JAの活動:【2024年新年特集】どうする食料・農業・農村・JA 踏み出せ!持続可能な経済・社会へ
【提言2024】農の営みこそ命の絆 東京大学名誉教授 神野直彦氏2024年1月15日
2023年、世界は地球沸騰化の時代に突入、地上ではロシアのウクライナ侵攻が続き、さらに中東情勢も深刻化、混迷と対立が深まるなかで2024年を迎えた。本紙新年特集は「踏み出せ! 持続可能な社会へ」をテーマに、世界情勢と日本の未来を見越して、農政をはじめとした政治、政策、そして農業協同組合への提言を幅広く識者に発信してもらう。
東京大学名誉教授 神野直彦氏
私たちの目の前では今、人間の生命を育む二つの絆を残酷に破壊していく悲劇が繰り広げられている。この二つの絆とは自然と人間との生命の絆と、人間と人間との生命の絆である。農業の営みとは、この二つの人間の生命活動の絆を結びつける営みなのである。
ウクライナの野で、さらにはパレスチナの野で、というよりも世界のいたるところで、戦いの太鼓が打ち鳴らされ、人間の生命活動の二つの絆を打ち砕く野蛮な行為が所狭しと演じられている。しかし、それは同時に、二つの絆を結びつける農業の営みを破壊する行為であり、人間の生命活動の持続可能性を否定する悲劇でもある。
どうして人間の生命活動を否定するような悲劇が生じてしまったのかは、誰もが理解しているはずである。それは人間の社会のあらゆる領域に、市場経済の競争原理を行き渡らせれば、「幸せな社会」が到来すると信じ込まされ、「競争社会」を目指したからである。競争原理では他者が幸福になれば、自分は不幸になってしまう。
ところが、人間の生命活動は他者が幸福になれば、自分も幸福になり、他者が不幸になれば、自分も不幸になるという協力原理で営まれている。それだからこそ、人間の生命活動は、人間と自然、人間と人間という二つの絆に抱かれて営まれている。
敢えて繰り返すと、農業の営みは人間の生命活動の二つの絆を結ぶ営みである。したがって、対立し憎み合う市場経済の競争原理とは、そもそも農業は調和しない。そのため農業に市場経済の競争原理を無理矢理に強制すれば、協力原理と調和する農業の営みは持続困難となる。農業の営みが持続困難になるということは、人間の生命活動の持続可能性が失われていくことにほかならないのである。
コロナ・パンデミックを経験して、誰もが持続可能にするのは人間の生命活動だということを学んだはずである。そのために農業の営みを持続可能にする必要があることも理解できたはずである。新しき年の幕開けとともに、この真理をもう一度、かみしめて歩き始める必要がある。
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