JAの活動:第43回農協人文化賞
【第43回農協人文化賞】特別賞 日本労働者協同組合連合会理事長 古村伸宏氏 尊き「働き」を編む2023年2月13日
日本労働者協同組合連合会理事長 古村伸宏氏
新たに法施行された労働者協同組合の源流は、戦後の混乱期に役割を果たした「失業対策(失対)制度(事業)」で働く人々の運動にあります。戦後の復興事業と失業対策を兼ねた失対事業でしたが、働く人々は専ら自分たちの労働条件向上の闘争が中心でした。しかし制度が終息期に入る中で、それまでの姿勢から180度の転換を図りました。「人と地域に喜ばれ愛される『よい仕事』を」という合言葉のもと、地域からの信頼を得ることで制度の存続を求めました。しかし制度は廃止に至る中で、自分たちで受け皿となる組織を立ち上げ、失対制度廃止後に残された仕事を請け負い、働く場の存続に取り組みました。これが「高齢者事業団」「中高年事業団」として全国各地に立ち上がった私たちの起源です。
私がこの組織に入った1986年、「事業団から労働者協同組合へ」の転換が始まりました。大きな理念とは裏腹に、手がける仕事は委託の事業。病院の清掃や公園の清掃と草刈り。そして若かった私は、主に同じ協同組合の仲間である生協の物流業務に従事する日々でした。委託先には、大学を出たばかりの自分を「外国から来た若者」と誤解する人々もいる中で、働くことに何らかの困難やつらい経験を持った人々と共に、汗を流しながら「仕事の意味」を話し合い、「一人ひとりの価値」を見出す努力を重ねてきました。
労働者協同組合の志向は、「どうやったら『よい仕事』が実現できるのか」という問いからであり、「一人ひとりが主人公」として働くという方向を明確にします。
雇用が前提である労働の世界で、「雇われない」「職場の主人公」として労働者像を思い描くことを、よい仕事実現の核心に位置づけました。協同組合となり、「出資・経営・労働」のすべてに働く者が自覚と責任を持とうということです。また、一人ひとりの主体性は協同の関係の中でこそ育まれるということを、それ以降の実践の中で深めてきました。
主体性と協同性の両面を追求し、その成果を「よい仕事」として具体的に発揮するという探求が、労働者協同組合法を成立させた核心点だと思います。
私が強い問題意識を持って取り組んできたことが二つあります。一つは、物流現場で共に働いたフリーターや学校中退者との関わりが起源となった「若者と(が)協同で働く」ということです。そしてもう一つは、東日本大震災と原発事故を契機とした「自給・循環に価値をおくコミュニティーづくり」です。
「若者と(が)協同で働く」経験は、人間的な深い関係を結び合っても、最後はやりがいや誇りよりも「お金」に結果を求め挫折した経験は無数にあります。しかし最近の20年は、深刻なニート・ひきこもりと呼ばれる若者たちとの関わりが増える中で、若者自身を変えるという感覚から、彼らを取り巻く環境のあり方に問題意識は移りました。そしてお金を否定するというより、この社会を覆っている価値基準を少しずつ変えることが本質だと考えるようになりました。
その事は、2012年以降の「コミュニティーづくり」という志向とも重なっています。拡大することに価値をおくグローバルな経済は、本物の豊かさを奪い尽くそうとしています。また、日々の働き、職場、地域、社会における私たちは、常にコントロールされて流れに乗せられているのではないか、と感じます。情報が正しく共有され、どうしたらいいかを話し合い、進む道を決めて歩むという、「参加・決定・実践」を一人ひとりに取り戻すことと、コミュニティーを編み直すことは、一つのことではないかと考えるようになりました。
森のようちえん
今重視し関わっているのは、兵庫県豊岡市で取り組んでいる「森の百業」と、子どもを中心とした「自然の中での学びと育ち」の事業化です。森林の価値が損なわれ、森林所有者や境界が不明になり、荒れていく里山を守っていく「小規模林業」と、「森のようちえん」をはじめとする、自然の中での体験と体感、対話を重視する学びと育ちのあり方の創造を一つに結び、自治体とも協力連携するプロジェクトです。
一つひとつの仕事には、それぞれの意味や価値がありますが、その価値は「お金」で計られています。しかし「社会的価値が低い」とみなされていた仕事の中から、必死でその価値を見出し、高める努力を続けてきました。また、仕事の価値はその担い手である一人ひとりの「働き」の価値であり、ひいては一人ひとりの存在価値へとつながっています。
そして、どの仕事もそれ自身で完結せず、仕事と仕事は連なり結び合って成立しています。「仕事」と「働き」が一体となり、他の「仕事」や「働き」と有機的につながり、その総和が社会を成立させています。自然界もこうしたつながりによって構成されています。人や物事をパーツ化する傾向を越えて、「多様性」と「つながり」を重視する「協同」に価値をおく社会に向け、地道に新しい働き方を広げていきたいと思います。
【略歴】
ふるむら・のぶひろ 日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会理事長。1964年京都府峰山町(現・京丹後市)生まれ。86年中京大学体育学部卒業後、当時の中高年雇用福祉事業団全国協議会に入職。船橋、盛岡、仙台、藤沢の事業所長、東北、神奈川の事業本部長、全国事務局長、専務理事を歴任し、2017年6月より現職。35年以上にわたり、協同労働という働き方の実践、ワーカーズコープという組織の確立から、法整備に至る道のりを歩んできた。
【推薦の言葉】
労協法の制定に尽力
古村氏は昭和61年に日本労働者協同組合連合会センター事業団に入職し、労働者協同組合運動を全国レベルでけん引してきた。令和2年12月、労働者協同組合法が制定された。日本では42年ぶりの新しい協同組合法であり、協同組合界全体にとって歴史的な出来事となった。同氏は労協法制定に奔走した。
JAグループは第29回全国大会で労働者協同組合との連携を明記した。古村氏は令和3年に日本の協同組合ではいち早く「環境・気候非常事態宣言」を発表し、気候危機への警鐘を鳴らした。農業にとって、気候変動への対策や自然との共生は不可欠である。
「日本の地域・コミュニティーに根をおろし、自然とともにある食と農の営みを通じて"和の文化"を守ってきたJAには、組合員の協同を通じて"和の共生社会"を実現することが期待される」とする同氏の思想と実践はJAおよび日本のJA・農業に大きな示唆を与えている。
【谷口信和選考委員長の講評】
古村氏は失業対策事業の流れを汲む中高年雇用福祉事業団での活動を通じて、雇われない職場の主人公たる労働者がよい仕事を実現する可能性の道筋を「出資・経営・労働」のすべてに労働者が責任をもつ「労働者協同組合」の実現に見出し、2020年の労働者協同組合法の実現を牽引してきました。ワーカーズコープは協同組合運動の新たな地平を切り拓くとともに、コミュニティを重視することからいち早く気候危機対策に取り組み、農協運動のあり方に大きな影響を与えています。
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