JAの活動:食料・農業・農村 どうするのか? この国のかたち
【座談会】茨城県JAトップが語る課題と挑戦 「行動力」で夢ひらく(1)【食料・農業・農村/どうするのか? この国のかたち】2024年7月30日
この国をかたちづくるのは北から南までの多様な地域農業の取り組みだろう。JAもそれぞれの地域特性をふまえ、それを「強み」とし、農業振興を図ることが将来の担い手を育て食料の安定供給を実現することになる。農業産出額全国3位を誇る茨城県のJAトップが課題と今後の挑戦への思いを語った。
多様な農業の輪 次代の糧に トップレベルの品目生かせ
【出席者】
JA茨城県中央会会長 八木岡努氏
JA常陸組合長 秋山豊氏
JAやさと組合長 神生賢一氏
本紙客員編集委員 先﨑 千尋氏
司会:文芸アナリスト 大金義昭氏
個性鍛え県域ブランドに
JA茨城県中央会会長 八木岡努氏
大金 国内農業は言うまでもなく厳しい状況ですが、茨城県は北海道、鹿児島県に次いで農業産出額全国3位で、JAもそれぞれの地域特性を生かして多彩に奮闘しています。今日は「独立不羈(ふき)」の精神に富み、その先陣を務めているお三方に意見交換していただき、この特集号で現地を取材した(4~6面)先﨑さんにもコメントをお願いしたいと思います。
茨城県の「強み」はどのあたりにありますか。まずは八木岡さんからどうぞ。
八木岡 茨城には17の単協があります。生産量では全国1~3位を誇る作物が29品目(1位だけでも14品目)ある。これは大きな「強み」ですが、さらに生産の拡大を考えると、単協単位では優先順位が絞れない。JA水戸では生産部会が100近くある。ピーマンであれメロンであれ、農協ブランドではなく県域で「茨城産ブランド」を創っていきたい。
JA常陸組合長 秋山豊氏
秋山 茨城といっても多様で、いろんな農業がある。北限のミカン、南限のリンゴ、そうした特殊性ある産地がいくつもあるのが「強み」ですね。
問題は水戸から北です。県政でも「県北振興」が課題で、そこがJA常陸のエリアなのです。観光農園を中心にリンゴ・ブドウ・梨・栗、山沿いの繁殖・肥育牛、細かいところではソバやコウゾ、ミツマタとか。中山間地域の小規模多品目地帯は所得が低く、日立や水戸に働きに出る兼業地帯です。
後は、農業に対する強い意欲ですね。私の親父は八木岡会長のお父さんと同級ですが、昭和一ケタの人たちはすごい。身体も頑健で農民魂もあり、それは延々受け継がれている。
神生 秋山さんからも出ましたが、気候的に温暖で山があり川が流れ、海もあって日本農業の縮図です。地域ごとに「適地適作」が進み、多様性が豊かです。精神性を言えば「負けず嫌い」で一つのことに執着しない。隣にいいものがあるとすぐに手を伸ばす「飽きっぽさ」もある。ある時ミカンがいいなとなると広がり、売れなくなったり病気になったりするとたちまち手を引く。シイタケが増えたりキュウリが伸びたり......。(笑)
大金 「目先が利く」?
神生 チャレンジングだけど、飽きっぽいから定着しない(笑)。産地化は大変です。
"つながり"で人材育成
大金 今からちょうど160年前の幕末に、ご存じの藤田小四郎が筑波山で決起しました(天狗党の乱)。その内乱で揺れた茨城は守旧派も革新派も人材を失い、明治維新の主導権を薩長雄藩に握られた。当時の轍(てつ)を踏んではいけない(笑)。一騎当千のJAが第30回大会を機に"統一戦線"を組み、国内農業の危機を突破する先例を示していただきたいのですが、先﨑さんはいかがですか。
先﨑 茨城は広く肥よくな農地に様々な作物がある。他の大産地と異なり、首都圏にあってその台所を支えている。これが最大の「強み」で、この強みを生かして危機突破を図ってほしい。
大金 大会に向けて茨城県は農業分野で四つの優先課題を掲げ、組織討議を進めている。
八木岡 「担い手の確保・育成」「環境に配慮した農業の展開」「高付加価値化(ブランド化)」「食料安全保障強化への対応」ですが、17農協の特色や「強み」を消さないこと。むしろその個性をそれぞれに鍛えて磨いてもらう。それが大前提です。担い手は、その地域でその地域を担ってくれる人材を育てる。新しく入ってきた人たちにも寄り添い、一人ひとりが夢や抱負をかなえられるようにする。一方、寄り添う人材も育て、「協同活動」に打ち込める環境・条件をつくる。17農協はそうしているし、私も支えてもらっている一人です。
神生 JAやさとには先輩たちがつくってきた新規就農研修制度「ゆめファームやさと」や行政と手を組んだNPO法人「アグリやさと」などがあり、先輩が後輩を育てながら地域のリーダーを育ててきた。そうした「つながり」の中で今後も担い手を育てていけるかですね。
JAやさと組合長 神生賢一氏
秋山 TPPをはじめとするメガFTA時代だからこそ、できるだけ現場に近いところで市町村や給食センター、消費者や生協の皆さんなどと手を結び、輸入農畜産物に対抗する「ローカリゼーション」を基本スタンスに現状を突破していきたい。また、今なら「みどりの食料基地・茨城」という合言葉でかなりの影響力が構築できる。「首都圏の食料基地・茨城」という旗をベースに、新たな旗を打ち立てられないかと考えています。
JA常陸の組合員は3万人で、直径120kmもあるような広域農協だから「5地区経営責任制」を採っている。5地区で経営を黒字化して安定してきたのですが、農協経営の安定だけでは農家や農業を守れない。営農指導員と一緒に夢中になって頑張る農家、その関係を支える農協の組織・事業とがマッチングすれば、まだまだ産地は守れる。
神生 そうした「つながり」で担い手を育て守っていく方法と、行政や農協が新たな仕掛けをしてモデルをつくり主導する方法とがある。JAやさとでは、外部から移住してきた新規参入者が組合員になり、その人たちが先輩から学び、「育ててもらう意志」と「育てる意志」とが一つになって、それがたまたま30年間続いてきました。
大金 相互に苦心があって、積み重ねのたまものですね。
本紙客員編集委員 先﨑 千尋氏
先﨑 最大のポイントは「農業で食えるか」「食べられるか」ということです。トータルで言えば今は農業で食べられない。所得を時給換算すると最低賃金より遥かに低くなる。だから後継者もいない。所得をどう増やすか。鹿行地域ではピーマンもカンショもメロンも、十分に生活できる所得が得られています。
他方、常陸農協のような県北は条件がまったく異なる。枝物部会のように、新しい視点で地域特性を生かした農業のスタイルを見つけ出すことが農協の役割です。
大金 さらには、生産法人など大規模経営体をどう取り込めるか。JAから積極的に接点を求めて広げていかないと、系統利用率は上がらないのではないか。これはJAのトップ・マターのように思うのですが。
八木岡 前回のJA大会で「持続可能で高付加価値な茨城農業を実現しよう」を掲げ、その基本スタンスは今回大会も引き継ぎます。茨城県の農業経営士協会や農業法人協会の話も聞いてきました。資材を供給する、農産物を集荷する。JA全農が全国流通を展開する中でハブ基地をつくり、一部冷凍やリレーをして運ぶとか、小分けにするとか、実需者の要望に合わせた形態をつくる。そうした施策をJA全農とタイアップして進めることを提案しています。
秋山 法人を「取り込んでいく」段階はとうに過ぎていますね。常陸大宮市には下山グループが運営する「瑞穂牧場」がある。日本一の肥育牛グループの"本山"です。さらに干し芋は民間企業が主流で系統のシェアは3%。そのくらい法人経営と、われわれが守ろうとしている家族経営との格差は開いている。
一方で、先ごろ入って来た有機農業法人が、巨大なビニールハウスをつくったけれども水がないというので農協の土地と交換し、ようやくパイプラインに水が流れた。反対もあったけれども、同じ農民同士じゃないか、助け合おうということもむろんあります。
神生 JAやさとも同様です。法人化した農業者がいますが、こちらから訪ねて行って関係を築いている。農協がまずオープンな姿勢を持ち、できるところから連携・協調すべきです。
秋山 笠間の有機法人「カモスフィールド」は、一般の組合員からみると他所から入ってきて3町歩もの農地を借り、資材は農協を一切使わない。地域に反発もありますが、これからの時代は、そうした経営体も受け入れていかないと農業地帯が守れない。
オーガニック給食だって、農協だけじゃ賄いきれない。だから、「葉物はカモス、土物は農協」と決め、作物を分担した。土づくりには感心しました。売り先がないというので、農協の給食事業に入ってもらいました。
それと、担い手の確保を意識し過ぎてはいないか。生計が立てば、新規に入ってくる人もいる。先﨑さんが言われたように、食っていけるかどうか、最初の2~3年、そこを乗り切れれば定着するし、うまくいかずに離れる人もいる。
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