JAの活動:【農業協同組合研究会】どうなる どうする基本法改正
【農業協同組合研究会 質疑と意見】三つの論点―自給率・適正価格・担い手2023年9月7日
農業協同組合研究会は9月2日、東京都内で「どうなる どうする基本法改正-『食料・農業農村政策の新たな展開方向』をめぐって」をテーマに2023年度第1回の研究会を開いた。農水省の杉中淳総括審議官、JAぎふの岩佐哲司組合長、日本生協連の二村睦子常務、研究会会長の谷口信和東大名誉教授が報告を行った。研究会の司会はJAおきなわ中央会・普天間朝重会長が務めた。報告後のパネルディスカッションでは、司会の普天間朝重JA沖縄中央会会長が「食料自給率向上に向けた取り組み」、「適正価格の形成」、「担い手問題」の3つを論点として提起した。
パネルディスカッションでは熱心な議論が交わされた
食料自給率について、中間とりまとめでは輸入リスクが増えていくなかで引き続き重要と位置づけているが、杉中氏は自給率低下の最大の要因は米消費の一貫した減少であり、そのマイナスの効果がカロリーベース自給率に大きく影響してしまい、他の品目の生産努力が反映されていないと指摘。総合食料自給率目標は設定するものの、そのほかに輸入依存度の高い麦・大豆、さらに肥料などで国産化の努力が反映される指標を検討する考えを示し、「平時の食料安全保障の確立に向けて輸入リスクをどう解消していくかを政策的に評価できる仕組みを考えていきたい」と補足した。
また、今後は気候変動などにより北米、豪州、ブラジルで同時不作が数年続く可能性があるとの指摘もあり、食料が急に入ってこなくなるという「不測の事態」を考える必要がある。しかし、それに対応できる法律がないことから、農水省は法整備を進める方針で輸入の多角化のほか、「国内で計画的に増産していく制度が必要だ」との考えを示した。
岩佐氏は「自給率は消費者の問題なのに、農業者に向けて自給率向上が言われるのはどうなのか」と疑問を示しながらも、「食を担う農家として責任はある」として麦、大豆などを増産するには農家への国の支援策について国民の理解が必要だと強調した。
二村氏はウクライナ危機で農産物だけでなく肥料や飼料も値上がりしていることについて「多くの消費者が知るようになり食料と農業に関心を持っている」と話し、とくに今回は肥料など生産資材を海外に依存していることが知られるようになり、平時から食料を安定的に確保するための政策が必要だという理解は広まっていると見る。ただし、高くても誰もが国産品を買うことはできず政策支援が必要と述べた。
会場参加者からも意見が続出した
谷口氏は自給率が消費者の問題であることは間違いないが、「やはり作る側の問題でもある」として、消費者側が必要だと思う農産物を作り、食べてもらうための発信も大切だと指摘した。その理由は大局的には食料は過剰となっており、人々は飢えているわけではないからである。しかし、食料の安定供給には危うい状況があり、そのことを生産者は訴え、自分たちの仕事は人々の食を支え、国土を守っているという自らの努力と誇りを発信すべきだと提起した。
また自給率向上のためには米粉にして米の用途を広げていく必要性も指摘した。さらにアメリカからの農産物輸入を止められないという国のあり方に関わる問題も簡単ではないが考えていく必要性も提起した。
国内農業生産を強化するには農地の確保も課題となる。担い手に集約できず耕作放棄地となっている農地も多い。岩佐氏は現場の動きについて「条件の悪い山際などの耕作放棄地は山に戻すという人も多い。地域ごとに農地としての活用とそれ以外を分けて考えるべきではないか。耕作放棄地対策は現場には荷が重い」と話す。谷口氏は、数年後に耕作放棄化する恐れのある農地をどう担い手に任せるかという問題と、耕作放棄地を復旧する問題を区別する必要があると指摘した。とくに耕作放棄地と連担している優良農地は次第に条件が悪くなるため、耕作放棄地の復旧が必要になるという。また、耕作放棄地問題は中山間地域問題と鳥獣害問題と密接に関連しており、採草放牧地などとしての利用も必要だと話した。
2つ目の論点である適正価格の形成について杉中氏は、農産物は生産コストを把握し、価格に反映することが難しいという課題を挙げ、そのためフランスのエガリム法はフードチェーン全体の関係者組織が生産コストの指標を作り、その指標を使って価格を決めることを法律で認めたものだと紹介した。日本でも何らかのかたちで価格に反映させる仕組みを検討していくとして、コストの把握などでJAの役割も大きいと述べた。
二村氏は産直での生産者との話し合いの経験をふまえて「中長期の価格形成を考える必要もあるのではないか。今の議論は目の前の市場価格高騰に振り回されすぎでは」と話した。
谷口氏は将来の所得水準の見通しがあれば後継者も生まれるとして、短期的な価格の乱高下への対応と長期的な対策という2段構えの対応が必要で、そのベースには財政による本格的な所得補償が必要だと提起した。
これに対して杉中氏は財政支出は借金として将来のつけになるとして「まず所得補償ありきではない」との考えを示した。
担い手の考え方について杉中氏は「現在は規模を問わず農業で所得を上げていくという意思があってその努力をしている農業者」とし、農業はしているけれども生計はそこに依存していない人は「施策の対象ではないという仕切りをしており、この仕切りは変える必要はないのではないか」との考えを示した。一方、今回中間とりまとめで示した「多様な農業人材」とは、農業者が大きく減るなかで農地や資源を管理して保全していく役割を担うために必要だとの考えで位置づけているとした。
写真左から下山久信全国有機農業振興協議会理事長、福間莞爾新世紀JA研究会事務局長、三井物産畜産事業室瀧本昌平氏
参加者からは開発や工場進出のために農用地が転用されている実態があるなか農地の確保策についての議論が不足しているとの意見(全国有機農業振興協議会・下山久信理事長)や価格転嫁よりも直接所得補償を導入することや種子の確保策も検討すべき(新世紀JA研究会・福間莞爾事務局長)などの意見や、生産振興のために国産農畜産物の消費税をゼロにすること、ゲノム編集技術による新品種開発を求める声も出た(三井物産畜産事業室・瀧本昌平氏)。
また、「農業構造の展望」を見直して多様な経営体もメジャーな担い手として位置づけ、主体形成をしていくこと(農中総研客員研究員・石田信隆氏)や、基本法の見直し議論に合わせて低所得層への食料支援や学校給食の無償化など「現実の危機に機敏に手を打っていけば国民的議論も高まる」(村田武九大名誉教授)との指摘もあった。
そのほか飼料用米の位置づけが後退したとして、自給率向上に向けて米作が基本である日本農業は飼料用米支援の恒久化と専用品種開発に力を入れるべきとの意見もあった(生活クラブ連合会顧問・加藤好一氏)。
写真左から村田武九大名誉教授、農中総研客員研究員石田信隆氏、生活クラブ連合会顧問加藤好一氏
杉中氏はこれらを受け「現場の方々とこれからも議論をしていきたい」と述べた。
閉会のあいさつで研究会副会長の北出俊明元明大教授は「農は国の基幹産業の一つであるという観点に基づいた政策を国が実行していくように努力をしていくのがわれわれの課題」と話し、引き続き議論する重要性を強調した。
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