JAの活動:農業復興元年・JAの新たな挑戦
【農業復興元年】持続可能性につながる価値判断こそ 新たな農へJAがけん引 JA秋田中央会 小松忠彦会長2023年7月24日
農業を取り巻く厳しい情勢の中、JAのトップや先駆的な産地の取り組みをシリーズで伝える「農業復興元年・JAの新たな挑戦」。今回はJA組合長の提言として、JA秋田中央会会長で前JA秋田しんせい組合長の小松忠彦氏に「農業者同士の連携から持続可能な農業農村の実現へ」をテーマに寄稿してもらった。
JA秋田中央会 小松忠彦会長(前JA秋田しんせい組合長)
世の中のベクトルの大転換
新型コロナ感染症が5類にランク付けされたことで、ようやく対面での交流規制が解放され、事業推進も懇親の場も、4年前に戻りつつあるが、この新型コロナ感染症が教えてくれたものが非常に多いと感じている。感染予防の為の人流規制が行われ、経済的ダメージだけでなく、孤立による精神的ダメージもあり、ウェブだけでの交流では、ぬくもりのある心の交流の難しさが浮き彫りになったと感じざるを得ない。JA事業の推進や農業の現場に、直接出向く事の重要性を改めて認識するものである。
新型コロナ感染症に加えて、ウクライナ戦争の勃発により、世の中のベクトルが大きく転換している事を実感する。この大転換は、今までの様な過去の経験値を生かし、改善していくというレベルのものではないと考える。
「Point of no return」という言葉がある。地球温暖化が進み、18世紀後半の産業革命以来の地球平均気温が2.0度(2.2度とする説もある)上昇すると、その地点からは、どんな対策を講じようとも、気候変動の進化を止めることができず、もう元に戻る事はできないと言われている。現在の農業の現場にも、その地点がすぐそこに来ていると感じているのは、私だけだろうか。
利他主義こそ新たな理念に
こういった観点から、単に効率化による利益を優先する価値判断ではなく、農の未来、地域の未来を築く原動力となる、持続可能性向上を踏まえた成長戦略による利益を優先する価値判断が必要と考える。
私たちのお金の使い方にも、単に安いからではなく、この持続可能性向上につながる労働や生産体制を応援する使用価値という新たな価値判断が必要なのではないかと考える。命を育み継承する事につながるものに価値を与え、対価を支払う考え方を共有し、ぬくもりのある人的交流とする連携意識を持つ事が求められている。
アフターコロナには、このような新たな理念となるエゴイズムではないアルトルイズム(利他主義)の理念が浮き彫りになったと感じている。他者の利益の為に自己犠牲を強いるのではなく、他者を守る事で自分や家族を守り、地域や社会全体を守る事につなげていく取り組みが必要なのである。
将来的な利益につながる成長戦略を
農地は先祖からの預かりものとの思いの下に、次につないでいく使命が我々農業者にはあり、次世代に継承していく責任がある。そのためには、農業者同士が、新たな就農者を創り出し、育んでいく仕組みづくりを考え出し、取り組んでいかなければなりません。農業の現場にも、JAの事業にも、近々の利益を得られる効率化だけではなく、将来的にも利益を得れる成長的戦略となる取り組みが必要だと考えます。今こそ、こういった種をまき、育んでいく成長戦略が必要なのだと思います。
農業の現場には、歴史的背景から家を守る事への固執があり、農地を主眼とした共同利用による利益の創出という事には抵抗がある。しかし、以前のように農業者が多く存在する状態から減少し、点在する中でも後継者がいるのはほんの一握りとなってしまった。家族農業が良いとか言うレベルの話では、農地を守り、継承させていく事にはならなくなっているのが実情ではないのか。農地を維持する観点から、家族経営を含めた多様な農業形態の下に、集落の維持・活性化につなげるにはどうすればいいのかを考えなければならない。
そして、もう一つは、農地を守るには米だけ作れば守れるだろうかという問題がある。排水性の悪いほ場では、米以外の作物の栽培は不向きであるため、水田フル活用による主食用米以外の飼料用米などの作付け拡大によって、経営の安定化を図る事も必要ではある。しかし、現状の中での生産拡大によって、新たな人材を必要とする事は少なく、後継者をつくり出すことにつながるには、さらなる大規模化が考えられるが、それが、中山間地域を含め、集落や地域の維持につながるのだろうかと考えてしまう。JAには、地域貢献という重要な役目があり、農業生産振興と集落・地域の活性化と同時進行で、JAの役割を果たすには、どうするべきかを考える必要がある。
バックキャスティング的な思考を
人・農地プランから、農地の担い手を明確化する地域計画の策定が、令和9年までに行われ、当JA(JA秋田しんせい)では、JA地域営農ビジョンの更新時期とこの策定期間が重なる事もあり、新たなビジョンには、夢のある地域農業づくりと銘打ち、地域農業者協議会を立ち上げ、地域単位の農地の担い手の明確化だけではなく、農業者同士が連携し、米だけでない園芸作物栽培に取り組み、農業所得の増大と農業者以外の方たちとの作業協力による労働力確保とそれによる農業への理解醸成を創り出し、それが集落の活性化につながっていくように協議を重ねていきたいと考えている。
変革の時代だからこそ、将来みんなが良くなるような夢を掲げて取り組む事が重要で、夢を抱き、それに向かって、取り組むバックキャスティング(目標とする「未来の姿」を描いてから「いま何をすべきか」を考える思考法)な考えを持った挑戦が重要だと考える。
日本一の品目創出へ 園芸振興
秋田県は、農業産出額が東北最下位であり、これの脱却に向け、東北一となる、そして日本一となる品目を数多く創出する産地づくりを目指すという夢を掲げ、JAが先頭に立ち、取り組んでいきたいと考えている。
そのためには、米にだけ頼らない、園芸品目の生産振興が必要である。また、露地作物は、気象変動による収量への影響が甚大で、経営リスクが発生しやすい。
それを回避するためにも、環境制御可能な施設型園芸作物生産の取り組みが必要であり、水稲、露地と施設との蔬菜園芸作物栽培の合体型の複合農業経営が求められている。施設型栽培には、初期投資や生産技術の習得が課題となるが、当JAは、シャインマスカット根域制御栽培、アスパラガス枠板式高畝栽培の研修施設を設置し、研修を希望する2年間は、JAと雇用契約を結び、技術の取得の他、JA共選施設の作業などの業務を担い、収入を得ながら研修できる制度を設けている。また、施設園芸を導入するに当たり、自己負担経費が25%程度で開始できるように、県・市と合わせJAも独自支援を行っている。
さらには、秋田由利牛の繁殖・肥育や比内地鶏育成の若手の農家が増えており、菌床シイタケメガ団地もある事から、これらの排泄物や廃菌床を利用した堆肥づくりとほ場散布をJAが行い、オーガニックと資源循環型の実現に向けて取り組みを始めようとしている。
信用事業共済事業においても、新たな事業性融資の推進や原点に返る共済推進訪問を含め、どの事業においても、新たなつながりを求め、出向き、対話する事が求められている。そして、その根本には、信用・信頼が必要不可欠である。
信用・信頼を得るには、人間性をブラッシュアップする事が欠かせない。CS(顧客満足度)及びES(従業員満足度)向上、コンプライアンス意識の向上のための研修を積み重ね、組合員、利用者の満足度を高めていく事が必要である。
新たな園芸作物への挑戦を期に、集落での農業者が、コロナ禍を経て、ぬくもりのある人的交流を進め、連携した農業生産の集合体を創り出すことが、今、求められており、JAが誘導役となり支援する事で、農業者の所得増大へつなげ、持続可能性向上となる農業経営とする事が、すなわちJA事業の持続可能性を高め、さらには、集落・地域の活性化につなげていく、そういったJAの新たな挑戦に取り組んでいきたい。
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