JAの活動:食料・農業・農村 どうするのか? この国のかたち
【座談会】茨城県JAトップが語る課題と挑戦 「行動力」で夢ひらく(2)【食料・農業・農村/どうするのか? この国のかたち】2024年7月30日
この国をかたちづくるのは北から南までの多様な地域農業の取り組みだろう。JAもそれぞれの地域特性をふまえ、それを「強み」とし、農業振興を図ることが将来の担い手を育て食料の安定供給を実現することになる。農業産出額全国3位を誇る茨城県のJAトップが課題と今後の挑戦への思いを語った。
【座談会】茨城県JAトップが語る課題と挑戦 「行動力」で夢ひらく(1)から
左から本紙客員編集委員・先﨑千尋氏、JA常陸組合長・秋山豊氏、
JA茨城県中央会会長・八木岡努氏、JAやさと組合長・神生賢一氏
改正基本法に実効性を
大金 「食べられる農業」にするためにも、「適正価格」(再生産価格)と政策的な所得保障(直接支払い)は欠かせない。
八木岡 「改正食料・農業・農村基本法」が施行されました。しかし、自給率も明記せずに国内生産が縮小していくなかで、安定した輸入を確保しなければならないという言い方なんですね。確かに付帯決議が13項目あって、私たちの考えていることが網羅されてはいる。一方、少し前の3月29日に茨城県では「茨城県食と農を守るための条例」が施行された。国内初の県条例で、茨城県は食料を安定的に供給する使命があるとして、農業の持続的な発展と県民の豊かな食生活の実現を目指して制定されました。
農協は現場の意見を取りまとめ、県にも国にも本県選出の国会議員にも要請し、農業経営のやりやすい環境・条件の整備を求めていかなければならないと思っています。
先﨑 付帯決議に拘束力がないのが問題です。
八木岡 おっしゃる通りで、だからこそしっかり要請活動に取り組み、付帯決議が今後、関連法の条文に織り込まれるようにしていく運動が必要です。
神生 肥料も農薬も環境に悪影響を与えていると言われているが、その点はもっと自信を持ち、「農業をしていること自体が環境保全なんだ!」とアピールした方がいい。「田んぼの中干しを1週間延長すると温暖化防止に何%寄与する」と研究機関あたりが言うけれども方向としては違う気がしますね。
「ローカリゼーション」の底力発揮
秋山 管内に11市町村ありますが、常陸大宮市と連携して学校給食を核に消費者の皆さんも巻き込んだ地域農業づくりをしたい。徐々に輪が広がってきました。壮大な理論よりも、いかに現場で「有機」を広げるか。現場の課題を拾い、「それだったら、これがありますよ!」という手を貸してほしい。
もう1点。米は年に700万tの消費量なので、もみで1年分くらいの備蓄をすべきだと言ったら、「農水省では備蓄論がタブーだ」という話を耳にした。予算でがんじがらめの政府米備蓄では緊急時に役立ちません。
八木岡 食料安保の、さらに基本は「食育」「食農教育」でしょう。食べ物の大切さ、地産地消、旬産旬食の大切さ。食料や医療は国の一番の基本なんだということを私たちだけでなく、子どもたちを含めた一般の人たちにも分かってもらいたい。
JA茨城県中央会のキッチンラボ「クオリテLab」はそのために作り、お米の食べ比べや旬の野菜のおいしい食べ方などを体験してもらっています。対象にはジャーナリストや政界関係者、農水省職員なども含まれています。それがゆくゆくは「関係人口の拡大」として実を結ぶ。
大金 「医食同源」と言われるように、人間が生きていく上で食と医は不可欠ですね。秋山さんのところではJAの「子ども食堂」が注目されている。
司会:文芸アナリスト 大金義昭氏
秋山 農協の存続に、組合員から厳しい意見や批判を賜りながら支店を統廃合しましたが、「統合してもそれ以上に寂しくならない支店を!」という合言葉をつくった。集落に子どもの声がしない。子どもが集まるところをつくりたいと「子ども食堂」を始めたんです。ところがコロナ禍で子どもたちが集まれず、中高年層の料理教室になった。「レインボーサロン」でそばやケーキづくりや天然の「うなぎ祭り」などをし、60~70代の元気な高齢者が集まってきた。コロナ禍が収束して子どもたちを呼んだら盛況でした。子どもとその親世代と高齢者とが集まり、料理して食べる。子どもにご馳走する。できれば子どもにも調理させる。コミュニティーの再生などに、農協が直接関われたのは良かったですね。
消費者とともに地域創造
神生 茨城県生協連の会議があって、消費者の皆さんに「価格転嫁」をどう理解していただくかという話をさせていただきました。消費者の皆さんとの結びつきは茨城の農業にとっても重要です。
八木岡 前回の「国際協同組合年」だった2012年に「協同組合ネットいばらき」という協同組合のネットワークをつくった。2回目の来年は何をしようかと話し合っています。
秋山 「ネットいばらき」の活動で好評だったのが森林の下草刈りです。猛暑でスズメバチも出たんですが、協同組合同士で汗を流した。茨城は「独立自尊」の気風が強く、JAグループの中でも農協中央会のリーダーシップは容易でない......。(笑)
大金 専務理事を長く務めた前歴からのご発言ですか(笑)。リーダーシップは欠かせませんが。(笑)
秋山 幕末にはそういう人たちが皆死んじゃっている(一同大笑)。行動力はすごい。「結果を考えない県民性だ」とも言われますが......(笑)。組合長に就任した時に、支店の「協同活動」のために各支店に100万円の予算を組んだのですが、あまり機能しなかった。農協の名前のティッシュペーパーを配るとか(笑)、そんなことになってしまった。ところが青年部や女性部、枝物部会などに元気な動きが出てきたから、その人たちに予算と職員を充て、農業や地域を引っ張ってもらえばいいのかなと思いました。
神生 やっぱり「仲間づくり」が基本なのだと思うんです。苦労していると、そこにみんなが集まってくる。そのきっかけをみんなで共有し、県域で農協を拠点に「仲間づくり」をどのように広げていくか。JA大会の組織討議も、それをみんなで議論したい。
「有機といえば茨城」条例も
八木岡 「広報活動」でいえば、会長を仰せつかってから一番大事だと思って始めたのが「人の集まる場所」、この「クオリテLab」でした。シンポジウムから食べ比べまでイベントを開き、グループ以外の人たちにも使っていただく。たとえば「有機」の話だったら秋山さんなり神生さんなりが先陣を務め、後に続く人を育てていく。口で言うだけでなく、背中を見ていただくことも大事ですね。
神生 農協運動でいえば、職員にJA大会決議をいかに「自分事」として受け止めてもらうか。常勤・非常勤を問わず、役員の役割は大きい。労働組合との交渉でも、「要求だけでなく提案もしてほしい」という話をしているのですが、伝え方がまだまだ不足していると痛感しています。これからの課題です。
秋山 来たる11月には常陸大宮市で「全国オーガニック給食フォーラム」が開催される。テーマに「JAも一緒に給食を変えよう」というフレーズが入っていて、生協や有機農業の皆さんからは「JAに偏りすぎだ(笑)。今までは
"抵抗勢力"だったよね」と言われた。世間の目は農協に厳しい。だからリーダーは意識的に消費者や地域住民の皆さんの意見によく耳を傾け、新たな取り組みに挑戦していかなくちゃなんない。スピードは遅いかもしれませんが、「有機」も確実に広がってきました。
先﨑 茨城県には「東海第二原発」の問題もあります。この特集企画では県内各地の現場を取材し、座談会にも出席させてもらって、「まだまだ農協は捨てたもんじゃない」という意を強くしました。これまでとはちょっと「異なる風」が吹いています。
八木岡 先ずは何より、組合員の皆さんはもとより、いま農協で働いている人たちや農協との関係を持ってくださっているたくさんの人たちの未来を共に考え、食や農などに安全で安心して暮らせる豊かな地域社会を創っていく。そういう思いを共有する人たちを、ぜひとも増やしていきたいです。
【座談会を終えて】
「決議すれど実行せず」という言葉がJA大会にはついて回ってきた。しかし、もう四の五の言ってはいられない。農業は"絶滅危惧種"のピンチに立たされている。3年に一度の大会を機に現状を突破したい。
「茨城県人の陽気さ、単純さ、あまりものごとにこだわらない性格」は、県民性をあらわす茨城の「三ぽい」に由来する、とか。「怒りっぽい」「忘れっぽい」「飽きっぽい」。水戸には別の「三ぽい」~「理屈っぽい」「骨っぽい」「怒りっぽい」もある。断っておくが、これは私の説ではない。『県民性の人間学』(祖父江孝男著・ちくま文庫)からの引用だ。
私は同書にある「ウジウジとした内向的なタイプ」だから、「短気で熱情をたぎらせながら、目的まで突進する」茨城県人が好きだ。その行動力に憧れる。一騎当千の17JAが結束したら、できないことはない。
幕末から160年余を経た茨城県には、アグレッシブで個性的なJAをけん引する魅力的な人材が豊富だ。こたびは互いが互いを生かし合って大会決議に結集し、幕末の先人たちを乗り越える現代の「突破力」を全国に先駆けて展開していただきたい。
(大金)
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