JAの活動:消滅の危機!持続可能な農業・農村の実現と農業協同組合
【組合長座談会・農業協同組合がめざすもの】担い手育成に総合力を生かそう(1)2023年10月25日
農業・農村の展望をどう開くか。今号の座談会は水田農業地帯、都市的地域、そして中山間地域と地域条件の異なるJAトップに話し合ってもらった。それぞれの地域特性を生かした事業・活動が紹介されたが、共通するのは「農外」や「他団体」との連携だった。各地の農協運動の一助となることを願う。
【出席者】
JA秋田中央会会長 小松忠彦氏
JAはだの(神奈川)組合長 宮永均氏
JA愛知東組合長 海野文貴氏
司会・文芸アナリスト 大金義昭氏
地域活性化 行政と連携
JAはだの(神奈川)組合長 宮永均氏
大金 農業「消滅の危機」をどのように捉え、JAとしてどんな取り組みをされているのか。地域特性を踏まえて包括的なお話を伺えますか。首都圏で「トカイナカ」を標榜(ひょうぼう)し、名うての組織・事業・経営を展開しておられる宮永さんからどうぞ。
宮永 考えるべきことの一つは、農業機械事故死です。農業労災学会の活動に参加しているのですが、全国の死亡者が年間300人前後で推移し、トラクターの転倒事故による死亡者が多い。建設業よりも危険な現場になっています。担い手の育成も大事ですが、現に中核的な農業者の「いのち」と健康を守る視点も欠かせません。
海野 中山間地域で農地を守っている私のJA管内でも、中心的な農業者が農作業で死亡するという心痛む事故がありました。近所の農地を請け負っていた方がいなくなると、農地の荒廃が進みます。トラクターで公道を走る免許を取得していない実態もありましたので、事故防止のための資格取得を奨励する一方、農機展などイベントの時は、共済普及担当者といっしょに事故防止を呼び掛けています。
大金 貴重な人材を守る大事な取り組みですね。担い手を増やしていく点では?
宮永 2005年10月にJAはだのと秦野市、秦野市農業委員会で設置した「はだの都市農業支援センター」を拠点に、神奈川県が都市農業推進条例を施行した06年、私たちは人づくりのための「はだの市民農業塾」を開講しました。新規就農(原則2年)、基礎(1年)、農産加工起業の3コースでセミナーを開催し、女性中心の加工起業セミナーでは、ファーマーズマーケット「はだのじばさんず」の魅力向上のために加工品を売り上げの30%にすることをめざしています。新規就農コースは、22年までに100人が受講して就農者が85人。うち63人が農外からの参入です。露地野菜を中心に、ご夫婦で1000万円以上売り上げている方も何人かいます。
また、特定農地貸付事業の一環として准組合員や市民の皆さんに向けた「さわやか農園」を41カ所345区画まで増設しています。さらに、少しでも農業に関心を持つ人を増やそうと立ち上げた「はだの農業満喫CLUB」は登録者が759人に上っています。サツマイモや落花生の掘り取り、ミカンのもぎ取りなどを案内し、実費でご参加いただく。
こうした各種支援は、JAと市と農業委員会などが一体で組織した「はだの都市農業支援センター」(9人のチーム)が中心に取り組み、そのための事務所をJA内に設置しています。4年がかりで形にしました。今年は大磯町のサラリーマンから「秦野で米を作ってみたい」との相談があり、今春、初めて田植えをしました。明日の日曜日は30人くらいが集まって稲刈りをするというので、私も顔を出します。
大金 JA愛知東も、担い手確保には力を入れてきました。
JA愛知東組合長 海野文貴氏
海野 何しろ、人口が激減していますからね。管内の小学1年生を調べたら、今年は334人でした。しかし、6年後にどうなるか。2022年生まれの子が158人、半分以下です。どう解決するかといったら、やっぱり新規就農です。12年から取り組み、10年間で親元就農も含めて90人以上の新規就農者を確保しました。若い新規就農者をみんなで支えています。一人成功すると、若い人たちはネットワークがあって広がっていきます。
就農後5年くらいは年150万円ほど、国から新規就農者支援の交付金が出ますよね。その制度を活用しながら、JAも「夫婦と子どもさん2人で年間600万円くらいの所得を得るには、この作物をこれくらいつくれば」というシミュレーションを提示しています。ところが、昨今の資材高騰でイチゴのハウスを作るにも5000万円かかり、経営計画を立てるのが難しくなっています。
農業所得が未来に直結
大金 若い世代の「田園回帰」志向は強いのかしら?
海野 たとえば他産業に勤めているご夫婦が、子ども連れで農業をしたいと言う方も見えます。景気動向などにも左右されますけれど。
宮永 資材高騰には専業農家も苦しんでいます。酪農家などは深刻です。神奈川県内に300戸以上あった酪農家が、今は107戸くらいしかありません。その一方で、確かに「食と農」への関心が高まっている。自分が作って楽しむということもあるし、農に関わりたい気持ちや考え方を持つ人たちが増えている感じです。
JA秋田中央会会長 小松忠彦氏
大金 小松さん、すっかりお待たせしました。(笑)
小松 秋田県は米どころで、他の作物に取り組むことがこれまで少なかった。自給率205%も米があるからですが、農業算出額は東北6県の最下位なんです。そこで米をベースに「複合化」でいこうと、アスパラガスやシャインマスカットなどの栽培にJAが研修施設を設ける取り組みも生まれました。
私の出身のJA秋田しんせいの例ですが、2年間はパートのJA職員として仕事をしていただきながら研修する制度を作り、8人ほど卒業しました。しかし、シャインマスカットは資材価格が高騰し、卒業しても始められない歯がゆさがあります。
秋田県の基幹的農業従事者は3万3700人くらいしかおらず、7割が65歳以上です。10年後には「老々営農」になってしまう。現在でも農地の管理が手いっぱいの状態で、周囲が荒れても守れない。そこでJA主導の「地域農業者協議会」を作り、地域の田んぼを守る農家同士の連携を進めています。
大金 小松さんはかねてから「バックキャスティング」(未来を描いて、いま何をするか)を唱えておられる。
司会・文芸アナリスト 大金義昭氏
JA本気度待ったなし
小松 JA秋田しんせいでは2020年に「Agri-Food未来企画室」を、21年に「農業経営支援室」を新設しました。これまでの農家支援は技術面だけでしたが、金融部門の職員も加えて農家の困りごと相談に応じ、それをJA内の各部署につないですぐに答えを返し、経営改善の提案に結びつける。既成概念に捉われず、担い手のためにJAの「強み」を発揮して部門横断的なトータル・アドバイザーになることを目ざしています。農家所得の増大を実現するJAの本気度が問われている。さらに、農業者同士が新たな就農者を創り出し、育む仕組みづくりも大切です。
農業の労働力不足に対応した「無料職業紹介所」なども稼働させています。
みどり戦略 支援不可欠
大金 環境保全型農業も含め、地域農業振興戦略についてはいかがですか。
宮永 5年間の地域農業振興計画を掲げ、「この作物とこの作物の組み合わせで、これだけの所得がめざせますよ」という営農類型を示し、行政などと連携した「秦野市の農業振興」を共有しています。昨年は酪農家の経営危機に対応し、12戸のために市が4200万円の支援金を提供してくれました。花き園芸や施設園芸では重油を使う農家が多く、重油の高騰が問題です。万一のために備えてきた10億円の農業振興基金の活用も含め、農家をしっかり守っていこうと考えています。
みどりの食料システム戦略は、国の具体的な対応策がなければ容易に進みません。化学肥料や農薬を削減して同じような収量や品質が確保できるのか。これが問題です。JAでは以前から「ゆうきの里」づくりに取り組み、畜産農家から耕種農家に堆肥を提供してもらっています。「地消地産」のファーマーズマーケットでも広く理解を促す活動を重ねてきました。
「はだのじばさんず」は20年前に、このままでは秦野の農業がなくなるという危機感から、JAいわて花巻の「かあちゃんハウスだぁすこ」や愛知県の「げんきの郷」などを参考に開設しました。出荷登録者は現在650人くらいで女性も多い。売り上げは秦野産で7億円、全国41のJA間提携で3億円、計10億円になっています。
海野 私たちは農業生産の「三つの担い手」として水田農業、基幹品目、産直・直販の担い手づくりと併せて畜産の振興をめざしています。基幹品目はトマト、イチゴ、シイタケ、ミニトマト、ホウレンソウの5品目です。もう一つは「オンリーワン戦略」でニッチ(隙間)を狙っています。たとえば標高の高い畑で育つ夏秋トマト。低地では暑くてハウスに入れないときにトマトを出荷し、少量でも高値で売っていく戦略です。
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