JAの活動:第44回農協人文化賞
【第44回農協人文化賞 祝辞】輝き増す協同思想 農協人文化賞選考委員会 谷口信和委員長2023年12月14日
農協人文化賞選考委員会
谷口信和委員長
今年は小津安二郎の生誕120 年(没後60 年)だったため、第36 回東京国際映画祭で記念シンポジウムが開催され、小津監督が繰り返し描き続けた坦々とした日常生活、それを生きる中産階級の家族の心のすれ違い、さりげないいたわりと気遣いといった葛藤の今日的な意味が諸外国の映画監督も含めて縦横に語り明かされたようです。
昨年度の農協人文化賞事業は、2月に始まったウクライナ戦争の終わりが見えず、日本ではコロナ感染の第6波が続く中で、また、世界的な地球温暖化の一齣として日本でも6月に147 年ぶりの猛暑に見舞われる中で何とか実施しました。
2023 年度の農協人文化賞事業は、誰もが予想しなかったパレスチナ・イスラエル戦争の勃発と広域化が危惧され、「地球沸騰化」(国連事務総長)に到達したとされる異常気象の中で実施されます。100 年に1度という事態が毎年のように起きている厳しい現実の前で、小津監督が追求し続けた坦々とした日常生活が世界中で切り裂かれているのが今日の局面です。そこに小津監督のグローバルな再評価の歴史的な意義があるといえます。 2年連続で勃発した戦争を止める上で国連は機能不全に陥っています。その原因は安全保障理事会(15 カ国)における常任理事国(5カ国:米国・英国・フランス・ロシア・中国)=強者のうちの1カ国の拒否権発動によって決議の採択が不可能となる仕組みにあります。しかし、残念ながら今日の国連にはこれを改善する力が備わっていません。そこには強者と弱者の差を前提にし、これを容認する民主主義がもつ限界が示されています。鯛は頭から腐るといいますが、逆に言えば、頭が腐っていても筋肉やヒレは簡単には腐らないということです。頭=上部組織が腐っているとすれば、筋肉やヒレから体を作り直し、頭を取り換える以外にありません。グラスルーツ(草の根)の出番です。
小津監督が描いた坦々とした日常生活の場で、様々な葛藤を抱えながらも、家族を基礎とした地域農業と地域社会の持続的な発展を支える組織こそ農業協同組合に他なりません。現代社会が抱える諸困難からの脱却の有力な道筋は、地域に根ざすことのない根無し草たる一部の強者の論理に彩られた弱肉強食の民主主義から、地域に根ざし弱者(草の根)かもしれないが他者への共感を前提にした多数者の民主主義へ、上からの強権的な押し付け、経済力に準じた平等を原則とする「多数決」に基づく民主主義から、下からの自発的な運動に基づき、人権的な平等を原則とする1人1票制の真の多数決に基づく民主主義への転轍(てんてつ)ではないでしょうか。これこそ、地域を土台にした農業協同組合が目指してきた「普遍的価値」のあり方に他ならないでしょう。
今こそ農業協同組合運動の先人たちが築き上げてきた歴史と実績を、農協人文化賞の表彰事業を通じて学びながら、協同組合的な普遍的価値をさらに磨き上げるときが到来しました。協同組合の出番です。農協人文化賞の一連の事業がそのための貴重な機会になることを祈念してあいさつに代えます。 受賞者のみなさん、本当におめでとうございます。心からお祝い申し上げます。
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