJAの根幹であるものの、信用共済事業の収益が年々低下する中、総合事業を継続・維持するには営農経済事業の恒常的な赤字を解消することが必要不可欠であるとの思いから、常務という役職に限界を感じ、代表理事専務に就任したのが令和元(2019)年でした。信用事業については「健全な持続性の確保」営農経済事業については「赤字解消」を役職員大会において宣言し、目指すべき方向性の共有を図りました。
農家との対話が重要
そして、農家・組合員には、集落座談会においてそれぞれの支店・事業所・施設の損益を開示し、このままでは継続できない旨を説明。支店・事業所の当面の継続を前提に業務機能の見直し・効率化への取り組みに理解を求めました。米の販売手数料とCEの利用料金の見直しにも着手しました。組合員からは、農家所得の向上に逆行するものと猛反発を受けましたが、「これまでは何でも組合員価格ということで低料金の設定であったが、これからはそうはいかない」と説得。適正料金を図で示し、農協法第七条の改正と営農経済事業の損益構造を説明し、赤字の解消はもちろん、将来を見据えた施設修繕・機械の更新など新たな投資に備えた財源を確保しながら、生じた剰余金は、組合員の皆様に事業利用分量配当でお返しすることを提案し真摯(しんし)に対話を重ねました。
「財務の健全性無くして組合員サービスなし」で、収益性の実現と経営の健全性を確保しつつ成長のための投資または事業利用分量配当に充てるという法の趣旨を説きました。営農経済事業の黒字化はもちろん、農業経営支援積立金も創設しました。「夢なき者は理想なし、理想なき者は信念なし...」。渋沢栄一氏の夢七訓の精神です。
効率化を図ったものの、成長しなければ組織は衰退します。足元、農業における高齢化・生産者の減少が加速する中、一方では大規模化が進むと同時に経営の悩み・課題は高度になってきています。そこで立ち上げたのが、専務直轄の農業経営支援室です。経営の悩みに対し的確な「ソリューション」を提案し、かゆいところに手が届く「ワンストップ型」の問題解決の仕組みが必要と考えました。これまでの訪問活動に加え、JAの強みである総合力をフルに発揮し、加えて行政・関係団体との連携を図り、農家の所得増大につなげたい一心で令和3(2021)年3月に立ち上げました。職員は若手からベテラン、公募による6人を配置。営農・融資・電算等キャリアはバラエティーに富んでおり、職員個々のモチベーションを高く評価しています。
令和3年度、2000件近い農業法人と新規就農者に足を運び、併せて十以上ののモデル法人と座談会を重ね対話と情報交換を図ってまいりました。Z―GIS等の農業クラウドシステムによる経営の見える化と効率化、営農指導のデジタル化、経営分析による肥料等コストの削減、所得向上に向けた単収アップと複合化に向けた経営提案、労働力の確保等徹底した話し合いを重ね、労働力確保については、JA職員の副業を認め支援を図ってまいりました。
私は「農業経営支援室はJAの本気度を伝える司令塔になろう」と職員を鼓舞しています。JAが本気で農家の経営に向き合わないと農家も向き合ってくれません。物を売る前に信頼を売っていかなければなりません。
結びに、色紙の言葉を紹介します。「汝何の為に其処に在り也」秋田高校元校長・鈴木健次郎氏が生徒に向かって度々投げ掛けた言葉です。「お前は何をするために、何をしなければならないのか、なぜそこにいるのか」と解して自問自答しています。心に響く言葉であり、背中を押してくれる言葉でもあります。
私の農協人生、まだまだ道半ばです。この度の受賞を契機に一層精進を重ねてまいります。そして、いつの日か、農協人で良かったなと振り返ることが出来れば最高の人生だと思います。
【略歴】さとう・しげよし 昭和37(1962)年1月生まれ。昭和61(1986)年7月鳥海町農業協同組合入組、平成9(1997)年4月、11農協が合併し秋田しんせい農業協同組合発足、平成19(2007)年2月矢島総合支店長、平成21(2009)年2月企画管理部長、平成25(2013)年6月常務理事、令和元(2019)年6月代表理事専務、現在に至る。
【推薦の言葉】
営農経済事業を黒字に
佐藤氏は平成25年、JA秋田しんせいの常務に就任して2年目、7年連続未達成だった共済事業目標を達成した。以来、8年連続の目標達成している。推進体制の見直し、職場風土の改善、職員の意識改革などにリーダーシップを発揮した。
その後、専務の3年間、営農経済事業の黒字化、農業経営支援室の設置など、営農経済事業の改善に精力的に取り組んだ。特に組合員の反発が強い、販売手数料とCEの利用料金の見直しについて、集落座談会などによる対話を重ね、組合員と一緒に経営問題を考える姿勢は組合員の信頼を得た。事業の黒字化とともに施設整備積立金の創設につながった。
また令和3年に立ち上げた農業経営支援室は専務直結の部署で、JAの総合力を生かし、組合員農家の営農上の悩みをワンストップで解決できる仕組みを確立。また農家の労働力不足を支援できるよう職員の副業を認めた。
【谷口信和選考委員長の講評】
佐藤氏は36年にわたる農協人としての歩みの中で一貫して「信用共済事業の利益に支えられた営農指導事業の推進が農家所得の向上につながる」との信念で活動してきました。この明確な目標と強い意思があればこそ、共済推進目標の7年連続未達から8年連続達成への転換を実現し、営農経済事業の黒字化、営農経営支援積立金の創設と支援室の設置という一大事業改革を達成するとともに、JA職員の副業承認によって、労働力確保という難問に挑戦しているといえます。
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