JAの活動:消滅の危機!持続可能な農業・農村の実現と農業協同組合
【座談会 農業協同組合がめざすもの】農の人材育て 行動力今こそ 菅野孝志全中前副会長× 八木岡努全農副会長(2)2023年10月12日
本紙は特集テーマであえて「消滅の危機」と農業、農村の現状認識を示した。実際、危機に瀕している地域も少なくない。そのなかでJAグループはどう役割を発揮していくのか。本座談会で強調されたのは「人づくり」だ。それは人の組織である協同組合の原点でもある。原点からの行動が求められていることも示された。
【出席者】
JA全中前副会長 菅野孝志氏
JA全農副会長 八木岡努氏
文芸アナリスト 大金義昭氏
【座談会 農業協同組合がめざすもの】農の人材育て 行動力今こそ(1)から続く
難局を跳ね返す 勇気と挑戦大事
菅野 現在のピンチは、具体的に新しい行動を起こす最大のチャンスです。このチャンスを逃さずに、穀物や食料の自給率の問題について国民の理解が幅広く得られるような説得力のある行動を起こす必要に迫られている。「ひと・もの・かね」を本気でつぎ込み、「地域の生産と暮らしを支える」社会をみんなで実現したい。
八木岡 JAはこれまで、シミュレーションを描いて「リスクがある」と踏み出さずに来たきらいがある。それじゃあダメです。リスクがあってもやるんだという決意と、果敢に実行できる人を育て、人も組織もどんどん前面に出て発信し、挑戦していくことが必要です。
菅野 いいと思ったことは、勇気を持って何でもやる。
大金 人と人とが生かし合い、JAとJAとが生かし合う。ピラミッド型じゃなく、横断的に水平につながり合って、ということも大事ですね。
八木岡 第29回JA全国大会の時に、JAグループ茨城は、県内の農業経営士協会や法人協会と座談会を持ち、大会決議案を提示して話し合いをしています。それまでは、JAグループ内部だけで議論や発信をしてきた。でも、私たちが取り組んでいることは県民や国民のためでもあるわけですから、広くその輪を広げたい。
合併の話で言えば、私は合併するなら、JAは生協とした方がいいなと思っています。生協も自分たちの生産組織があれば、うれしいに決まっています。合併でなく、姉妹提携でもいい。「石橋をたたいて渡らない」のではなく、「石橋はたたいたら渡ろう」ということです。今、そういう気概を持って頑張っているのはJA厚生連の病院経営でしょうか。
菅野 病院経営は、危機の中で本気になっている。だからと言って看護師さんを減らしているわけじゃない。新しい農村医療がどうあるべきなのかということも含め、一所懸命に考え、国の制度の制約のなかで、みんな工夫をしています。そういう工夫が、金融・共済事業も含め、総合JAとしてもっともっと必要です。JAは内向き過ぎる。皆さんに広く伝えたり、話を聴いたりしながら共に歩んでいく。その対話のなかで「俺が言ったことを採り入れてくれたな」と思った瞬間に、人はポーンと変わり、信頼が生まれる。「聴いて・見て・考え・夢見て・共に成し遂げよう」です。
JA全中前副会長 菅野孝志氏
八木岡 経済事業でも、これはどこそこの地域の米や野菜で、こういう特徴があるんだとポップを付けて売るぐらいの構えがないと。集荷するまでが仕事で、後はどこかの業者が買っていって、それでJAの仕事は終わり、みたいなことに相変わらずなっていないか。組合員にも「組合員になるとはどういうことなのか」ということをきちんと伝える。それがまだまだ足りないように思います。
脱炭素化へ 意識改革も
大金 「多様な経営体」による農業の再構築のために、付言しておきたいことはありますか。
菅野 経営として考えた時に、水田農業で未来を開くことが難しい地域もある。平たん地ではそれなりの経営者が育つ環境が作られてきましたが、中山間地でどうするか。食料自給率を上げるにはトウモロコシや大豆、小麦など、今まで輸入していた農産物を作る必要がある。それには農地の周囲にある荒廃した田に山をつぶして土を入れ畑を作るぐらいのことも必要です。それにより、鳥獣害を削減し耕作放棄を少なくする。
その脇を地域の人たちは車で通り過ぎていくわけですが、そこで、本当にこの農地は捨ててしまっていいのかと問いかけ、政策支援も受けて、畑として再生し、トウモロコシや大豆を作り、新しい風景を創出するようにしたい。
加えて適正価格の問題です。何で生産者が自分で値段を決められないのか。外国には産地市場があるのに、日本は大都市の卸売市場が中心で、結局は消費者のために食料品価格は安く抑えられてきました。「適正価格」とは法律や制度の問題もさることながら、経済の構造や倫理の問題ではないか。原材料が輸入品のために国内価格は上がるのに、豊凶は別として、国内農産物がこれだけ上がりましたって話はあまり聞かない。「貿易立国」だからと工業を優先し、農業を犠牲に安い農畜産物を輸入してきたから、農畜産物は安いものという意識が定着してしまった。農なき日本に、成長も未来もありませんよ。
八木岡 バイヤーさんが強過ぎる。「価格転嫁」というより、「適正価格」を考えるべきです。異常気象が当たり前になり、農畜産物が常に安定的に供給されるとは限らなくなってきた。猛暑の影響で、米どころ新潟をはじめ、茨城県でも品質低下が問題になっています。人間もこれだけ暑さに耐えられず倒れる人が多数出たのに、動植物も元気でいられるわけがありません。この気象が続く予想もあり、品種や作り方の改良も国や大学と連携してやっていかなければなりません。
文芸アナリスト 大金義昭氏
大金 「作り方を変え、消費者の意識を変え、農業の構図を変えたい」と?
八木岡 それなしには、生産者の努力だけで価格適正化や環境保全はできません。
菅野 農業者を支える直接支払いも、日本型直接支払制度は中山間地域の条件不利補正や多面的機能を評価する交付金制度で、本当に生産者を支える直接支払いにはなっていません。これまでの直接支払いは、地域集落育成支払い制度ではないかと思っています。
八木岡 直接支払いの関連では、カーボンクレジット制度があります。制度がしっかりできて、カーボンを吸収するような田んぼの使い方が評価されると、お金が農家にも入ってくる。この制度をどうやって採り入れ、みんなに使ってもらうか。カーボン吸収は農業にとっても課題ですが、グローバル企業がカバークロップの種をどんどん売っており、私たちも負けてはいられません。日本も行政や研究機関、大学などもっともっと多方面からの知恵を結集して、カーボンクレジットの「ネタ」を増やしていくべきです。
楽しい食へ JA先頭に
大金 菅野さんは「子ども食堂」にいささかの疑義があるとか?
菅野 JAグループが関わることに反対ではないけれど、「子ども食堂」だけでは何も解決しないのではないか、ということです。たとえば、母子家庭の所得を補償するような政策などが重要であって、それを求めずに、「子ども食堂」だけでいいということにはならない。「JAグループは『子ども食堂』にお米を出しました」だけでなく、併せて「格差と貧困」を解決する政策要求を出していくべきじゃないのか。
ただ、食事というのは一人では全くつまらない。5人、10人、いっぱいいればもっと楽しくなって笑顔があふれる。そういう価値は十分にありますね。(笑)
八木岡 コロナ禍を経て、会食のあり方や考え方が変わってきたように思う。私たちの組織内でも楽しい会食、みんなで笑って食べる機会を取り戻さなければ、と思います。
大金 目の前で困っている人に手を差し伸べる「善行」を否定する人はいないが、それだけで済ますわけにはいかない。私も菅野さんと同意見です。最後に何かひと言あれば。
菅野 JA全中副会長を務めた経験からは、例の「農協改革」で組織の位置づけが変わったわけですが、この国の農業について政策提案などを中心的に担う役割は改めて重視すべきではないかと思っています。そのための人材を育成していくことがますます期待されている。何ごとも「ネガティブでなくポジティブに」行きたい。
大金 八木岡さんはJA全農の経済事業を通して農業改革を実践される立場ですね。
八木岡 私一人でできるようなことはないのですが、ただ声をかけたらみんなでパっと集まって、同じ目的のためにみんなでパッと動こうかと。これが協同組合の良さであり、農業の魅力を伝え、「JAここにあり!」と広く「見える化」していきたい。この座談会がそんな一つのきっかけになればと思います。
【座談会を終えて】
お二人に接し、「優れた運動家や活動家は常に楽天的である」という言葉が浮かんだ。国内農業が「消滅の危機」に瀕し、地域社会の崩壊が危惧される現状からは、どうしたって暗い話になりがちだ。ところが、明るく前向きな話が具体的で際限なく繰り広げられた。アサヒビールの「中興の祖」と言われる故・樋口廣太郎が唱えた言葉に「ネアカ・のびのび・へこたれず」がある。故・むのたけじには「絶望の中にこそ希望がある」というような言葉があった。「泣いても笑っても同じなら、笑えるように頑張ろう!」という志を体現するお二人が「元気・やる気・本気・勇気」を発散し、狭い会議室に充満した。その熱気が、限られた紙面から少しでも伝われば幸いだ。
(大金)
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