JAの活動:消滅の危機!持続可能な農業・農村の実現と農業協同組合
耕畜連携で水田農業に活路 JA全農ひろしまの挑戦 「3ーR」ブランド徐々に浸透2023年10月23日
JA全農ひろしまでは2019年から「耕畜連携」による資源循環型農業で生産された農畜産物や加工品を販売する事業を展開している。ブランド名は「3-R」。家畜の排せつ物を大切な資源(リソース)として、たい肥として利用し、農産物の生産に再利用(リサイクル)する活動を繰り返す(リピート)ことで、持続可能な農業と環境保全につなげようという取り組みで、地域の水田農業の展望を開くことも期待されている。現地を訪ねた。
養鶏と飼料米"循環"
飼料用米で水田利用に幅
左から田坂副支店長、中森代表、営農指導担当の益田悠太さん
「3-R」の取り組みの一つに採卵鶏に広島県産の飼料用米を与えた鶏卵生産がある。
県内で生産された飼料用米を全農ひろしまが買い取り、県内に4農場を持つ広島たまご(株)へ販売、農場で玄米に調製し採卵鶏の飼料に10%添加している。
同時に農場では排せつ物を50日から60日ほど発酵させた発酵鶏ふん(以下、鶏ふん)を製造、それを飼料用米を生産する農場で利用してもらう。このサイクルで生産された卵を耕畜連携「広島こめたまご」として県内のJAや全農ひろしまの直売所、生協などで販売している。
この取り組みのうち、飼料用米の生産を行っている法人の一つが北広島町の農事組合法人ファーム八重145だ。2019年に三つの地区の営農組合をまとめて法人化した。作付面積は39ha。地域内の畜産農家から飼料用米を求められたこともあって設立時から主食用米のほか、飼料用米の生産に取り組んできた。
主食用米の品種を9月から始まる刈り取り時期順に整理すると、コシヒカリ、にじのきらめき、あきろまん、特別栽培米あきろまんとなり、最後に飼料用米の北陸193号を10月中旬から月末に刈り取る。
このように作期がきれいに分散するよう品目を選定した。飼料用米の収穫が最後になることで、結果として主食用米に飼料用米が混じるというコンタミの防止にもつながっているという。
そのほか大豆を6月には種し、11月に刈り取りながら小麦のは種を行う。野菜ではキャベツを春、秋の2作行っている。また水稲育苗後のハウスを利用しミニトマトの栽培も行っている。
キャベツの収穫期には地域内の多くの人々を雇用するほか、ミニトマト栽培は若手女性たちが中心になっているという。代表の中森司さんは「ほぼ1年間何らかの作業がある体系になりました」と話す。
写真手前から奥の水田すべてで「北陸193号」を作付け
飼料用米は当初は中生新千本やあきさかりなどを栽培していたが、23年産からは全面的に専用品種の北陸193号に切り換えた。
昨年の飼料用米の収量は10a当たり約650kgほど。今年の作付け面積は8・4haで、うち5・2ha分がJAに出荷され「広島こめたまご」づくりに利用される。
残りは地域内の畜産農家に販売される。そして畜産農家から牛ふんたい肥が供給され、法人が管理する地域内のほ場(200枚)にローテーションを組んで順次、散布している。また、稲わらも畜産農家に供給している。このように、すでに地域内での耕畜連携が行われていたうえに、県レベルの「3-R」の取り組みも始まり、耕畜連携の厚みが増したといえる。
専用品種「北陸193号」は株が太くて硬い。穂も長く、通常のうるち米は20cm程度だが27cmから30cmほどにもなり登熟が進むと地面に穂先が着くという。インド型水稲多収品種のためウンカ類の被害を受けやすく、その防除が必要となるが、10a当たり800kg以上収穫できると言われている。
そのために必要なことは「土づくりをしっかり行うこと」だとJAひろしま千代田支店の田坂真吾副支店長は話す。肥料も主食用の2倍程度は必要だという。鍵を握るのは鶏ふん施用で10a当たり800kgが必要だとしている。
全農ひろしまによると千代田支店管内で約400tの鶏ふんが施用されたという。肥料効果を踏まえると、田植えの1カ月ほど前の鶏ふんの投入が望ましくマニュアスプレッダーで散布する。
とくに鶏ふんは窒素成分が多いため増収効果が期待されている。肥料価格が高騰するなか地域資源の活用は持続可能な農業にとって重要なことだが、収量の増加にとっても有効で、鶏ふん利用は理にかなった取り組みとなる。田坂副支店長は「主食用米でも鶏ふん利用が課題となる」と話す。
求められる継続的な支援
こうした取り組みを地域で進めているが、鶏ふんの散布が生産者の負担となっている。そこで2021年産から北広島町は鶏ふん散布の労力を支援するため10a当たり1万900円の単独助成を行っている。このほか県は地域の基準単収を超えた場合は10a当たり1万2000円の支援も行っている。国の交付金(収量により10a当たり5・5万円から10・5万円)と合わせれば支援が整備されてきたと地域では評価する。また、飼料用米生産は、主食用米と同様に収穫後の乾燥は必要だが、もみ出荷で済むため、もみ摺りの負担はなくなることも利点だ。
「田園守る」価値発信
ただし、水田農業全体の維持の観点からは不安もある。それは水田活用の直接支払交付金の見直し問題で、5年に1度の水張りを交付要件とすることや、畑地化した場合の将来の支援水準などである。同法人の農地は中山間地域で、水はけが良いほ場では野菜を作付けてきたが、畑地化を選べばいずれ支援はなくなり、経営が成り立つか不安だ。できる限りほ場をローテーションし、交付金対象水田として維持していく考えで、中森代表は「地域農業を守る経営を維持するため、耕畜連携を進めてきた。安定した支援も必要だ」と話す。
耕畜連携を「価値」に
「3-R」の販売コーナーでは映像で生産者の声を紹介するなど発信に力を入れている。
全農ひろしま直営の「とれたて元気市広島店」
全農ひろしまでは県内での鶏ふんの処理が課題となる一方、耕種部門では肥料価格が高騰するなか、畜産部門と連携した部門横断的な共通ブランドとして「3-R」を進めている。
基本要件は耕畜連携の取り組みによって広島県内で生産された野菜や米で、生産状況の確認が常に可能であること。
そのうえで品目ごとに要件を設けている。たとえば米では県内で製造された畜産たい肥を使用し農薬や化学肥料を削減した栽培をしていること。野菜では県内製造の畜産たい肥を使用し、土壌診断を実施していることなどだ。豚肉は国産の飼料用米を出荷前1カ月間給餌、広島和牛は県産飼料用稲を育成期間に給餌した肥育もと牛であることが要件で、広島和牛と3-Rの米を使用したライスバーガーや3Rの米を米粉にし、卵には広島こめたまごを使った米粉のバウムクーヘンなどの加工品もある。3-Rブランドの販売実績は2022年度で1億4500万円で前年比116%。
県内の飼料用米の作付け面積は2022年産で518haで水稲作付面積全体の約2%となっている。飼料用米の生産量は約2700tで3-Rの取り組みとなる広島たまご(株)にはその大半の2000tが供給されている。今後も飼料用米の県内流通の拡大をめざして取り組みを広げる考えだ。
ライスバーガーなど加工品も開発
また、鶏ふんの有効活用を広島大学と共同研究しており、鶏ふんだけでの米づくりの実証も行っており、いずれは米や野菜での鶏ふん利用の実用化もめざしている。
全農ひろしまの改革推進部改革推進課の狩谷伸午課長は「飼料用米の取り組みがなかったら県内ではもっと耕作放棄地が増えているかもしれない。地域の田園風景を守り持続可能な農業のため、地域の資源を活用した耕畜連携や資源循環の仕組みを価値とした農産物の販売につなげていきたい」と話し、県内の生産者、消費者への発信も強めていきたいと強調している。
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