JAの活動:第69回JA全国青年大会
多様性ある組織で上向き議論を 他産業と連携し地域を未来に繋げて 飯野芳彦元JA全青協会長に聞く2023年3月1日
JA全青協(全国農協青年組織協議会)のJA全国青年大会が2月21日から2日間、千葉市で開かれた。農業者の減少や資材高騰など農業を取り巻く状況が厳しさを増す中、将来の日本の農業を担う全国約5万人に上る若い農業者には今、何が期待されているのか。元JA全青協会長の飯野芳彦氏にインタビューした。
元JA全青協会長 飯野芳彦氏
飯野芳彦氏は、埼玉県川越市出身。1997年に20歳で父親の営む農園に就農し、26歳で経営を受け継いだ。規模拡大を進めて現在は約3.5haの農地で小カブや枝豆、サトイモなど約10品目を栽培する。2017年から1年間、全国農協青年組織協議会会長を務めた。
全国津々浦々に盟友 多様性のある組織
――飯野さんは20歳に就農されました。まずJA青年部との出会いから会長にいたるまでをお話いだただけますか。
就農した直後にJAいるま野福原青年部に加入しました。私の世代は青年部や消防には加入するものという意識があって、同級生4人の農業者と加入しました。当時の青年部には40数人いて、仲間づくりにはいい場所だったと思います。仲間と消防や4Hクラブ(農業青年クラブ)、JA青年部と各組織役員を分担する中で私が埼玉県農青協の役員に就任しました。全青協の理事になったころ、TPPや農協改革への対応が求められていた時期で、当時の会長を支えたいとの思いで活動する中で全青協の副会長に推薦されて就任し、翌2017年から1年間、会長を務めました。
――就農してから会長職まで約20年間、青年部活動に参加されたことになります。全青協とは一口でいうとどんな組織でしょうか。
全国津々浦々まで盟友がいて、多様性のある経営、組織で構成され、ボトムアップの組織として運営されていると強く感じました。意見集約も一部に偏らず、幅広い見地で中山間地から都市部と北から南まで多様な意見が集まります。裏を返せば多様性があるだけに意見集約は大変な作業でした。時間をかけて幅広い意見を集約して活動する組織だと実感しました。
すべての地域が抱える課題 協同の力借りて解決を
――具体的にどんな活動の中でそうした多様性を感じられましたか。
最も感じたのが、JA青年部の政策・方針を毎年まとめるポリシーブックの作成ですね。全国から活動について様々な意見が集まってきます。その中で共通性を探して1本の串にさしていく作業が求められ、地域ごとにさまざまな課題に向き合っていることが理解できました。
例えば鳥獣被害が騒がれているとき、鳥取県からくくり罠などの免許を取って対策に取り組んでいるが、被害が減るのはうれしくても生き物の命を奪うことは辛いという意見がありました。害獣だから簡単に減らすというのではなく、農業を守るためにわなを仕掛けざるをえない辛さを意見集約のどこかで表現しなければいけないと感じました。
また、沖縄県や奄美諸島の方々から台風や塩害に強いサトウキビを守ることが国土保全につながっているとの主張も大変納得できましたし、都市農業の東京都からは、農地面積は小さいが人口の多い地域として、全国の農業理解に繋がる情報発信をしたいとの声がありました。
つまり中山間地も都市部も地域ごとにみんな課題を抱えている。こうした個人では難しい課題解決へ向けて、協同という力を借りてみんなで考えて調整していくというのが青年部の活動だと感じました。
閉塞感をいかに上向きに変えるか
――会長を務めた1年は多忙だったと思います。青年部活動を通して飯野さん自身の意識の変化などはありましたか。
変化というよりむしろ変わらなかったのは、閉塞感をいかに変えていくかという思いです。地域の農業は人も減ってどんどんやりにくくなり閉塞感があると思います。その閉塞感をマイナスではなく青年部活動を通じていかに上を向けるような形にしていくかとずっと考え続けました。
それと就農した当初から、農業を含めてさまざまな産業によって町ができて暮らす人たちが幸せになると感じていたので、JC(日本青年会議所)会頭や漁業青年部など他産業の同世代の方々との交流は意義深かったです。やはり同じ悩みを抱えて地域をどう守り、次の世代に引き継いでいくかという課題に対してそれぞれ手法を持っていました。他産業との交流は大切で、例えば食料安全保障の議論なども農業者のわれわれだけでなく、他産業と一緒に議論しないといけないと思います。
――飯野さんは海外にも積極的に視察に出かけていますね。どんな収穫がありましたか。
全青協の活動以外も含めてドイツやフランス、イタリア、米国の農業を視察しました。ヨーロッパや米国でも、次の世代に引き継ぐことや国民への農業に対する理解をどう高めるか、同世代の経営者が想像していた以上に悩んでいる姿が印象的でした。また、今、日本ではみどり戦略が注目されていますが、例えばドイツでは、公共事業でどんな工事でも表面の土壌を捨ててはいけないという法律があることとか、学ぶことは多かったですね。
世界を見ても1人では立てない産業
――最近は若い農業者が青年部に入らないケースもあると聞きます。参加してもらうためにはどうしたらいいと考えますか。
確かに意見集約など面倒なことはありますし、それなら自分の農業経営のために時間と労力を割いた方がいいという考えもあると思います。ただ、協同活動に興味のない人に参加してほしいというよりは、協同活動に興味がある人たちが活発に活動するこで、興味のない人を引き付けてほしいと思います。
日本の農業は10兆円もない産業として成り立っています。どんな優秀な経営者が出ても1人で1兆円稼ぎ出すのは無理ですし、それなら10万経営体が1000万円ずつ稼いで1兆円を目指した方が楽だと思います。みんなの意思疎通を図るのは大変ですが、全農などがそれを取り仕切って協同で進めているのが日本の農業です。グローバル化に乗って世界を商いの相手にするという議論もあっていいと思いますが、結局、ヨーロッパでも米国でも品目ごとに日本の協同組合と同じような組織があり、麦は麦、コーンはコーンなどで出資金を出し合ってつくっています。結局、世界的に見ても1人では立っていられない産業だと思います。
――このところ農業者の減少や資材高騰など農業を取り巻く厳しさが増しています。こうした中で青年部の活動には何が求められると考えますか。
どんな時代も厳しさはあると思います。ただ、全産業に浮き沈みはありますけど農業がなくなったことはありません。どんな災害に見舞われて経済的に厳しくても農業はまた上向きになってきました。我々自身に次の世代に農業を繋げていくんだという強い意志があったからこそ、上向きになったわけです。やはりそういう前向きな議論をぜひしてほしいです。食料安全保障など難しいことはありますが農業は人の命を繋ぐ産業ですから、人が生き続ける以上、絶対なくならないので、絶対に未来はあるんですよ。それだけでも他の産業より恵まれているとも考えられませんか。
また、夢とか希望というのは、誰かが準備してくれるわけじゃなくて自分が周りを巻き込んでこそできるもので、孤立や孤独を感じることのない仲間作りができるのが青年部だと思います。最初は愚問でもいいですし、自分の思うところを吐露して、少しずつ鍛錬されて地域全体を次の世代に引き継げるような農業につながっていくのだと思います。個々の努力も必要ですが、コツコツとみんなで議論を酌み交わして鍛錬していくことが重要です。ぜひディスカッションをして、その中から新たな考え方を生み出していってほしいですね。
他産業とも連携して地域を未来に繋げて
――飯野さんのお話を伺っていると、地域への思いを強く感じます。全青協は全国組織ですが、最終的には地域をどう盛り上げていくかが重要ということですね。
自分の住んでいるテリトリーで様々な産業の方々と地域全体をどうやって上向きにできるかという議論が大切だと思います。それが結果的に農協青年部の活動の活性化にも繋がります。農業や商業、工業だけ残ってもだめで、農商工あって初めて地域全体が盛り上がっていきます。地域の協同の新たな目標や目的を議論して、自分の生まれた故郷が次の世代に幸せを呼ぶものとして継承されることが重要だと思います。
実は私自身、どうしたらこの地域全体が次の世代に引き継がれていくか、試行錯誤を続けています。私1人のアイディアではだめですし、いかに新たな発想をみんなで考えていくか、1人1人がそう思って考えることが大切です。コツコツと議論を重ねて底上げを図ることは本当に面倒な作業ですが、それをやらないと未来に繋がりませんし、青年部の方に期待するとともに、私も続けていきたいと思います。
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