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JAの活動:消滅の危機!持続可能な農業・農村の実現と農業協同組合

地方・農村の人口減少をどう食い止めるか 「FEC自給圏」づくりで活路を 九州大学・村田武名誉教授2023年10月13日

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JAcom・農業協同組合新聞は秋のテーマに「消滅の危機! 持続可能な農業・農村の実現と農業協同組合」を企画した。農業、農村、食料問題などに詳しい識者らに現状や課題など指摘・提言してもらう。九州大学名誉教授の村田武氏に寄稿してもらった。

「みどりの食料システム戦略」を活用する

九州大学名誉教授 村田武氏九州大学名誉教授 村田武氏

日本農業の今後のあり方が混迷しているわけではない。日本農業再生の方向と食料自給率向上に求められる方策ははっきりしている。まずは、水田農業の総合的展開による水田利用率のアップを通じて、農業生産力を引き上げることである。それは同時に、低農薬・低化学肥料・エコロジー水田農業への転換と一体的であるべきである。

ひとつは地域農業を耕畜連携に構造転換する。水田における飼料用米を始めとする飼料生産の拡大によって、輸入飼料依存の加工型畜産を本格的に地域の水田耕種農業と結合する畜産への構造転換を進める。すなわち、耕畜連携の地域農業への構造転換である。農山村では水田における牧草栽培と放牧利用、さらに里山牧野利用を含めて、水田と里山の一体的利用の再生をめざす。

そこで、活用できるのが「みどりの食料システム戦略」である。農水省は、2030年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化を実現するという壮大な目標を掲げる「みどりの食料システム戦略」を打ち出した。「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現」するという。

化学農薬の使用量を50%低減し、輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減する。耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の割合を25%(100万ha)に拡大するとした。これは安倍政権の規制改革会議主導の新自由主義「官邸農政」とは一線を画するものとみてよかろう。

農業・農村の再生に「FEC自給圏」づくりを生かす

高度成長下、全国の地方・農村に子会社や分工場を配置した製造業大企業は、グローバリゼーションのもとで、工場をより低賃金の中国や東南アジアに移し、国内雇用力を著しく後退させた。それが地方での人口減少の最大の要因となったのである。

この現実に立ち向かうべきだと「FEC自給圏」づくりを提起したのが経済評論家の内橋克人氏であった。内橋氏は市場経済一辺倒からの脱却を訴え、人をだいじにする「共生経済」を提唱したことで知られる。

内橋氏は、本紙「農業協同組合新聞」に何度も登場し、規制改革会議の新自由主義路線を突っ走る安倍政権を厳しく批判する論陣を張られた。残念ながら2021年9月に逝去されている。

氏の主張は、「住民に雇用の場を提供し、定住できる条件が確保された地域社会には、新たな地域産業が必要である。21世紀の日本では、食料(food、F)、エネルギー(energy、E)、ケア(care、C、すなわち医療から介護、教育)で、新しい基幹産業が生みだす以外にないではないか」ということであった。

私は、この内橋氏の遺言ともいうべき「FEC自給圏の形成」と、日本農業・農村再生に不可欠な水田農業の総合化と畜産の土地利用型への転換は一体的に展開できると考えている。

2022年7月1日には、「みどりの食料システム法」(正式名称は「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」)も施行された。残念ながら、この戦略は、現在の農業経営の危機的状況にふさわしい農家所得補償や経営安定対策を打ち出すにはいたっていない。

しかし、みどりの食料システム戦略推進のために、農薬や化学肥料の低減に必要な機械や設備の整備、ペレット堆肥生産に必要な機械や施設の整備、水田を活用した自給飼料の生産拡大など、相当に幅広い分野で助成金を準備するとしている。

さらに、この戦略を踏まえて有機農業に地域ぐるみで取り組むモデル産地を「オーガニックビレッジ」とし、その創出に取り組む市町村に対して「みどりの食料システム戦略推進交付金」で支援するとしている。ぜひともこの戦略が提示する助成金制度を活用したいものである。

そこで、農協に期待されるのは、農業・農村の再生に「FEC自給圏」づくりを生かすという戦略である。

「オーガニックビレッジ」構想のなかに、土づくり、有機農業の団地化、畜産環境対策を取り込むうえでポイントになるのは、家畜ふん尿の処理を農家任せにするのではなく、自治体が農協とタイアップして堆肥センターを設置し、良質の堆肥を農地に撒布する畜産酪農と耕種農業との連携をシステム化することである。

JA菊池(熊本県)をはじめ、本格的にこれに取り組んでいる農協は全国に存在する。さらに、その堆肥センターは、家畜ふん尿の持込料を徴収するのではなく、有料買い上げ(たとえば1立方メートルのふん尿が500円)とするならば、これは畜産酪農経営にとってはふん尿が収益を生む資源となって、大きな経営支援となる。

JA菊池堆肥センターJA菊池堆肥センター

しかしそれでは、堆肥センターの経営は赤字となり、自治体や農協には負担となる。それを防ぐために「地域循環型エネルギーシステムの構築」をオーガニックビレッジ構想に取り込むべきである。

すなわち、家畜ふん尿をメタン原料とするバイオガス発電施設の堆肥センターとの併設である。その際に、家畜ふん尿は固液分離を行って、固形部分は直接に堆肥に、液(尿)をメタンガス発酵槽に投入することで、食品加工残さ、賞味期限切れ食品、生ごみなどの固形メタン原料を液状化する方式がよい。この方式を採用しているのが、日本最大の民間総合農場「小岩井農場」(岩手県)の(株)バイオマスパワーしずくいしである。

堆肥舎に持ち込んだ固液分離後の家畜糞はメタンガス発電機で発生する余熱で乾燥させるのである。電力は電力会社に販売しても自給してもよい。堆肥センターの赤字を補てんできる。

このエネルギー分野でとくに事業化が求められるのが、耕作放棄地を増やさないための営農型太陽光発電、すなわち「ソーラーシェアリング」である。とくにブルーベリーやブラックベリー、さらにブドウなど、市民にオーナーとして初期投資に出資してもらい、施肥・除草・せん定・収穫に参加してもらう観光農園が考えられる。これには、とくに子育て世代の市民の参加が期待される。出資者は「お客さん」ではなく、共同出資者になる労働者協同組合として企業化するのがよかろう。

第3のケア部門、すなわち医療から介護、教育までを含む広い意味での人間関係領域である。このケア部門で注目したいのは、労働者協同組合が取り組む「農福連携事業」である。労働者(市民)に期待されているのは、「農福連携事業」の農場・経営管理を担う人材である。各県は農業大学校を設置しており、農協も新規就農センターでの研修事業に力を入れている。それらを大いに活用してほしい。

教育の分野では、すでに農村各地で、学校教育の現場では小・中学校から高校まで、校区外・県外から、さまざまな理由で転校してきた児童・生徒の元気を回復させることに成功している。そうした児童・生徒に農業体験の機会を提供することに力を入れている農協青年部活動もある。

こうした「FEC自給圏」づくりを生かして農業・農村の再生をめざし、地域に新たな雇用機会を生み出そうではないか。農協は自治体を励まし連携して、地方・農村に活力をとりもどすことで、人口減少を食い止めようという戦略を持ってほしい。

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