JAの活動:第44回農協人文化賞
【第44回農協人文化賞】一般文化部門 岐阜県・ぎふ農業協同組合代表理事組合長 岩佐哲司氏 対話から始まる協同活動2023年12月14日
多年にわたり献身的に農協運動の発展などに寄与した功績者を表彰する第44回農協人文化賞の表彰式が11月30日に開かれました。
JAcomでは、各受賞者の体験やこれまでの活動への思い、そして今後の抱負について、推薦者の言葉とともに順次、掲載します。
ぎふ農業協同組合
代表理事組合長
岩佐哲司氏
昭和58(1983)年岐阜市農業協同組合に新卒として入組し、私の農協人生はスタートした。日本は、高度経済成長が終わりバブル前夜という時代での社会人スタートであった。本店営業課に配属された私の仕事は、貯金や共済の獲得、新規取引先の拡大であった。当時の私の関心事は、組織から与えられた業績目標をいかに達成するかにあった。組合の事業の中心は、農業従事者が減少する中で、組合員のニーズに沿って信用事業や共済事業に傾注し、営農経済事業を脇に置いた典型的な都市型農協であった。バブル崩壊後は、頑張っても事業量の伸びは鈍化し、それを補うように、更に事業推進に力が入っていった。いつしか組織全体が協同組合のアイデンティティーを忘れていったように思う。
その後、第2次安倍政権になると、TPP問題から農業改革、そして農協改革へと変化し、巷には「農協は日本の農業の足を引っ張る存在だから改革しなければならない」という類の論調があふれ、政府、財界、マスコミ上げての農協たたきが起こった。2015年4月8日、「明日、萬歳全中会長辞任発表」という見出しで萬歳章・JA全中会長の辞任を伝えるニュースが飛び込んできた。ついに農協改革もここまで来たのかと暗澹(あんたん)とした気持ちでテレビ画面を見ていたことが思い起こされる。
私は、「農協は批判されるような組織ではない」と思いながら、この危機にどう対応すべきかアイデアが浮かばない状況にあった。
緑肥栽培で品質・収量アップ 組合長がほ場視察で手応え
いろいろな方の講演を聞き、仲間と議論するうちに、農協の犯した過ちは、資本主義経済のルールで振る舞い、社会が我々に期待する協同組合の活動をないがしろにしてきたことと思うようになり、協同組合らしい農協をいかに作り上げるか、協同組合は何のためにあるのか、何をなすべきかを考えるようになった。
この農協改革が、協同組合について考えるきっかけとなり、その後のわが農協の改革が始まっていった。もし、農協改革がなければ、いまだに事業推進にまい進している農協のままであったと思う。そういう意味で、農協改革には感謝している。農協法の改正により、今回の農協改革はひとくぎりがついたが、気を抜けば、また、改革の名のもとに農協批判が再燃する。常に目標に向かって行動をしなければならない。
前述したようにわが農協では、事業推進中心であり評価は目標達成度で行われていたため、方向転換をするためには、職員の意識改革から始めなければならなかった。協同組合の目的は、まずは組合員の悩み事を解決し、活動を通じて組合員・職員が物心ともに幸せになる。そして、組合員と職員が一緒になって住みよい地域社会、コミュニティーを作ることにあると考える。そのために、わが農協では、役職員の行動指針として、次のフレームワークを活用することとした。
『私たちは組合員の期待に応えるために、支店が中心となり、総合的なサービスをもって、組合員の財産活用と暮らしのお手伝いをします』
それぞれの役職員の行動が、組合理念に沿っているか、このフレームワークから外れていないかを常に意識しながら行動するようにした。また、支店では、担当者一人で考えるのではなく、役席、営農担当者、窓口担当者も集まって個別の提案を考える「提案ミーティング」を実施し、より精度の高い提案を心がけている。その手段として、普段の訪問活動、全戸訪問に加え、組合員の意見や感想を報告する「暮らしの相談受付簿」、いつでも組合員が発言できるように、QRコードからアクセスする「つなぐつながるアンケート」を常時実施している。令和4(2022)年度は4000件強の意見が寄せられた。
支店レベルでは、年4回開催している支店運営委員会の活性化に取り組んでいる。支店運営委員会のメンバーは、総代、担い手、青年部、女性部、年金友の会、准組合員等の代表で構成されている。今年度から、テーマを決め、小グループで話し合いをするようにしている。組合員の評価は概ね良好である。
組織レベルでは、理事会・委員会の活性化である。形式的な会議になりがちであるので、議事はなるべく簡略化し、フリートークの時間を作っている。
農業振興においては、今までの部会を中心にした市場出荷に加え、地消地産に力を入れていきたいと思う。今までの農協の取り組みは、市場に向けてのものが中心であり、消費者に対して十分な意識が向けられてこなかった。安全・安心な食の提供を目指し、消費者と生産者をつなぎ、消費者の要望を聞き、作り方などを消費者と約束した農産物を提供する『地消地産』を目指していく。
切り口は、有機農業だと考えている。その実現のため、まずは地域の消費者の食に対する意識を醸成することを目的に、『食と農の連携フォーラム』を立ち上げた。今後は、行政、専門家、料理人などにも参加いただき、ルール作りに移行していく。
岐阜の農業・農地を生産者だけではなく消費者も一緒になって守っている地域を目指す。組合員にとっても、地域にとっても、なくては困る農協を作っていきたいと思う。そのためにも開かれた農協、風通しのいい農協を目指していきたい。
最後に、農協人文化賞の受賞を感謝申し上げるとともに、受賞が、わが農協にとって飛躍のきっかけとなることを誓って、日々精進していきたいと思う。
【略歴】
いわさ・てつじ
1960年5月生まれ。1983年3月中央大学商学部卒業。同年4月岐阜市農業協同組合に入組。2008年4月ぎふ農業協同組合経営企画課長。09年4月総合企画部長。15年6月常務理事。18年6月代表理事専務。21年6月代表理事組合長、現在に至る。
【推薦の言葉】
協同活動が人をつくる
岩佐氏は、総合企画部長から現職に至るまで一貫して優れたリーダーシップを発揮し、短期志向経営に走ることなくあえて長期的な投資志向で人材育成に力を注いでいる。そこには、「事業と活動は別物ではなく、事業そのものが活動。農協にとって事業と地域活動は欠くことができない」「協同活動が人をつくる」という考えがある。組合長就任直後の2021年には、職員の行動指針となるフレームワーク「私たちは組合員の期待に応えるために、支店が中心となり総合的なサービスをもって、組合員の財産活用と暮らしのお手伝いをします」をまとめ、職員が日々の行動をふり返る物差しとした。
また、総合戦略室を立ち上げ、小さな取り組みや成功を重ねて5年・10年という長い目で新規事業を生み・育てることに挑戦させているほか、支店の活動を基盤とし、JAが組合員や地域住⺠の参加・参画により持続可能な地域農業・地域社会を支えていることを、組合員と職員が共に経験することを、組合員教育・職員教育の実践の場としている
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