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JAの活動:食料・農業・農村 どうするのか? この国のかたち

キーワードは「分散型社会・ネイチャーポジティブ・若者」 広井良典氏【食料・農業・農村/どうするのか? この国のかたち】2024年7月29日

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2023年1年間に生まれた日本人の子どもの数は約72万人で1899年の統計開始以降、もっとも少なくなった。人口が減少する「この国のかたち」はどうあるべきか。広井良典・京都大学人と社会の未来研究院教授が提言する。

人口減少が進むこれからの日本における食料・農業・農村をどのような視点で考えればよいだろうか。ここでは、「①地方分散型社会②ネイチャーポジティブ③若者」という三つの切り口を中心に私見を述べてみたい。

■AIが示す「地方分散型社会」

広井良典 京都大学こころの未來研究センター教授広井良典
京都大学人と社会の未来研究院教授

私はここ数年、AIを活用した日本社会の未来に関するシミュレーション研究を行ってきた。具体的には、2016年に京都大学に設置された「日立京大ラボ」との共同研究として、「2050年、日本は持続可能か」という問いを出発点とする研究を進めて結果を公表するとともに、それ以降多くの自治体(長野県、兵庫県、岩手県、真庭市、福山市、山口市等)と同様のシミュレーションを行い現在に至っている(拙著『人口減少社会のデザイン』参照。また以上の内容の多くは各自治体等のホームページ上で閲覧可能)。

2017年に公表した最初のバージョンでは、日本社会の現在そして未来にとって重要と考えられる約150の要因(人口、経済、高齢化、エネルギー等)に関するモデルを構築し、AIを用いたシミュレーションにより2050年に向けた約2万通りの未来シナリオの予測を行い、分析を行った。分析にあたっては、①人口、②財政・社会保障、③都市・地域、④環境・資源という4つの領域の持続可能性と、雇用、格差、健康、幸福という4つの領域に注目した。

シミュレーション結果の要点をごく簡潔にまとめると、それは次のような内容だった。すなわち、2050年に向けた未来シナリオとして主に「都市集中型」と「地方分散型」のグループがあり、その概要は以下のようになる。

(a) 都市集中型シナリオ

主に都市の企業が主導する技術革新によって、人口の都市への一極集中が進行し、地方は衰退する。出生率の低下と格差の拡大がさらに進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下する一方で、政府支出の都市への集中によって政府の財政は持ち直す。

(b) 地方分散型シナリオ

地方へ人口分散が起こり、出生率が持ち直して格差が縮小し、個人の健康寿命や幸福感も増大する。ただし地方分散シナリオは、政府の財政あるいは環境 (CO2排出量など)を悪化させる可能性を含むため、このシナリオを真に持続可能なものとするには、細心の注意が必要となる。

以上がシミュレーション結果の概要で、研究を進めた私自身にとってもやや予想外だったのだが、AIによる日本の未来についてのシミュレーションが示したのは、日本社会の持続可能性を考えていく上で、「都市集中」――とりわけその象徴としての東京への一極集中――か「地方分散」かという分岐ないし対立軸がもっとも本質的な分岐点であり、しかも人口や地域の持続可能性、そして健康、格差、幸福(ウェルビーイング)の観点からは、都市集中型よりも地方分散型のほうがパフォーマンスがよいことが示されたのである。

思えば先般、2023年の日本における出生率が過去最低の1.20となったことが示され、また47都道府県のうちで東京の出生率が特に低く、その出生率が1.0を切ったことが報道された。つまり皮肉なことに"東京への集中が進めば進むほど日本の人口減少が加速する"ことになるのであり、こうした点からも「地方分散型」社会を実現していくことが日本全体にとっての大きな方向であり、その重要な柱として農業・農村の振興とその発展が急務となっているのである。
 
■ネイチャーポジティブ・自然資本と農業

一方、「ネイチャーポジティブ」についてはどうか。2020年初めに環境省に「次期生物多様性国家戦略研究会」が設けられ、委員として参加する機会を得た。同研究会の議論は中央環境審議会に引き継がれ(私も継続参加)、昨年(2023年)3月、2030年に向けた「生物多様性国家戦略」がまとめられた。

基本的な確認となるが、一般に"地球規模の環境問題"として論じられている話題には大きく二つあり、それは温暖化あるいは「気候変動」に関するテーマと、生物種の減少や森林・生態系の劣化など「生物多様性」に関するテーマである。以上の2つのテーマのうち、これまで社会的な関心が特に高いのは前者だったわけだが、近年においては後者(生物多様性、生態系)への関心が急速に拡大しているのである。私自身、生物多様性あるいは生態系のありように関する問題のほうが、ある意味で気候変動よりも根源的な"危機"であり、早急かつ優先的な対応が求められているテーマと考えてきた。そして農業はまさに「生命」の根幹に関わる領域として、生物多様性や生態系をめぐるテーマに大きく重なっている。

そしてすでにご存じの読者も多いと思うが、上記の新たな生物多様性国家戦略において、重要なコンセプトとして位置づけられているのが「ネイチャーポジティブ」や「自然資本」というコンセプトである。こうした点に関し、新国家戦略の中に次のような一節があることに注目したい。

「近年我が国では本格的な少子高齢化・人口減少社会を迎えており、特に地方においては農林業者の減少等により里地里山の管理の担い手が不足し資源が十分に活用されないことが、国内の生物多様性の損失の要因の一つになっている。同時に、海外の資源に依存することで海外の生物多様性の損失にも影響を与えている。すなわち、本来活かすべき身近な自然資本を劣化させながら、その変化を感じ取りづらい遠く離れた地の自然資本をも劣化させている。」(強調引用者)

すなわち日本の場合、生態系の危機に関して通常論じられる「過剰伐採」「過剰開発」ではなく、むしろその逆の「アンダーユース」あるいは「自然資本の未利用」の問題が大きいのだ。言い換えれば、こうした生態系や生物多様性の観点からも農業や農村における「未利用ストックの活用」が重要なテーマになっているのである。それを改善していくためには、先ほどAIシミュレーションのところで述べた「地方分散型」という方向がまさに重要となる。そして、そうした方向性において重要となるのが上記の「ネイチャーポジティブ」や「自然資本」というコンセプトであり、それを踏まえた様々な政策展開なのである(東洋経済オンラインでの拙論「「デジタルの先」の中心テーマ「自然資本」とは何か」」参照。また今年(2024年)3月に環境省・国土交通省・農林水産省・経済産業省がまとめた「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を参照されたい)。

■農業と若者支援

最後に「若者」について。ここ10年余り、ゼミなどの学生を含め、若い世代が社会的課題への関心を強め、また「地域」や「ローカル」への様々な積極的関与を行うようになっていることを強く感じてきた。

たとえば神戸大学在学中に新たな会社を立ち上げ、有機農業を軸としつつ、農業従事者の増加を目指して関連分野と連携した多様な事業を進めている「日本農業株式会社」の大西千晶氏はその象徴的な例の一つである。

「持続可能性」とは本来、その言葉を最初に世界に提起した国連のブルントラント委員会報告『われら共有の未来』(1987年)で提起されているように、将来世代のことを考えるということがその本質である。しかし国際比較を行うと日本では若い世代への支援が非常に低い。「若い世代に資源や資金が回る仕組み」をつくっていくことが日本社会の持続可能性にとって急務であり、たとえば農業と若者に着目した「農業・若者版ベーシックインカム」といった政策を議論していくべき時期なのではないか。

本稿で述べてきた「地方分散型社会、ネイチャーポジティブ、若者」という観点を軸に、農業における新たな政策展開と実践を進めていくことが今何より求められているのである。

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