JAの活動:第44回農協人文化賞
【第44回農協人文化賞】地域医療に向き合って 厚生事業部門 広島県・JA広島厚生連尾道総合病院名誉院長 田妻進氏2023年12月25日
多年にわたり献身的に農協運動の発展などに寄与した功績者を表彰する第44回農協人文化賞の表彰式が11月30日に開かれました。
JAcomでは、各受賞者の体験やこれまでの活動への思い、そして今後の抱負について、推薦者の言葉とともに順次、掲載します。
JA広島厚生連
尾道総合病院
名誉院長
田妻進氏
2019年4月、歴史と文学のまち尾道が誇る地域基幹病院・JA尾道総合病院に赴任しました。戦火を免れた海辺の街は風光明媚であり、その地で代々暮らして来られた皆さまの健康を守る砦として、同院は1957年に農業協同組合により開設されて現在に至っています。その間、終始一貫して広島県東部の地域医療を担うべく、安全で質の高い診療に努めると同時に、常に新しい知識の習得と技術の研鑽に励み、生命の尊厳と人間愛を大切にして使命を果たしてきました。
2011年に現在地に新築移転、17年に開設60周年を迎えた同院は、地域や時代の要請に応えるべき〝医療法に定められる公的病院〟として、①がん医療②救急医療③小児・産科医療④災害医療──の分野を重点的に担ってきましたが、その一方で医育機関として次代を担う医療人を育成すべく医学生・研修医・専攻医の教育・指導も行っています。多職種がかかわるチーム医療というIPW(Interprofessional work)を通じて、多職種教育IPE(Interprofessionale ducation)を実践する臨床実習教育研修施設として、次世代医療人養成を通じた社会貢献にも全力で取り組んでいます。高い使命感が充満する、広島県東部屈指の総合病院であり、自ずと筆者のモチベーションもヒートアップしました。
さて、その圏域(通称・尾三=尾道・三原の略称)には医師少数区域として2カ所の離島、尾道市百島と三原市佐木島があります。各々に診療所があり、他県から移住して来られた某医師が両方の所長として、〝赤ひげ先生〟よろしく島民医療を一手に引き受けて、ご自身でヘリコプターやボートを操縦して両島間を飛び回っています。筆者にはまさに「目から鱗が落ちる」出会いでしたが、初期研修医の地域医療研修指導にも強い関心と熱意をお持ちでしたので、尾道総合病院は1週間の滞在型研修をお願いしています。その御仁の御活躍に敬意と感謝を示す一方で、当該圏域の地域医療を守るためには一個人の頑張りに頼るのではなく、当院を含む医療圏域全体の連携による体制構築が必要であると改めて痛感する機会でもありました。
尾道総合病院の佐木島診療所(後列右から3人目が田妻氏)
その構想の手始めに、離島診療の支援を尾道総合病院が行うことにしました。孤軍奮闘する〝赤ひげ所長〟の要望もあって開始した支援ではありますが、尾道総合病院の院長自らが出向くこと、加えて同副院長や名誉院長など病院トップ陣が率先して実践することで、私たちの本気度を示すとともに若手には負担をかけないスタンスを原則として院内に提案したところ、当該の幹部たちも賛同、彼らのキャリアに基づく〝人としての完成度〟のお陰で、島民の皆さんとも素早く和やかなつながりを築けたと感じています。その副次的な効果として、若手にもベテラン幹部の健全なマインドが目に映ったのではないでしょうか。病院が一体感をもち、同時に新たな社会貢献ができていること、それらが広島県の認識されるところとなり、期せずして「へき地医療拠点病院」なるお墨付きを頂くことになりました。以前から近隣の中小公的病院を手術や夜間診療で支援していた背景が加味されてのことですが、当該圏域における尾道総合病院のプレゼンスの高まりが加速するターニングポイントでした。
もとより、厚生連は公的病院であって公立ではないので税の繰り入れはありません。従って病院運営の健全化は不可避です。その観点で地域医療支援のテコ入れに基づく、県行政からの高い評価とDPC係数改善は想定外の喜びでした。尾三圏域でのプレゼンスも高まり、COVID―19(新型コロナウイルス感染症)対応においても尾道総合病院からの様々な提案に同圏域内の医療機関が真摯に耳を傾けてくださる状況になりました。当院が提案したリモート会議は行政・医師会・近隣基幹病院を巻き込むネットワークとして機能し、当時のコロナ対応の迅速かつ効率的な戦略の立案と履行に極めて有効なプラットフォームとなりました。その延長線上に地域医療構想への展開があり、同圏域では比較的大掛かりな統合事案2件の成立と相まって、同県内での注目度も高まりました。
さて、私どもは2023年3月末に院長職を定年退職し名誉院長の称号を戴く栄に浴しました。19年に広島大学から教授職とのクロスアポイントメント(兼務)で尾道総合病院院長に着任してからの4年間、地域医療への新しいスタイルの参入と連携の構築、そして健全な病院運営への積極改革など、実社会に貢献する価値ある機会を得て心より感謝しています。現在、広島大学名誉教授および客員教授として大学院と医学部生の講義、日本病院総合診療医学会理事長として日本の将来を担う専門医の育成、そしてJR広島病院理事長兼病院長として広島県行政とともに2030年のメガホスピタル新設に向けて新たな社会貢献に努めておりますが、尾道での4年の有益な経験に感謝しています。
【略歴】
たづま・すすむ
1955年7月生まれ。1980年3月山口大学医学部卒業。2001年9月広島大学内科学第一講座助教授。03年4月広島大学病院総合内科・総合診療科、大学院病態薬物治療学講座教授。21年2月広島大学名誉教授。21年4月広島県厚生連尾道看護専門学校校長兼任。23年3月広島県厚生連尾道総合病院・病院長定年退任、名誉院長付与。
【推薦の言葉】
院長は総合診療医
広島大学総合内科・総合診療科教授、臨床実習教育研修センター長などを務めた田妻氏は、2019年にJA尾道総合病院の病院長に就任し、広島大学での経験をもとに様々な取り組みを実践された。
高齢者は、複数の慢性疾患を抱える患者が多く、糖尿病や認知症などの慢性疾患が増える傾向にある。そうした患者を日常的に診るには、特定領域に特化した専門医よりも、全人格的なケアに対応できる総合診療医が適切であるとされる。多くの厚生連病院のある地域には、子どもから高齢者まで、あらゆる患者を1人で診られる総合診療医が必要な状況にあり、また、総合診療医が、問診や身体診察で診断を絞り込み、必要最低限の検査で診断を確定すれば過剰な検査の削減につながる。田妻氏は、尾道総合病院での診療をはじめ、特に、医師不足となっている尾三医療圏島しょ部の対策として、百島(尾道市)や佐木島(三原市)に率先して診療に出向き、住⺠との信頼関係を重要視した取り組みを行い、同医療圏の医療体制を構築した。
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