JAの活動:第43回農協人文化賞
【第43回農協人文化賞】営農事業部門 東京・三鷹ファーム社長 岡田源治氏 都市農業を地域と共に2023年2月2日
株式会社三鷹ファーム代表取締役社長
岡田 源治氏
三鷹市は東京都のほぼ中央に位置し、都心から西へ18km、東は東京23区、西は小金井市、南は調布市、北は武蔵野市と接しています。標高50〜65mの平坦地で地層は関東ローム層のなかでも武蔵野層と言われ肥沃な火山灰土で農耕に適しています。この地で私は、岡田家14代目として生を受けました。
家業である農業は幼い頃から身近な存在ではありましたが、行政での勤務をへて昭和55(1980)年に就農し先代と共に農業に励んでまいりました。野菜全般をはじめ植木、畜産(鶏の平飼い)と多岐にわたり生産に力を注ぎました。また、当時は市場出荷中心に農業経営を行っていましたが、三鷹市の都市化が急速に進み、時代の変化に沿った形で農業経営の見直しが必要だと考え、庭先販売を中心とした多品目栽培にチャレンジする決意をしました。
その後はブルーベリー栽培や、栗生産も開始し、現在主力の野菜は夏果菜類のトマト、ナス、キュウリ、トウモロコシ、秋冬は三鷹市で古くから作られているキャベツやカリフラワー、ブロッコリー等を栽培、ロマネスコやのらぼう菜等珍しいものもつくっています。
さらに、ジャガイモ、タマネギも多く栽培し学校給食への出荷にも力を入れています。私の信念でもある「顔の見える農業」「地産地消」のもと利用者とコミュニケーションをとりながら、消費者のニーズに応える作物づくりを続ける事が農と食を通じた地域への貢献だと思っています。
私は、都市農業を永続的に維持・発展させる為に、様々な課題に取り組んできました。私が三鷹市農協青年部部長を務めた平成元(1989)年から2年間は、バブル期にかかり、まさしく激動の時代でした。土地の価格が高騰し、農業離れに拍車をかける中で、農業後継者である部員の心を一つにして三鷹市役所構内にブロッコリー畑を作り都市農業をPRしたことは非常に思い出深く印象に残っています。その様な活動、精神を引き継いだ後任の部長たちがJA青年組織活動実績発表大会において全国大会最優秀賞を受賞したことは喜びもひとしおでありました。
平成20(2008)年からは農業委員会会長を2期務め、農地の肥培管理だけでなく、市民が農業に親しみを感じてもらうことや多様な機能をもった都市農業を理解してもらうことを目的に、今もなお続いている農家の四季コンテスト(フォトコンテスト)を初めて開催する事ができました。
三鷹ファーム取締役勢ぞろい
平成22(2010)年には、農地が減少し続けている東京で、都市の中での農業経営を確立し、農地の保全と都市農業を永続的に発展させていくことを目的に「株式会社三鷹ファーム」を設立しました。当時、農業委員会会長であった私が「管理が行き届いていない国有農地を管理する機関を三鷹市で作ったらどうか」と市長に提案したことをきっかけに青壮年部時代の仲間を含め市内農家6人で立ち上げました。
代表取締役社長を務めながら、農地を減らしたくない、都市農業を盛り上げたい一心で事業を展開してまいりました。現在は近年成立した都市農地貸借円滑化法制度をいち早く利用し、農地保全を重点として、多種多様な取り組みを行っています。
小麦畑に生徒が集まり、岡田氏が講義・生徒の麦踏み
将来、高速道路のジャンクションのふたかけ部分にできる空間を農園等に整備されることを見越して、かつて盛んだった小麦栽培をその場所で復活させようと検討を重ね、5年前から栽培を開始しました。三鷹市、三鷹市農業委員会、東京むさし農業協同組合、(株)まちづくり三鷹と共に立ち上げた三鷹市都市農業市民交流協議会の協力のもと小麦生産の歴史や食の大切さも伝えようと地域の学校とも連携し、昔ながらの麦踏み・脱穀・収穫(棒打ち)を地元小学生に体験してもらい収穫した小麦を使い学校給食ですいとんを味わってもらいました。
岡田氏がコンバインで収穫
さらに、地元有名ベーカリーの協力を得て三鷹産小麦100%のパンを作り、また地元企業と連携し「三鷹産小麦ビール」も完成し市内で販売され人気の商品となっています。最近は、小麦に続き大麦を栽培し、ホップも水もオール三鷹産の「三鷹産大麦ビール」も販売しています。その他にも毎年夏には畑一面のヒマワリで迷路をつくり小学生に迷路体験をしてもらい、秋にはこの辺りでは珍しい芋煮会を開催し、抽選になるほど多くの市民が参加し好評をいただいております。
このように未来を担う子どもたちのみならず地域の人々に食と農業の大切さを伝え、地域の都市農業応援団を増やすことが私にとって宿命と思い励んで参りました。
都市農業を取り巻く環境は厳しさを増し、三鷹市においても様々な課題を抱えています。今後も農地を守り、都市農業を永続的に維持・発展させる為に、地域に信頼をされ、必要とされる農業を目指し精進して参ります。
【略歴】おかだ・げんじ 昭和23年10月東京都三鷹市生まれ。昭和46年3月明星大学人文学部経済学科卒業、昭和55年就農、平成元年4月~平成3年3月三鷹市農業協同組合青年部部長、平成6年4月~平成9年12月三鷹市野菜生産組合監事、平成12年4月~平成14年3月東京むさし農業協同組合北野第一支部支部長、平成20年7月~平成26年7月三鷹市農業委員会会長。平成22年3月株式会社三鷹ファーム代表取締役社長、平成24年5月三鷹市都市農業市民交流協議会会長、令和元年5月三鷹市認定農業者連絡会顧問
【推薦の言葉】
地域農業の先導役に
岡田氏の農業経営は信念でもある「顔の見える農業」「地産地消」のもと、庭先販売が主力。消費者とのコミュニケ―ションで得た情報をニーズにあったよりよい農産物の生産に生かし、さらに自身のモチベーションにつなげている。
また岡田氏の祖父源八氏は、岡田氏がこの世に生を受けた昭和23年に設立された三鷹市農業協同組合(当時:三鷹町農業協同組合)の初代組合長を務め農協の発展に尽力された。その後、三鷹市農業協同組合は合併し現在の東京むさし農業協同組合となる。
岡田氏は、祖父から協同の精神やJA運動の尊さ、また郷土愛や農業への想いなどを受け継ぎ、その探求心と優れた発想力を生かし、地域農業の先導役にとして活躍。農業者はもとより地域住民の信頼も厚く、よき指導者・相談役として欠かせない存在となっている。
【谷口信和選考委員長の講評】
岡田氏は篤農家の第14代ですが、自らの経営とは別に2010年に市内の農家6人で「農地の保全と都市農業を永続的に発展させていくことを目的」に三鷹ファームを立ち上げました。一方では「都市農地貸借円滑化制度」を活用して農地の保全活動を行い、他方では小麦栽培の復活と地場産100%の小麦パンの販売、三鷹産小麦ビールや三鷹産大麦ビールの販売、さらにはひまわり迷路、芋煮会開催など都市農業のあらゆる可能性開発にチャレンジされています。
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