JAの活動:食料・農業・農村 どうするのか? この国のかたち
石破茂衆議院議員に聞く(2)「農協はもっと政治運動を」【食料・農業・農村/どうするのか? この国のかたち】2024年7月12日
25年ぶりに食料・農業・農村基本法が改正され、新たな農政に期待が高まっている。「この国のかたち」を考える本シリーズ、今回は農相も務めた石破茂衆議院議員に農政と農協のあり方を聞いた。聞き手は谷口信和東大名誉教授。
石破茂衆議院議員に聞く(1)「農業所得と自給率に国費を」から続く
衆議院議員石破茂氏
谷口 「安ければいい」という風潮は何なんですかね。
石破 たぶん、三波春夫先生が悪いのであって(笑)、「お客さまは神様です」という言葉が国中に広まった。三波先生は、ステージに立つときは「お客様はみんな神様だ」という言葉を、心を清めて歌うという意味で言ったのであって、「安ければいい」という意味ではなかったのですが。
JAに関わる新聞ですからはっきり言いますが、「一人は万人のために、万人は一人のために」という精神は生きているのでしょうか。儲からなくなったら農協のスーパーは撤退する。ガソリンスタンドも撤退する。これは協同組合精神とは違う気がしますが。
谷口 まあ、一般企業の精神ですね(笑)。ちょっと全中などは静かになっちゃったのかな。与党と仲が悪くないし。
石破 与党と一体化してどうするんですか。最近は労働組合まで与党と一体化して。もっと政治運動をしていい。今の日本では、みんな「自分が」「自分が」。社会のため、人々のため、次の時代のため、というきれいごとがもう少しあってもいいのに、と思います。
谷口 今春、私も選考委員を務めている農水省の飼料用米多収コンクールがありました。やっと今年、10aあたり単収900キロを超える事例が出てきました。とろが、この段階で飼料用米多収の奨励はもういいとコンクールが打ち切られかけたんです。ところが反対が広がったんでビックリしたことに継続になったんです。これは驚きです。
実は水田をつぶして畑にして、畑で麦、大豆、子実トウモロコシを作るという方向に農政は舵を切っていて、そっちの方が単収も高いし自給率も上がるというのです。しかし日本は、石破さんもおっしゃるように水田がベースの国なので、水田をもっと生かすところから考えるべきじゃないかと思うのですが。
石破 飼料用米の政策的位置にはいろいろな議論があります。私、ラーメン議連の会長もしているのですが、外国産麦で作ったラーメン、国産麦で作ったラーメン、米粉で作ったラーメンを食べ比べたことがあります。20~30年前だと米粉ラーメンなんて食べられたもんじゃなかったんですが、今はいけます。
谷口 小麦は戦後に普及した農林61号が70年間にわたって優良品種でした。品種改良がほとんど進んでいなかった典型です。農業政策は焦っちゃだめなんで、長期戦略が必要です。畑で作る小麦は元々の畑で作ってほしいと思います。
農産物価格問題についてはどんなふうになりそうだと思っていますか。来年の国会に新しい法律を提出して「農産物価格に生産コストを反映させる」という話になっていますが。
石破 国費を投入する価値はいずこにありや、ということだと思うんです。直接所得補償がWTOの枠組みではセーフの政策だと思っているのですが、民主党が戸別所得補償を出した時にさんざん罵倒したのは私たちなので、その反省も踏まえ、努力した人が報われるための直接支払いとは何なのか、という話だと思うのです。農業者の所得増大と自給率の向上に資するものでないと、国費を投入しちゃいけない。PDCAサイクル的な検証のシステムを作っておく必要もあります。
谷口 最後に、これは私の希望なのですが、立ってください!
石破 立っていいことなんかないですよ(笑)。議員になって総理大臣を19人見てきましたが、幸せになった人は誰もいません。
谷口 それでも、求められる人はいる。
石破 それは天命ですね。
谷口 勝手なことを申しました。今日はありがとうございました。
(インタビューを終えて)
▼17年、18年に次いで3度目のインタビュー。今回が最も短時間▼渦中の人だけに来訪者が溢れていたからだ▼(さすが!その一)筆者とは微妙に立場は異なるが自給力を重視する考え方はほぼ首尾一貫していた。ブレが少ない政治家だ▼(さすが!その二)JAも労働組合も与党と一体化しては存在意義がない。それぞれがもっと政治運動をせよとの意見に共感。意見の異なる者が合意に至る道筋が民主主義の原点だとの哲学がそこにある▼(さすが!その三)腹が減っては、戦はできぬ。防衛費の膨張VS農水予算低迷。食料安保の話なのに変だよねという議論の不在を喝破。さすがに、石をも破る政治家だと改めて認識した。(谷口信和)
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