JAの活動:消滅の危機!持続可能な農業・農村の実現と農業協同組合
【対談】JA全中山野徹会長・農協協会村上光雄会長「至誠」の心で変革に臨む【消滅の危機!持続可能な農業・農村の実現と農業協同組合】2023年10月5日
食料自給が大きな政策課題になり、食料・農業・農村基本法(基本法)の改正方向が答申され、具体化に向けた議論が山場を迎えている。この大きな農政の転換期に、JAグループはどのように対応するべきか。今年の8月にJA全中会長に就任した山野徹氏と村上光雄(一社)農協協会会長が対談した。(敬称略)
営農指導がJAの原点
JA全中会長 山野徹氏
村上 JA全中会長に就任されて1か月あまり経ちました。今の心境を。
山野 あっという間でした。業務引き継ぎやあいさつ回りなども終え、週末に地元の鹿児島での業務、翌週の月曜日から東京という生活にも慣れ、ようやく地に足がついてきたたという感じです。
村上 鹿児島県は大隅半島と薩摩半島があり、会長は大隅半島のご出身で、農家の跡とりだったと聞いていますが。
山野 曽於郡大崎町の農家の生まれです。姉はいましたが一人息子だったので、当然、家業の農業を継ぐものと考えていました。当時、大隅半島の農業はカライモ、米、ナタネなどが中心で、農家の生活は楽ではありませんでした。
その後、農業基本法で選択的拡大が打ち出され、農業構造改善事業によって温州ミカンとお茶が入りました。特にミカンは、町のほとんどの人が栽培するようになりました。しかし生産過剰気味となり、オレンジの輸入自由化もあいまって価格が暴落し、果実連がジュース工場をつくったり、ハウスミカンに切り替えたりしましたが、手取りが少なく、厳しい状況が続きました。
村上 それが今や、鹿児島県は北海道に次ぐ農業県になりました。これを支えているのは畜産ですね。私は若いころ広島で牛を飼っていましたが、鹿児島からも子牛を買ってもらっていました。
山野 地元のJAそお鹿児島は販売高の7割が畜産です。これまで子牛価格が高かったのですが、いまは価格が低迷し、「もういいだろう」と意欲をなくして離農する高齢の生産者が出てきたのは寂しい限りです。
村上 鹿児島県のみならず九州出身の全中会長は初めてです。特に鹿児島県は明治維新で活躍したリーダーを多く輩出しています。
山野 この重要な時期の会長として、その重責を感じています。しっかり責務を果たす覚悟です。鹿児島県出身の偉人はたくさんいますが、あえて尊敬する人を挙げると西郷隆盛と京セラ創業者の稲盛和夫さんですね。私自身は稲盛さんの経営手腕、そして謙虚な姿勢が好きです。JAも多くの組合員の皆さんのおかげで今日があるので、謙虚で「至誠」の心を大切にしたいですね。
ご用聞きでニーズ把握
(一社)農協協会会長
村上光雄氏
村上 この農政の転換期に、ぜひともリーダーシップを発揮していただきたい。ところで会長は営農指導員をされていたようですが、営農指導員の全中会長は初めてだと思います。これからの農業振興には、特に営農指導が求められます。全国の営農指導員にとって大きな励みになると思います。
山野 全中が主催する研修会などに営農指導員が参加していると嬉しく思います。何人かいます。今回、就任された全農の折原敬一会長も営農指導員をされていたようです。同じ営農指導員出身の会長ということで親近感があります。一度ゆっくり話したいと思っています。若いころは農業改良普及員に憧れていましたが、応募資格がかないませんでした。
農家のせがれだったので、少しでも家業のためになればと思って農協の営農指導の仕事を選びました。当時、鹿児島県には中央会が優秀な事務・管理職、営農指導員をスカウトする「斡旋職員制度」があり、それによって、薩摩半島南端の開聞町農協に就職し、麦作から野菜作への転換に取り組みました。入組して6年後には地元の末吉町農協に異動になりました。
そのころ営農指導員の仕事は配属された先々で産地をつくることでした。農協合併で、斡旋職員制度はなくなりました。復活の話もありますが、いい仕組みだったと思います。
村上 そうした産地づくりの経験から組合員との「対話」を重視した営農渉外を全国に先駆けて設けられたのですね。後の現在の全農のTAC(地域農業の担い手に出向くJA担当者)のモデルになりましたね。
山野 農協合併したのはいいが、いいことばかりではなく、組合員からいろいろな不満や意見も出ました。そこで組合員のニーズを聞く"御用聞き"が必要だと考えてのことです。
村上 ところで食料・農業・農村基本法の改正方向が答申されました。改めて基本法への思いを。また〝ミスター中山間地〟と称される宮下一郎氏が新しい農水大臣に就任しました。私の地元の広島県でも高齢化が進み、集落があと何年持つかと危惧しています。新大臣への期待を。
山野 基本法にはJAグループが取りまとめた要望が実現するよう、特に食料の安全保障と自給率向上について、しっかり要請していきたいです。中山間地域の状態は鹿児島も同じです。誰かが地方を守らなければ限界集落が増え、耕作放棄地がさらに広がります。地方が元気になるよう、一人でも多くの人が暮らせるようにしなければなりません。
村上 農業で生活できなければなりません。そのため基本法でも生産費の価格への転嫁が議論されています。仕組みづくりが難しいようですが。
山野 確かに、一気に仕組みを作るのは難しいとは思いますが、適正な価格は、どうすれば実現できるのかという視点で、具体化に向けて前向きに取り組んでいく必要があります。地方の活性化は農家が安心して農業を続けられるようにすることですから。
「組織は人」信頼を重ね
村上 最後にJAの役職員にメッセージを
山野 「組織は人なり」です。農協運動者たるもの、時代の変化を的確にとらえて対応する力量が求められます。そのための人材育成には時間と投資を惜しんでならないと考えています。組合員から信頼される組織になるため、共に厳しい状況をしっかり支えて、組合員に信頼され、魅力あるJAにしていきましょう。
村上 お忙しいところありがとうございました
【対談を終えて】
就任直後で公務多忙なところ、短時間ではあったが、山野会長の農業・農協への思いを聞くことができた。やわらかな物腰と、穏やか語り口のなかに秘めた強い意志を感じた。鹿児島の農業は、北海道に次ぐ生産額を誇り、会長地元の大隅半島は畜産で日本のをリードしている。いま日本の農業は大きな曲がり角にある。JAグループのリーダーとしての活躍を期待したい。
(村上)
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