JAの活動:自給率1100% 北海道十勝農業の挑戦
【自給率1100% 北海道十勝農業の挑戦】今こそ「農業の見せ場」 十勝農業協同組合連合会 鈴木雅博会長インタビュー2023年7月27日
十勝の農業は開拓以来、土地基盤整備を進め、地域の自給率は1100%とわが国の食料供給を担う重要な役割を果している。畑作は麦類、豆類、バレイショ、てん菜の4品目を基幹作物とした輪作体系が確立され、ナガイモや大根、スイートコーン、葉物なども生産されている。酪農も大規模が進む。こうした農業生産を支えるのが十勝地区23JAを会員とする十勝農協連で先進技術の普及などで生産現場を指導する事業が柱となっている。6月に就任した鈴木雅博代表理事会長(JA十勝池田町代表理事組合長)に十勝農業と農協連がめざすことを聞いた。
十勝農業協同組合連合会 鈴木雅博会長
需要に応じた輪作が課題
――コロナ禍、さらにウクライナ情勢などで食料への関心は高まっています。最近の十勝農業の状況と課題についてお聞かせください。
今年は7月6日から10日まで、5日間にわたって第35回国際農業機械展が開かれ、延べ15万5000人が来場しました。114社が出展し、海外からの農機も展示されて大変なイベントでした。
日本は急激な高齢化社会を迎えているわけですが、そのなかで食料生産をしていくためには農業従事者の高齢化や担い手不足に対応していかなければなりません。そのため規模拡大が進み、十勝では一戸当たりの経営耕地面積は45haを超え都道府県の20倍以上で100haを超える経営も出てきました。ですから、先端の農業機械を駆使していくことは非常に重要になっています。
5年前の農機展ではGPSなどが搭載された農機が登場し、これからはこんな世界になっていくのかと思いましたが、あっと言う間に普及しました。それらの農機が必要とされているということですし、全国、そして海外からも視察に来ているわけですから、十勝の農業が注目されていると改めて実感しました。
こうした先端農機を導入するなどで順調に生産量を伸ばしてきた北海道農業、十勝農業でしたが、コロナ下の3年間で消費が減退し、生乳が余る事態となったほか、畑作物のなかでも十勝を代表する小豆が土産物の売上減などで低迷しました。
このような状況のなかでウクライナ紛争が起こり肥料、飼料、食品の高騰が起きて、国産の農畜産物の価値が見直されていると思います。
そして最近ではインバウンドも戻りつつあり、小豆やでん粉をもっと生産してほしいという要望が寄せられています。
ですから、これからの農産物は需給バランスがかなり大切になってくるのではないかと思います。これまでも言われていたことですが、需要と供給のバランスを考えて、どういう作物が求められているのかというニーズをしっかり把握しながら進んでいかなくてはならないと改めて考えています。
ただ、たとえば砂糖は国産に切り替わればてん菜生産も増えますからそれに越したことはありませんが、日本の人口動態と同じように長いスパンで生産量を考えていく必要があると思います。
一方で今回の生乳のように一時的に影響を受けたものに関しては、国の施策であったり、あるいは相互扶助の精神でみなで調整、抑制をしていくことが必要です。
中長期的に考えなければならないこととして、たとえば砂糖は明治から昭和の初期にかけて増産体制をとり、台湾に砂糖工場を作ったりしました。そして1970年代には国民1人当たり20kg近くまで消費量が増えました。
しかし、現在は海外からの甘味資源に押され、健康ブームなどもあって消費が減少し、そこに人口減の影響も考えなければならないということです。
てん菜は十勝が全国46%の生産量を誇っています。もちろん十勝の輪作体系にはなくてはならない作物です。一方、先ほども触れたように、需要者からは十勝産の小豆や、あるいはいんげんの増産も求められています。こうした状況のなかで輪作体系をどう考えるかが課題になってくると思います。
作物転換といっても簡単なことではなく、まず種子の増産をしなければなりません。それから植え付けと収穫の機械の確保も必要になります。ニーズを見ながらどう作付け体系を考えるかということです。
幸い十勝では産官学が連携しています。それを象徴するのが先日の国際農機展で、これだけ地元に農業機械メーカーがあり、帯広畜産大学という研究機関もあり農業界に多くの人材が送り込まれています。行政も道庁をはじめ農業をしっかりと位置づけています。この産官学の連携がこれからの十勝農業をますます進めていくことになると思います。
技術集団として十勝農業を支える
――十勝農協連として今後めざすことはどんなことでしょうか。
十勝農協連は本来、技術集団であり、先進情報を十勝の23JAにどう提供し指導していけるかという指導連だと思っています。先人、先達が残してくれた財産を十勝農業発展のために維持していくのが役割だと思っています。その役割をしっかり認識して農業者、会員JAとしっかり目線合わせをするということだと思います。
十勝農協連には種子の提供をするシードセンターがあります。私は畑作農家ですが、その立場からすると豆類の根粒菌の研究や、根粒菌を付着させた種子の提供、さらに研究機関と連携した品種改良などに期待してきました。畜産では優良牛、優良馬の導入は先人たちがやっていたのですが、そのDNAは今も引き継がれていて和牛、乳牛の改良は農協連が中心になってやっています。
こうした歴史のある農協連の職員には最先端の情報を持つ技術集団として自負を持って仕事をしてもらいたいと思っています。
それから、高齢化や人材不足という問題はJAのなかでも同じように起きています。JAの職員採用も少子高齢化で、当然ですがだんだん厳しくなっていきます。そこで農協連が人材バンクのようなものを作り上げることも大切だと考えています。
同じ23JAのなかでも酪農の技術者の多いJAや、畑作の技術者の多いJA、あるいは金融部門が優秀なJAといった特色があるわけですが、職員の就労年齢は伸びていますから、そうした優れた人材を、必要とするJAにつなぐということも農協連の仕事だと思います。農業も厳しい時代でありますが、農協経営も厳しい時代ですから、人材を橋渡しすることもできるのではないかということです。
また、十勝では独自に電算事業として十勝地域農業情報システムネットワークを稼働させてきました。これによって生産者やJAの担当者は迅速に営農関連情報を入手して利用することができるようになっていますし、JA事業の電算化にも貢献してきました。
ただし、情報技術は非常に目まぐるしく動いている世界であり、たとえばJAが人手不足になったとき、どれだけ進んだ電算システムを取り入れていくかということが課題になると思います。それを十勝だけで研究していくのか、全道レベルで研究していくのか、さらにはたとえば国レベルでの研究の動きに加わるのかということまで含めて、どういうあり方を追求するのか、その検討を始めます。
デジタル化を進めることはJA職員にとっても仕事改革になりますし、余力を組合員サービスに使うこともできます。こういった問題を深掘りしていこうということで、対応が待ったなしに必要になっているということです。
フィールドアドバイザーという現地に出向いて情報提供する職員もいますが、これも改めて原点に返って、どんどん現場に行って指導をしてもらいたいと思います。そこに存在意義があるわけですから。もっと信頼されるように努力していきたいと思います。
国民理解が重要
――自給率1100%の十勝から改めて何を発信したいですか。
国民のみなさんに日本の農業を理解してもらって応援してもらうことがいちばん大切だと思います。
コロナ禍ではマスク不足になりましたが、スーパーマーケットの棚には食料が並び、不足して大混乱になるということは起きませんでした。まさに「農業の見せ場」であり、農業者が責任供給という努めを果したと思います。こういう取り組みをしっかり続けていくことが、国民のみなさんに農業は必要だと理解してもらうという関係づくりになると思います。
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