JAの活動:第44回農協人文化賞
【第44回農協人文化賞】地域ぐるみ三方よしで 福岡県・JA福岡中央会会長 乗富幸雄氏2023年12月20日
多年にわたり献身的に農協運動の発展などに寄与した功績者を表彰する第44回農協人文化賞の表彰式が11月30日に開かれました。
JAcomでは、各受賞者の体験やこれまでの活動への思い、そして今後の抱負について、推薦者の言葉とともに順次、掲載します。
JA福岡中央会会長
乗富幸雄氏
農業協同組合運動に携わって50年の節目の年に農協人文化賞に浴することとなり、大変光栄です。
私は昭和26(1951)年福岡県南部の瀬高町(現みやま市)の農家の長男として生まれ育ちました。小学校の高学年になると、日曜日は、いつも農作業の手伝いでした。町の子は楽しく遊んでいるのに、我が家は家族総動員の農作業です。子ども心に辛い日々でした。初夏の田植え、秋の稲刈り、取り入れが終わった後は、麦の種まき、寒い冬の麦踏みと、一年中農作業が続きました。今のように機械化されていない時代、もちろん田植え機やコンバインもない時代でしたので、本当に大変でした。
同じ頃、ビニールハウスでのナス栽培が始まりました。子どもにとってこのビニールハウスがまた最悪でした。雨の日は仕事が無いだろうと思っていたら大間違いです。ビニールハウスの中は雨の日は涼しく、農作業にとっては好都合です。草取り、ナスの花の授粉作業と大忙しです。農家の子どもにとって恐怖の日曜日だった思い出です。しかし、家族の絆も強く、休みには瀬高の町中にあった映画館に連れて行ってもらうのが楽しみでした。ついこの頃のように思い出されます。忍耐強いと言われるのは、子どもの頃のこうした体験があったからだと思っています。
サスカチュワン州農業大臣との、塩化カリ輸入交渉(カナダにて)
昭和48(1973)年大学卒業後、福岡県購買販売農業協同組合連合会へ入会しました。父は、若いうちは他人の釜の飯を食うのも勉強と言って就職をさせてくれましたが、若くして亡くなり、農業をしながらの通勤でした。直ちに、米の集出荷販売の担当部署への配属になりました。当時、福岡県は西日本一の米の生産県ではありましたが、食味の評価が低く、「鳥またぎ米」と酷評されていました。「福岡の米は、鳥も食べない、米が落ちていても鳥はまたいで通る」とまで言われたものでした。福岡市と北九州市の二つの政令都市を持つ米の消費県でもあり、生産者県でもあったのですが、県内ではさばききれず、販売先を他県に求めて推進する苦労の連続でした。一部を酒造用米(かけ米)に作付けを変更して、京都の伏見、兵庫の灘の酒造メーカーへの販促を実施し、当時は日本酒が売れた時代でしたので、4万㌧ものかけ米が販売できたことは、大変な喜びでした。18年間の米の担当から総務管理部署へ異動となり定年を迎えました。
定年と同時に就農し、平成26(2014)年に南筑後農業協同組合の組合長に就任しました。「1円でも高く、1円でも安く」をモットーにし、組合員の販売品を1円でも高く売る努力をする、JAが仕入れる生産資材を1円でも安く組合員に供給する努力をすることに傾注しました。その後「1円でも多く」を、組合員と職員に1円でも多くの所得をという願いを込めて追加しました。近江商人の三方よしになぞらえて「組合員よし! 職員よし! 組織よし!」の信条で「地域に必要とされるJAを目指します」とも言ってきました。今思えば、職員は苦労の連続だったと思います。早朝のハウスビニール張り、田植え、米の庭先集荷等の組合員支援活動。支店ふれあい委員会、少年剣道大会等の地域貢献活動、皆でやり遂げて頂きました。JAの経営も年々、安定度を増しています。今では県内で有数のJAだと自信をもって言えます。これもひとえに、組合員のご協力と役職員の全組一丸の結果であります。
令和4(2022)年6月には、JA全農を代表して農林水産省副大臣、審議官とカナダへ肥料ミッションに同行しました。ロシア、ウクライナ紛争が始まり、ロシア、ベラルーシからの塩化カリの輸入が途絶え、肥料の安定供給が心配される中、カナダ政府、州政府、鉱山会社と何度となく交渉した結果、先方から「日本へは、他の国を断ってでも今以上の数量を送ります」との言質を取ることが出来ました。このことは、全農が早くから海外展開した、先人の皆様のご努力の賜物であると感謝いたします。
一方、新型コロナ禍は今も組合員の営農や暮らし、地域社会に悪影響を及ぼし続けています。松下幸之助の格言にあるように「かつてない困難からは、かつてない革新が生まれ、かつてない革新からは、かつてない飛躍が生まれる」──大変な時ではありますが、「ピンチをチャンスに変える」絶好の機会として捉えたいと考えております。農業と食料の大切さに国民の関心が向いている今こそ、JAが地域社会から国民から信頼を得るチャンスだと思います。
今の農業は機械化されたものの、自然相手、気象条件に左右されるのは今も昔も変わりません。我が国の食料自給率38%、貧困率15・7%、自給率は先進国の中で最低です。国民の食に関する危機感も深刻で、農業を振興し発展させることが、地域の元気・再生につながると確信しています。最後に、100万人の農業者の再生産可能な経営安定の再構築こそが1億人の消費者の食を安定させる、と確信しています。残された人生を農業と協同組合運動に全身全霊を投じたいと思います。
【略歴】
のりとみ・ゆきお 1951 年2月生まれ。73年 福岡大学法学部卒業。同年4月JA全農ふくれん入会。96 年5月JAみなみ筑後非常勤理事。2008 年4月就農。14 年6月JAみなみ筑後代表理事組合長に就任。20年6月JAみなみ筑後会長理事。同年6月JA全農ふくれん運営委員会会長。同年6月JA福岡中央会代表理事会長に就任。
【推薦の言葉】
農業協同組合人の歩み
乗富氏は、1973年4月に福岡県購買販売農業協同組合連合会に入会し、37年間農業協同組合人としての職務を全うし、2008年3月、全国農業協同組合連合会福岡県本部副本部長をもって退職した。1996年には、南筑後農業務同組合の非常勤理事に就任し、およそ20年近くにわたり同農協の非常勤理事を務め、2014年6月に代表理事組合長に就任。同時に連合会の福岡県信用農業協同組合連合会経営管理委員、全国共済農業協同組合連合会福岡県本部運営委員等の要職に就き、さらに2020年6月福岡県農協中央会代表理事会長と福岡県農業協同組合連合会福岡県本部運営委員会会長、7月には全国農業協同組合連合会経営管理委員会副会長に就任した。
南筑後農協時代には、正組合員に農畜産物の生産を精力的に行ってもらうために、JAに出荷された農畜産物は1円でも高く販売し、生産資材等の単価は1円でも安く供給できるような体制づくりとともに、「アグリ支援隊」を設置し、高齢者向けにハウスのビニール張りや田植え支援などを実施した。
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