JAの活動:農業復興元年・JAの新たな挑戦
【農業復興元年】「環境こだわり米」で前へ JAグリーン近江の挑戦 関西の食を支える穀倉地帯2023年7月25日
近江米で知られる近江(滋賀県)は、古くから京都・大坂の食を支えてきた穀倉地帯。びわ湖の東に位置し、近江八幡市、東近江市などをエリアとするJAグリーン近江は米の販売高が約38億5000万円、麦、大豆を加えた販売高は約45億5000万円で、水田作が農産物販売全体の65.8%を占める水田農業地帯だ。その特徴はびわ湖汚染に端を発した環境保全農業の取り組み、また生産面では集落営農(法人)が農業の主要な担い手になっているところにある。「みどり戦略」の柱である環境保全、それと水田農業のあり方について全国の範となっている。
水田農業の雄 集落営農が要
びわ湖を臨む水田
世界農業遺産を励みに
JAグリーン近江 大林茂松組合長
「滋賀県の農業はびわ湖抜きで考えられない」。JAグリーン近江の大林茂松組合長は、びわ湖の存在を強調する。びわ湖は県土の6分の1の面積を持ち、京都・大坂の〝水がめ〟の機能を果たし、県内はもとより、農業・生活用水として、多くの人々の生活を支えてきた。
ところが1970年代、この湖に異変が生じた。合成洗剤による被害が広範囲に発生し、その後も赤潮による水質汚染が頻発し、特にびわ湖の水を飲用する京都・大坂で大きな社会問題になった。びわ湖の流域は滋賀県全体で、県内の河川の水はすべてびわ湖に集まっている。このため合成洗剤をやめて、せっけんを使う県を挙げた運動が広がり、1980年には県は「富栄養化防止に関する条例」をつくり、工場排水、生活排水はもとより、農業用水などの使用規制を強めた。
こうした動きにあわせ、滋賀県は「環境こだわり農業」による米づくりを開始。化学合成農薬および化学肥料の使用量を慣行の5割以下に削減するとともに、畦畔への除草剤散布の規制や少ない水で代かきする方法なども普及させ、琵琶湖をはじめとする環境への負荷と削減するする技術で生産された農産物を「環境こだわり農産物」として認証する取り組みを進めた。こうした地道な取り組みが、令和4(2022)年の国連食糧農業機関(FAO)による世界農業遺産の認定につながった。
可能な限り有機栽培に近づける
令和3年、JAグリーン近江管内の「環境こだわり米」の作付けは3020haあり、全作付面積の約43%にあたり、県全体の「環境こだわり米」の約4分の1を占める。同JAは今年「オーガニック部会」を立ち上げた。有機JAS認定も含めて、可能な限り有機栽培に近づけようという狙い。「部会員5人と少人数のスタートだが、説明会には50人ほど参加しており、関心が高い。みどり戦略で掲げる2050年までの有機農業25%を目指し、さらに取り組みを強め、JAとして有機米販売の出口戦略を考える必要がある」と大林組合長はいう。オーガニック米の学校給食利用も視野入れている。
滋賀県は来年度、近江米として10年ぶりに新品種「きらみずき」をデビューさせる。食味、収量性、耐倒伏性に優れ、さまざまな気象条件でも栽培しやすい品種。同県ではこれを、いままでの環境こだわり米よりもさらに厳しい基準のもと、「化学肥料や殺虫・殺菌剤不使用栽培」と「オーガニック栽培」に限定して栽培する。「近江米の一層のイメージアップにつなげたい」と、JAも積極的に普及させる方針だ。
集落営農が直面する課題
「環境こだわり農業」と並び、JAグリーン近江の農業を特徴づけるものに集落営農(法人)がある。「30年前から、集落営農の組織作りに取り組んでおり、担い手としてすっかり定着している。地域農業は集落営農にかかっている」と大林組合長は強調する。滋賀県は寺社の影響が強いことや農業用水管理の必要性などから、集落のまとまりがよく、米価の低迷、兼業化の進展で後継者(担い手)が不足し、集落営農に力を入れてきた。これまで大きな成果を上げてきたが、いま再び担い手不足に直面している。
現在、管内には138の集落営農(法人)がある。1法人平均40人ほどで、JA正組合員約8000人(戸)のうち、約5500人が何らかの形で集落営農に関わっている。JAも出資し、これまで集落営農が地域の農業を支えてきた。しかし、同時に限界感も感じられるようになってきた。
同JAが令和3年度に60ha規模の集落営農法人で実施した経営分析によると、米作部門は経常赤字、麦作は単収向上による助成金増加で黒字、大豆も黒字という結果だった。細かくみると米の収入が3900万円、生産費が5000万円で差し引きマイナス1100万円だった。麦の280万円、大豆の110万円の利益を計算に入れても10a当たり8800円の赤字になった。
状況打開へ基盤強化にスマート農業も
麦作で水田をフル活用
令和3年産米は米価低迷の影響もあるが、今後、米価の上昇はあまり期待できず、肥料・燃料価格は高止まりの状態にあり、この先、経営悪化は避けられない。また飼料価格の高騰は、近江牛で知られる同県の耕畜連携の水田利用にも影響が出る。同県では環境こだわり農業で化学肥料50%削減に取り組んでおり、これ以上の資材費カットは難しい。
「このままの状態が続くと、集落営農はもたなくなるのでは」と、大林組合長は地域農業の将来に危機感を示す。米地帯にもかかわらず、米の生産目標未達成も懸念され、販売量の減少はJAの経営にも影響する。
こうした状況を打破するため、JAは今年(令和5年)度から第8次地域農業戦略をスタートさせる。その骨子に、①農業生産力の向上②生産基盤体制の強化③農的関係人口の拡充――の三つの柱を掲げる。中身は地域の実情に応じた生産技術の確立とスマート農業への取り組み、有栽栽培の導入とみどり戦略への対応などのほか、高収益作物の導入による所得のアップをめざす。地域の条件に合わせ、キャベツ、ジャガイモ、タマネギ、ニンジン、小豆などに加えて梨やぶどうなどの果樹を導入する考えで、人手不足が予想されるなか、できるだけ機械化・ICT化し、効率的な経営を目指す方針だ。農業戦略は管内6営農センターごとに策定した。
農地整備を起爆剤に
また、同JA管内では来年度から東近江地区で大規模な国営の農地再編整備事業に着手する。受益面積約680haで、水田を1~2haの大区画にして、農道や用排水路などを整備。併せて集落営農法人など担い手の経営規模拡大は、スマート農業の導入によって農作業の効率化を進める。
また暗きょ排水を整備して水田の汎用化を進め、田畑輪換で野菜の栽培ができるようにする計画で、水田をフル活用したもうかる農業の実現をめざす。
対象となるのは16集落で、事業後の要件として農地集積率が80%以上で、集落営農などの担い手の平均経営面積が20㌶以上、または農地集積率が60%以上になることを挙げる。また野菜、小豆などの高収益作物の作付け割合を、30%以上にするとしている。
大林組合長は、「条件のよい田んぼは畑にも田んぼにもなり、米も野菜も作れる。管内は県下最大の穀倉地帯であり、耕作放棄地も少なく、水田率は90%を超える。この農地を守っていくには、儲かる農業を実現することだ。食料自給のためには、再生産できる価格で生産者の所得を補償すべきだ。このことを分かりやすく説明し、国民の理解を得る必要がある」と、食料自給のための水田の維持と、農業に対する国民理解の醸成を強調する。
(日野原信雄)
▽JAの概況
平成6年、滋賀県東近江地域の9JA(JA安土、JA老蘇、JA近江八幡、JA日野町、JA大中の湖、JA八日市市、JA永源寺、JA五個荘、JA能登川)が合併して発足。
▽貯金残高=3139億円4000万円
▽貸出金=526億9900万円
▽購買品取扱高=50億9200万円
▽販売品取扱高=111億4600万円
▽組合員=正組合員8156人、准組合員1万5471人
▽職員=423人(うち臨時職員等53人)
(令和4年度末)
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